【北京の夜】
ホテルには6時前に到着した。
立派な建物にちょっとびっくり。
ロビーも広く、日本でもこんな立派なホテルに泊まったことはない。
フロントまで陳さんが案内してくれ、チェックインもスムーズだった。
夕飯は、昼が遅かったので、8時にしてもらった。
俺とゴリは、精進明けと、朝飯をまだ食べてなかったから、
昼ガツガツ食べたので、まだお腹が減ってない。
ジャンヌも8時でOKだった。
陳さんが、昼に北京ダック食べたから、夕食の中華料理、
かぶらないようにお願いしてもらい、最後に出る食事が、チャーハンだったら、
またジャンヌが食べないといけないので、
できたらおかゆをお願いしてもらった。
陳さんとは、翌朝5時45分にロビーということでお別れした。
俺たちは客室へ。
ジャンヌも初めは俺たちの部屋へ一緒に入ってきて確認。
「ほー、ベッド広いじゃん。
ジャンヌ、あとからテーブルと椅子、持ってくるから」
「ええ、じゃあオズ、お隣の部屋へいってみるわね」
「おう、ゴリ、俺も隣いってくる」
隣の部屋も、中は全く同じだ。
俺はジャンヌのバックを奥に運ぶと、
あらためてツインベッドをみると、かなり広い。
ダブルベッドみたいだ。
どうせなら、ジャンヌと一緒のベッドで寝てみたいな。
もちろん指一本触れない自信はある。
きっとジャンヌのことだ、安心して俺の方を向いて、
寄り添ってくるきがする。
ジャンヌの方から
『オズぅ、一人でベッドで寝るの怖いから、一緒のベッドで寝て欲しいんだけど』
なんていってくれないかな。
「オズぅ、今晩我儘いってごめんなさい。私、入口に近い方でいいわよ」
俺ははっと我にかえった。やべやべ、また変な想像してしまった。
今晩この部屋に、俺と二人だけで泊まるのも、
ジャンヌは全然意識してないみたいだ。
もっとも夜の寝るときだけだし、隣の部屋にゴリもいるからか。
「ダメだよ俺が入口でないと。変な奴が入ってきたら、俺が護るんだから」
「え? オズ、変な人、入ってくるの?」
まいったな! ジャンヌの奴、心配顔してる。
ほんとに冗談が通じない。でも嬉しい。
「いや、カギ掛けるから大丈夫だけど、万が一ってことあるからさ」
「え? 万が一って、オズぅ、このベッド広いから、私一人で寝るの、
心配になってきちゃった。
だって、オズとだいぶ離れて寝るんですもの」
俺は内心『しめた』って思ったけど、ジャンヌは俺の下心なんか、
はなから疑ってないからいいけど、他の人が、
俺とジャンヌが一緒のベッドで寝たなんて聞いたら、なんにもなくて、
いくらジャンヌが了解したっていっても、俺の信用は丸つぶれになるだろう。
ここはぐっと我慢して、
「それならジャンヌ、俺、こっちの端っこで寝るから安心しろよ。
それに、万が一っていっても、普通ありえないから大丈夫だよ」
「ありがとうオズぅ。それなら私も、こっちの端で寝るわね。
あーよかった。
ねえオズぅ、ダブルベッドだったら、もっと広いでしょうから、
二人一緒に寝られるのに。
そしたら私、絶対安心だし、楽しそうだったのにね」
え? マジ?
目を輝かせ、無邪気に話しかけられた俺は、思わず返答に窮した。
「あ、あ、お、俺なら、あ、安心安心」
「そうよね。だから私、オズがいてくれて安心なの」
なるほど有り難いことだ。
「ジャンヌ俺、テーブル、隣の部屋に運ぶから、ちょっとドア開けて」
「はい、それなら私、椅子運ぶわね」
俺たちは8時まで集中して勉強した。
今回も、ジャンヌの整理ノートが役立っている。
8時から中華料理で夕食。それからそれぞれ風呂に入ってから勉強だ。
ジャンヌは自分の部屋へ、風呂入りに帰って、10時前に戻ってきた。
ジャージに着替えてきた。髪もさっきと同じだ。
俺が先に風呂に入って、ゴリは勉強の区切りのいいとこでやめて、
今風呂に入っている。
またジャンヌと二人きりになれた。ラッキー。
「ジャンヌお風呂で髪洗ったの?」
「ええ、髪ねえ、長いけど、毎日洗っているの。
私の髪ね、美容師さんから、細くてボリュームもそんなにないから、
すぐ乾くからいいわねっていわれたの」
「そっかー、俺、髪洗ったら、乾いてない髪、
肩にタオル乗せて乾かすのかと思ったんだ」
「ううんン、お風呂から上がった直後はそうするけど、
すぐにドライヤーで乾かしてしまうから。
乾いたら柘植の櫛で髪を梳いているの」
「そっかー、それでさっきと同じに見えるんだ。
いい艶しているし。かっこいいし」
「オズ、ほめてくれてありがとう」
「なんかさー、毎日大変だな。めんどくさくないの?」
「ううんン、ちっとも苦にならないわ。
だって髪って、女の命っていうでしょ」
「そっかー、ジャンヌって几帳面なんだ、
自分の髪に愛情っていうか、誠実って感じするな」
「わーオズ嬉しいぃ。
私ね、自分の髪、とても大切にしているの。
だから髪に対して愛情とか誠実っていわれると、
とっても嬉しいわ。オズぅ、ありがとう」
いやいや、ジャンヌって、手抜きがなくて、几帳面で、
ほんとにいい嫁さんになりそうだな。
俺は、ジャンヌが一生側にいてくれたら、
なんて幸せなんだろうって、空想してたら、
「オズぅ、自分だけずるーい。またニコニコして!
どんな世界にいっていたの? ねえ教えてくれるぅ?」
「あ、いや……、あのー」
ジャンヌの奴、俺の顔の正面に、亀のように首を伸ばし、
目をキラキラさせて俺に迫ってきた。
いつもと反対だ。
「オズぅ! 聞きたーい」
「あー、あのさぁ。ジャンヌって……すげー几帳面だなって……」
ジャンヌは表情で、小さくうんうんして、続きの言葉を待っている。
「そ、それに、手抜きしないし、すげーいい性格だなって……」
ジャンヌは誉められて、恥ずかしげに下を向いた。
やっと目を逸らしてくれた。
俺はその続きを言おうか言うまいか一瞬迷った。
同時にバスルームのドアがカチャっと開いて、
ゴリがバスタオルを持って、スッポンポンで出てきた。
「キャぁ!」
ゴリをちらっと見たジャンヌが、両手で顔を覆ってあわてて下を向いた。
「お! ジャンヌいたんか。悪い悪い」
「ジャンヌ、ちょっとそのまま、下向いてろよ。ゴリ、すぐ着ちゃえよ」
「おう、ジャンヌすぐだから」
ジャンヌは、顔を覆って下を向いたまま、耳まで真っ赤にして頷いた。
俺は思わず、
『ジャンヌ、ゴリのあれを見たのか』って聞きそうになってしまった。
「ジャンヌお待たせ、もういいよ。悪かったな」
ゴリはハーフパンツにTシャツだ。
「ごめんなさいモンチ、私声をかけないで……」
「ジャンヌもういいって、なあゴリ」
「いやー俺、オズだけかと思ってさ。
さあ勉強再開。12時までやって寝るか」
俺は11時頃、眠たくてたまらず、
「俺、ちょっとだけ休むから」って、ゴリが勉強している後ろのベッドで、
そのまま朝まで寝てしまった。
翌朝ゴリに起こされた。5時15分前だ。
昨夜の顛末はこうだ。
12時前に、ゴリとジャンヌがもう寝ようということで、
俺が爆睡してたので、ジャンヌが起こすの可哀そうだから、
自分がこっちの部屋で寝るからって。
ジャンヌの奴、すまなそうにゴリに寝る部屋替わってもらったそうだ。
俺の隣のベッドで寝て、ゴリがジャンヌの部屋で一人で寝たそうだ。
朝5時45分に陳さんが迎えに来るので、4時半起床ということで、
ジャンヌはもう隣の部屋で支度中だそうだ。
朝食は、機内食が出るので、起きがけで出発する。
用意が出来たら短めのお祈りをして、
早めにチェックアウトを済ませておくらしい。
俺は早速朝の洗面、支度に取りかかった。
5時半、俺とゴリは出発準備完了。
すぐにドアをノックされる。ジャンヌだ。
「おはようオズ、昨日はごめんなさい。
あんまりオズが熟睡していたから……」
「おっはー、俺、今朝ゴリに起こされて、あれって感じで、
俺の方こそごめん。
ジャンヌやっぱ女の子だから、
自分の部屋で寝たかったんじゃないかって……」
「ううん、だってもう、ただ寝るだけの時間だったんですもの。
モンチお待たせ」
ゴリがスマホから、神殿の水晶の画像を取り出して、机の壁際に置いた。
その前に三人が並んで座り、ジャンヌのリードで短いお祈りをした。
バックを持ってロビーに降りて行くと、
すでに陳さんが待っていてくれた。
「陳さんおはようございます。お待たせしてしまいましたか?」
「いえ、おはようございます。大橋さん、嬉しいニュースです。
昨日全人代で、これから中国、平和友好路線に方針変更、決定です」
「そうですか。よかったですね」
俺は陳さんへ、
「陳さん、それで昨日おっしゃってた、中国救う、平和の使者、
紫の天使はどうなったんですか?」
「中国救う、平和の使者、それなんですか?」
「あのう、陳さんが昨日、紫着た天使が舞い降りるとか……」
「紫、着た、天使ですか?」
ゴリが、
「オズそれ、別の国の話しだよ!」
陳さんが昨日話したことはなんだったんだろう。
「一つ不思議なこと起きました。
全人代、開始1時でした。
1時から20分間、テレビ放送、中断されました。
その間の記憶、誰もいません」
やっぱ福岡の時と同じだ。神様の配慮だろう。
人民大会堂での俺たちのミッションは、老子も含めて、
みんなの記憶からは消し去られているようだ。
ゴリがチェックアウトの手続きを終えると、呉さんの運転で北京空港へ。
出国手続きは、一般人と同じ扱いだ。
ここで陳さんたちとお別れした。
事前に陳さんから、出国手続きには時間がかかることを聞いていた。
やはりだった。早めに到着して正解だ。
帰りは8時30分発の成田行きのJALだ。
飛行機に乗り込むとほっとした。
離陸するともっと安心感が広がって、俺は、
今まで自分では気がつかなかったが、やっぱ緊張していたのが判った。
隣のジャンヌも、肩の力が抜けて行くのが判った。
「オズ、モンチ」っていって、ジャンヌが両手を交差させ、
左手を俺に、右手をゴリに差出した。
俺は左手でジャンヌと握手し、右手でゴリと握手した。
三人ミッションの成功を確かめ合うように、がっちり握手した。




