【万里の長城】
俺たちは階段を降りながら、
「先導車まだ停まってるな。
陳さんもまだ休んでるみたいだな」とゴリ。
車に近づくと、運転手の呉さんが陳さんを起こしている。
陳さんが目覚めないので、呉さんが後ろのドアを開けてくれた。
「シェイシェイ」
俺が先に乗り込みジャンヌが真ん中に座った。
「ジャンヌ、陳さんも覚醒状態か?」
「そうみたいね」
「陳さん」
ジャンヌが声を掛けながら、後部座席から左手を陳さんの頭上に置き、
右手を額にあて、
「陳さん」と再び声を掛けるとやっと目覚めたようだ。
まだぼーっとしている陳さんへ、呉さんが話しかけた。
陳さんが頷くと、
「これから自由行動です。天安門広場出たら、政府の先導ありません」
「そうですか、わかりました。
陳さん、これから昼食とりたいんですけど、
北京料理お願いしていましたが?」とごり。
「そうです、お勧めです。大橋さん、用事済みましたか?
人民大会堂、入る無理でしたね?」
「あ、はい」
「陳さん、今日は警備が厳重で、近づけませんでしたよ」とごり。
「そうでしょ、大会、今日一日で終わります。
天安門広場、人民大会堂、見学、もういいですか?」
「結構です。陳さん、では、お勧めの北京料理お願いします」
「はい、わかりました。これから北京で有名、北京料理の店、行きます」
陳さんは車から降りると、前に泊まっている先導車に、何か話しに行った。
戻ってきて、呉さんへ何か話しかけると、呉さんは頷いた。
先導車がゆっくりと動き出し、俺たちも後に続いた。
詰所脇の白い柵が開かれ、先導車が外に出て車を脇に寄せ、
窓から手を出し、行けという合図をしている。
なるほど、これからは自由行動ってわけか。
「陳さん、確認なんですけど。
昼食は、旅行のミールクーポンでお願いしてるんですけど、
僕たち3人の他に、通訳兼案内人の陳さんと、車の運転手の呉さんも、
一緒に食べて頂くように手配されていますか?」
「はい、ありがとございます。5人で予約しています」
ジャンヌが気を利かせて、お母さんにお願いしたそうだ。
「店、北京ダックの有名です。北京料理のコースです」
「俺、北京ダックなんて食べたことないから、陳さん、
その店で北京ダック食べられるんですか?」
「もちろんです。みんな北京ダック食べにきます」
「やったね。ジャンヌは食べたことある?」
「ええ、私は横浜の中華街で、でもだいぶ昔だから、
北京ダックは北京が本場なんでしょうから。私も楽しみよ。モンチは?」
「俺もないな」
「陳さん、北京ダックはたしか、焼いた皮を餃子みたいな皮で、
ネギか野菜かなにかと挟んで食べた記憶があるんですけど」
「そうです。ここ北京も同じです」
車はすぐに繫華街に入った。
「ここは『王府井』といって、北京で一番賑やかです」
俺たちと陳さんは、先に車を降ろしてもらい、先に店へ。
『全聚徳』と書いてある。
店内は広く、円卓の間を係員が忙しそうに行き来している。
初めに前菜とスープが出た。ゴリがスープを一口飲むと、
「わーうめー。なんか久々に飯にありつけたって感じ」
「おー、やっぱ本場の味はうめーな」
「ほんとに美味しいわね。陳さん、いいお店に連れてきていただいて、
ありがとうございます」
「そうですか。みなさん喜んでもらえてよかったです」
続いて炒めた料理が出てきた。
「なんかみんな、肉食うの久しぶりじゃねぇ? それに朝も食ってねえし。
ジャンヌいきなり食べて大丈夫か?」
「私、セーブしていただくから大丈夫よ。オズ心配してくれてありがとう。
その分オズとモンチ、沢山食べてね」
円卓を囲んで、みんなでわいわい食べていると、北京ダックの登場だ。
焼き上がったばかりで、飴いろをしている。
丸々一匹がお盆に乗っており、目の前で料理人がさばいていく。
あっという間に切り分けてくれた。
この店でもジャンヌのいったとおり、餃子の皮みたいなものに、
ネギときゅうりを刻んだものを挟んで、巻いて食べる。
陳さんと呉さんが見せてくれるのをまねて食べた。
皮はパリッと焼き上がっており、こおばしくて美味しい。
でも俺にはちょうどいいけど、ジャンヌには脂がちょっときついかも、
「ジャンヌさあ、皮が旨いっていうけど、脂、ジャンヌにきつくねえ?
なんなら脂の少ない肉の部分だけ食べたら?」
「そうね、オズ心配してくれてありがとう。
皮はこの一枚だけにしておくわ。
オズとモンチは大丈夫なの? 二人もお肉は久しぶりでしょう」
「全然。久々だとやっぱ、肉も脂がないとものたんないや。なあゴリ」
「うん、俺も感じる」
最後にチャーハン、食後のデザートはフルーツだった。
ジャンヌはチャーハンには手を付けなかった。
俺たちは北京ダックをはじめ、北京料理を堪能して、万里の長城へ。
時刻は現地時間で2時半を回ったところだ。
食事中に陳さんへ、万里の長城では、テスト前なので、
少しだけ観てホテルに帰って勉強する旨お願いした。
それからジャンヌも、断食修行で体力がなくなってるので、
できるだけ歩かなくてすむようお願いした。
陳さんの説明では、万里の長城の観光スポットは、数ヶ所あるらしく、
一番近くて人気のあるのが八達嶺で、観光客でいっぱいらしい。
陳さんのお勧めは、慕田峪という長城で、八達嶺より少し遠いけど、
空いてていいし、周辺の混雑を考えると、
時間的にも変わらないとのことで、慕田峪を目指した。
高速道路をビュンビュン飛ばし、周辺道路も空いてたから、
慕田峪へは4時10分前に着いた。
万里の長城は、山の尾根伝いに連なっており、
山の上までは、ゴンドラかリフトになる。
一般的なコースは、頂上での乗り場が、リフトとゴンドラと離れており、
リフトで上がって、ゴンドラの乗り場まで歩く人が多いという。
長城は、アップダウンがきつく、かなりしんどいと言っていた。
陳さんは、長城を歩かないのなら、リフトで上がって、
帰りはスライダーで降るのをを勧めてくれた。
スライダーはそりみたいなものだ。
入場料と往復の乗車券を買って長城へ。
リフトは二人乗りなので、先にゴリと陳さんが、
次のリフトに俺とジャンヌで乗った。
ジャンヌと二人でリフトに乗れるなんて、俺ってチョーラッキー。
ゴリには悪いけど、俺もジャンヌも嬉しさを隠しきれずはしゃぎ過ぎてる。
リフトに乗ると、急に二人だけの密室の世界になったようだ。
花火大会以来の心がときめいた。
新幹線とか近鉄特急での二人掛けの席に座るのと、まったく濃密度が違ってくる。
周りからは誰にも干渉されない二人だけの世界を感じる。
ジャンヌも恥じらいを感じているのか、下を向いている。
ちらっと見ると、とても嬉しそうだ。
きっと俺と同じ感覚を共有してるんだ。
「わっ、高ーい」
ジャンヌの声で我に返った。地面からはかなりの高さだ。
「ほんと、ほら、結構急そうじゃん」
リフトは急な斜面を一気に上がっていく。
周りの景色を楽しんでると、山上にすぐ着いた。5~6分乗ってたろうか。
「わーすげーなー。さすが万里の長城だな」
「延々と続いているわね。中国はスケールが大きいわね」
「観光客、ここから向こうへ歩いていきます。
途中のろし台とかあります。ゴンドラの乗り場あります」
観光客も、アップダウンのある登りを、遥か彼方まで続いて歩いている。
歩いたらかなりきつそうだ。
ジャンヌの体力状態を考えると、帰りはここからスライダーで降りて正解だ
俺たちは、しばし雄大な景色を眺めると、ゴリが、
「ジャンヌもういいか? 俺たち勉強があるからな」
「ええ、充分堪能したわ。オズは?」
「ああ、俺ももういいよ。帰りのあのそりみたいなやつ、おもしろそうじゃん」
俺たちは、帰りは陳さんのお勧めに従って、スライダーで降りることにした。
冬季オリンピックのボブスレーのようなコースを、
ブレーキ付きのそりみたいな物に乗って降りて行く。
「陳さん、スピードは出ないんですか? 楽しそうだけど、なんか私怖いな」
「大橋さん大丈夫です。怖くないです。ブレーキあります。途中係員、います」
陳さん、ゴリ、ジャンヌ、俺の順番で、
なだらかなコースをゆっくり降って行った。
ジャンヌも心配することなく楽しめた。みんなにも大うけだった。
これで中国での観光は終了、慕田峪長城を後にして、ホテルへ直行だ。




