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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第一章 六国見山(ろっこくけんざん)
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【六国見山】

 六国見山は俺ん家の裏山だけど、庭みたいなものだ。初めて登るゴリとジュリ、

そしてジャンヌの四人で登った。


「意外とすぐ着いちゃったわね」とジュリ。

「そんなに高い山じゃないからな」


「わー、すっげーいい眺めじゃん」

 ゴリが感動している。鎌倉は、三方を山に囲まれ、

正面が海という天然の要害の地だと、学校で習ったことが実感できる。


 西に江ノ島から茅ヶ崎にかけての湘南の海が続いている。

 その先には富士山が望まれた。


「私、お父さんと登ったの、中学1年の時だから、三年ぶりだわ」

 ジャンヌも改めて感激していた。


 しばらく頂上の眺めを楽しんで、俺達は山を下った。帰りにみんな、

俺ん家に立ち寄るからと、オカアには言ってある。


 俺は玄関のドアを開け、大きな声で

「ただいまー」

ゴリ、ジュリ、ジャンヌと三人が中に入って俺の背後でオカアを待った。

 

 オカアがキッチンから出てきて、

「オズ、今日早かったのね、みなさんいらっしゃい。さぁどうぞ、上がって頂戴」

と後ろの三人に声を掛けた。

 

 おじゃましまーす、失礼しまーすとか言いながら靴を脱いで上がり、

最後にジャンヌが靴を揃え直して、オカアの前に整列した。

 

 昨日はオカアは外出してたから、ジュリとジャンヌはオカアと初対面だ。  


 ジュリとジャンヌが、初対面の挨拶を済ますと、みんなをリビングに案内し、

俺は二階の自分の部屋の片付けへダッシュ。

その間オカアがお茶を入れて相手をしててもらう。

 

 下に降りて行くと、オカアの声が聞こえて来た。


「……そうなの、お二人とも演劇がやりたくて六国高校に……じゃあ

公演の時は是非観に行くわね」


「私は中学の時、父と一緒に六国見山に登ったことがあるんです。

帰りに六国高校によって、校舎を見学したんです。そしたら、

校舎から眺める富士山が、とっても素晴らしく、この高校で学びたいなって」


「あーら、そうだったの」オカアは紅茶をいれながら頷く。


 しばし談笑し、俺の部屋へみんなを案内した。


「オズの部屋って、結構広いのね」

「俺、一人っ子だろ、それに両親と家族三人だから。

元々、子供部屋兼遊び場にしようとしてたらしいんだ」

 

 ジャンヌは恐る恐る入ってきた。

「男の子の部屋ってこうなんだ、私、もっと女性アイドルの写真とか、

ポスターとか、沢山貼ってあるのかと思った」


 男の部屋が珍しいのか、キョロキョロ見回している。


「俺の友達は、だいたいサッカー選手とか、アイドルのポスター貼ってるな」

「ふーん、大澤君はシンプルなんだ」

 

 ジャンヌは本棚に飾ってある写真を見つけると、

「わぁー、写真だぁー。大澤君見ていい?」


「ああ、いいよ。その写真、鎌倉の『服部カップ』っていうサッカーの大会で、

準優勝した時の写真なんだ。隣のトロフィーがそん時のもの」


「わぁー、大澤君て凄いのね! あ、大澤君、前の列の右から二番目でしょ?」

「ああ、よく判ったじゃん」

「今と全然変わってないから」


「どれ、うん? このスポーツ刈りの少年? 笑えるー、

全然今のオズと似てないじゃない。これ何年の時?」

「4年生の時かな」


「大澤君て、サッカーとっても上手なのね」

 

 おいおい、俺、そんなに巧かないんですけど! 

ジャンヌが目をキラキラさせちゃってるから、

俺がサッカー下手くそだなんて言えねえじゃねえか。


「準優勝っていっても、サッカーって、チームプレーだから、

そのカップも、チームでもらったんだ」


「ほんとだ。表彰状にFC小坂殿って書いてあるわね」

「それ、FCおさかって読むんだ。高野台の下に小坂小学校ってあるだろ。

そこがホームグランドのサッカーチームなんだ。

大会とかで獲得したカップやトロフィーは、卒団するまで貯めておいて、

卒団式のときに分けるんだ」


「そうなの! カップとかトロフィー、沢山獲得したチームなんだ。

やっぱり大澤君のいた、FC小坂って、凄いチームだったのね」


「オズ、小学校4年の写真でこんなに興奮しちゃってるんだから、

中学のアルバム、ジャンヌに見せてあげなさいよ」


 ジャンヌが顔を赤らめ下を向いてしまった。


「ジュリ! アルバムは今度にして、肝心な話しようぜ」

「ゴリわりぃわりぃ」


「ごめんなさい大田君、私、つい大澤君の小さい頃の写真とかに

夢中になってしまって」


「あのねジャンヌ、オズもゴリも、あなたのボディーガードやるんだから、

ジャンヌも、『オズ』『ゴリ』でいいわよねえ」


ジュリは俺とゴリに同意を求めた。俺もゴリも頷いた。


「じゃあ、これから、『オズ』『ゴリ』って呼ばせてもらうわ」


会話が途切れたところでジャンヌが、俺とゴリを交互に見つめ、


「今日、二人にお話しようと思っていたの」

ジャンヌは崩していた膝を正すと


「私ね、ジュリから二人の名前の由来を聞いて、とってもびっくりしたわ。

そして、両親へも話したの。ジュリのことも含めてね」

 

 ジャンヌは、俺とゴリと、そしてジュリを見て頷いた。

俺たち三人もいっせいに頷く。真剣なまなざしだ。


「そしたら、私の出生時のことは、ジュリにお話したとおりだったわ。

岡山県のお寺に参詣に行って、この時の旅行で泊まった夜、

紫のおくるみに包まれた赤ちゃんが現れ、何処からともなく、

『名前はジャンヌなり』と聞こえたんですって。

夢は正夢となって私が生まれたの。昨日、もう一度両親に確認したの。

私に関しては、これだけなの」


 俺たち三人は、息をひそめてジャンヌの話しを聞いている。


「私ね、これから、どんなお役目が待っているのか、とても不安なの。

でも、二人が守って下さるって聞いて、とても心強く感じたの。

だから、二人にとっても感謝しているの。今日、改めて二人に、

これから宜しくお願いしますって、お願いしたかったの。

私自身、これから先のことは全く判らないけど、何か特別の使命があるのか、

ないのかを含めて。とにかく、いたらないところが沢山あると思いますが、

宜しくお願いします」


 ジャンヌは、深々と俺達に頭を下げた。ゴリが

「そんなかしこまらなくっていいよ」


「ありがとう。それから私、これからオズ、ゴリって呼ばせてもらうと

言ったけど、オズはいいんだけど、ゴリって呼ぶのは私、ちょっと抵抗あるの」


 みんな一瞬ジャンヌに注目


「いえ、変に誤解しないでね、みんながゴリって呼ぶのは、

とても親しみがあっていいと思うわ。でも、私にとっての大田君は、

お友達以上に、私を守って下さる大切な人だから、勿論大澤くんもよ。

そこで、私的には、ゴリラのゴリじゃあ申し訳ないから、モンキーをもじって、

モンチって呼ばせてもらえないかなって」


 ジャンヌは、ジュリの方を先に見て、ジュリの了解を求めた。


「いいんじゃない、ジャンヌが呼ぶのには、確かにゴリよりモンチの方が

似合ってるわね。でも、私はいままで通りゴリでいいでしょ?」

「もちろんよ」


 ジュリがゴリに

「ゴリ、いいじゃない」

「俺はかまわないよ」


「あーよかった。じゃあこれからモンチ、オズって呼ばせてもらうわ」

「じゃあ、モンチ、モンチのお部屋はどんな感じ?」


「俺もポスター貼ってないし、オズと変わらないよ。俺の部屋、

六畳の畳だから、ここより狭いな」


「ジャンヌの部屋は? 広いの?」

「ううん、モンチと同じ六畳よ。和室にカーペット敷いて、ベッド置いているの」


 俺もゴリみたいにジャンヌって呼んでみたいけど、

「大橋さんの部屋は、ポスターとか貼ってるの?」

 やっぱ、大橋さんになっちゃった。


「オズ、そんなよそよそしく呼び合わないって言ったじゃない、

ハイ、もう一度言って」


「ぁ、あのー、ジャ、ジャンヌさん」自分でも顔が火照ってるのが判る。

「は、はい、あのー、ジャンヌって、呼び捨てでかまいませんので……」

 

 ジャンヌも真っ赤な顔して下を向いている。


「ああ、じゃ、ジャンヌ」

「はい」

 

俺は頭が真っ白になり、何を聞こうとしたのかど忘れしてしまった。


「私のお部屋もポスターとか貼っていないわ。とてもシンプルよ」

 ジャンヌが助け船を出してくれた。


「大澤くんのお部屋と同じよ」

「ちょっとジャンヌ、あなたさっき、オズって呼ぶの抵抗ないって

言ってたじゃない。ハイ、あなたももう一度言い直し」


 ジャンヌは俺の顔をちらっと見ると、下を向いて顔を赤くしている。

それでも顔を恥ずかしげに上げながら、


「オズ」ってやっと言ってもらえた。俺は思わず、

「ハイ」って、肩をつぼめながら両こぶしを握って、

顎の前に突き出しながら返事してしまった。


 俺もジャンヌに、オズって呼ばれた嬉しさのあまり、

全身で反応したのを見られてしまい、恥ずかしさで、

ふたたび火照ったのが分かった。


「まあ、二人とも純情なこと。ゴリ、これから先、思いやられるわね」


 でも、俺にとってジャンヌは、守護する対象ってだけじゃなく、

絶対これって、恋愛感情かな? それとも神様的には、

ジャンヌに対する恋愛感情は御法度なのかな?

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