【人民大会堂】
俺たちは、ジャンヌを真ん中に、正面玄関の階段を上がっていく。
やはりすごい警備員の数だ。
警備員たちは、俺たちが見えないのか無関心のようだ。
「ジャンヌ、もう既に人民大会堂はトランス状態だな」
屋根を支える、巨大な円柱の間を通って中に入ると、
赤い絨毯が敷かれている。
「私が先頭を進みます」
ジャンヌの後ろをゴリ、俺と続く。
広いロビーの通路には、検問所がずらりと、
赤外線センサーのゲートと一緒に、横一線に並んでいる。
既に全国から招集された代表者たちは、会場内に入っており、
検問所周辺は、スーツを着た警備係だけが、
直立不動の姿勢で、正面玄関を見つめている。
みんな精悍な顔をしている。選抜された精鋭達だろう。
ジャンヌは赤絨毯の上を真っ直ぐ進んで行く。
検問所とセキュリティゲートの横を、ノーチェックで素通りしていく。
やはり警備の人達には、俺たちが判らないらしい。
会場の時計は1時少し前を指している。
廊下のモニターが、人民大会堂の壇上を映している。
国家主席他、常務委員などの最高幹部をとらえている。
画面が変わった。
なんとジャンヌがモニターに映し出された。
モニターはジャンヌの上半身をとらえ、
古代紫のリボンがアップで写しだされた。
次の瞬間、ファンファーレが高らかに鳴り響いた。
ゴリが、
「ジャンヌ、中国国歌だ!」
ジャンヌはぴたと立ち止まり、気を付けの姿勢を取ると、
右手を左胸に当て、最敬礼の姿勢を取った。
俺とゴリもジャンヌに倣う。
廊下のモニターが、ジャンヌの所作を引き続き映し出している。
モニターは再び、人民大会堂内を写している。
壇上の最高幹部をはじめ、全員が起立している。
中国国歌は、館内のスピーカーから流れて来るのでは無さそうだ。
明らかに天上から鳴り響いている。
国歌の演奏が鳴り止むと、再びジャンヌが、赤絨毯を進んで行く。
会場真正面の扉が開け放たれた。
万人礼堂(大会議場)に入場すると、
ジャンヌが天地を貫いた光の円柱で被われた。
金色の光は肉眼でもはっきり判る。
正面の国家主席が真っ先に反応した。
立ち上がり拍手で迎えてくれた。
ほぼ同時に、首相、副主席も同様に立ち上がり拍手でお迎えだ。
続いて常務委員が全員立ち上がると、ひな壇の後ろの席の政治局員、
中央委員も立ち上がり、会場内全員が立ち上がって、
万雷の拍手で迎えてくれた。
入口から正面壇上まで70~80メートルはありそうだ。
ジャンヌは、右寄りの通路を真っ直ぐに、
正面壇上に向かって進んで行く。
満席の会場、一万人が一斉にジャンヌに注目した。
ジャンヌは、右側から壇上に上がると、先ず国家主席の前に立ち、
左手を胸に添え、腰を落としながら会釈し握手を交わした。
「ニイハオ」そして「シェイシェイ」と声を掛けている。
どうやら通じているようだ。
俺もゴリも、握手しながら、「ニイハオ」そして「シェイシェイ」
と言いながらジャンヌの後を付いていく。
首相はじめ、7人の常務委員全員へも同様に、一人一人挨拶した。
挨拶が済むとジャンヌは、国家主席へ着席を促すと、
全員倣って着席した。
ジャンヌは正面に振り返り、合掌して中央に立った。
左右を俺とゴリと固めた。
ジャンヌは、胸の前で指をからめた合掌をし、両人差し指を揃えて天を指し、
掌を開いてピラミッドの印を組むと、目を閉じて《平成の祈り》を祈り始めた。
『内平らかに外成る、地平らかに天成る。
中国の安寧とアジアの平和が達成されますように。
大天使ミカエル様、み心のままになさしめたまえ』
ジャンヌが祈りだすと、ジャンヌの体が紫紺と金色と白光に輝き出した。
目を開け、天井の大きな赤い星を仰ぎながら、
「大天使ミカエル様、宇宙に遍満するエネルギー、
全てを可能に変えていく《神秘なる宇宙パワー》を注ぎくださりませ」
これからジャンヌは、大天使ミカエルより授かった《印》を組み、
宇宙からの光を受け止める。
両手を高く広げると、天から光の雨が降り注がれる。
次に胸の前で、左掌を上に向け、親指と人差し指で輪っかを作り、
右手は親指と中指で輪っかを作り、左手の輪っかに鍵を掛け、
右手人差し指を天に向けた。
それから、一瞬念じて鍵を解き、左右輪っかを組んだまま、
胸の前で水車のように回転させ、徐々に回転の輪を大きくさせながら、
左右に広げながら上げていき、七回転目に、右手人差し指を天に向けた。
その瞬間、ドーム型天井の、その中心の赤い星を貫いて、
稲妻のような光を右手人差し指で受け止めた。
左手は掌を上に向けたままだ。
光が右手人差し指から噴水のようにほとばしっている。
ジャンヌは光を受けながら、体をゆっくり後ろに回した。
左手掌をやや右上に向けると、右手人差し指で受けている光が、
左手掌に屈折され、左掌から光がほとばしっている。
そして、ゆっくり国家主席はじめ、7人の常務委員に掌を向け、
光を屈折照射始めた。
みな低頭して光を受け、光の噴水で見えなくなった。
続いて左掌を、少し上に向け、後ろに控える政治局員、
中央委員へも照射された。
壇上全体が光につつまれ見えなくなった。
ジャンヌは光を受けながら、再び体をゆっくりと回し、
正面を向きなおすと、会場の全員が低頭した。
ジャンヌの掌から放射される光が、会場全体を覆っていく。
消防の放水のようだ。
やがて大会議場が光に包まれて見えなくなった。
ここでジャンヌは印を解き、合掌しながら正面上方を見つめた。
やがて会場全体を覆っていた光の雲が、天井から徐々に晴れてきた。
光が消え去っていくのと同時に、天井の屋根も消え失せて、
巨大な宇宙空間が出現した。
みな、驚きの表情で宇宙空間を見上げている。
長い白髭が降りてきた。更に上を見上げると、老子が登場していた。
会場にいる全員が、老子の出現に驚愕し、その巨大さに、
恐怖と緊張で固まった。
俺たちは、合掌のままひざまずいて控えた。
『大国は下流なり』
老子の重厚な第一声が会場内に響き渡った。
しっ責しているような感じだ。
六国見山の時とは明らかに違う。
老子の第一声が響き渡ると、国家主席はじめ、全員が机にひれ伏した。
ゆっくりと間を置いて、続けて老子は、
『天下の交なり。天下の牝なり。牝は常に静かなるを以て牡に勝ち、
静かなるを以て下ることを為す。
……故に大なる者は宜しく下ることを為すべし』
老子はゆっくりと、諭すように説いている。
その声は、宇宙に響き渡っている。
続いて、
『無為を為し、無事を事とし、無味を味わう。
小を大とし、少を多とす。怨に報ゆるに徳を以てす。……』
そっと振り返り、国家主席をちらっと見ると、低頭しながら頷かれている。
『大怨を和すれば、必ず余怨有り、安んぞ以て善と為す可けんや。
是を以て聖人は、左契を執りて人に責めず。
有徳は契を司り、無徳は徹を司る』
老子の講義が続いている。
最後に老子は、
『汝ら指導者が、アジアの安寧と世界の平和に貢献せよ。
依って大国たらん』っと説かれると、一瞬に消えられた。
宇宙空間も消え、万人礼堂の天井も元に戻っている。
同時に天井の大きな赤い星から金粉が舞って、大会議場を覆った。
中国でのミッションは成功した。
ジャンヌが天を仰ぎ、
「老子様、ありがとうございました」
老子への感謝を捧げた。
立ち上がって、会場を見渡すと、皆目をつぶっている。
おそらく覚醒しているのだろう。
後ろを振り返ると、国家主席はじめ、常務委員も皆覚醒している。
最後にジャンヌは、ピラミッドの印を組むと、
『内平らかに外成る、地平らかに天成る。
中国の安寧とアジアの平和が達成されますように。
老子様、ありがとうございました。
大天使ミカエル様、ご加護ありがとうございました』と祈った。
するとジャンヌが、再び紫紺と金色と白光に包まれた。
ジャンヌは、後ろを振り返り、覚醒状態のままの国家主席に、
再び膝まづいて合掌し、同様に常務委員一人一人にも合掌した。
そして立ち上がって正面を向くと、
同じく覚醒状態の会場全員へ向かって合掌すると、
「ミッションは終わりました。さあ行きましょう」
ジャンヌを先頭に、長い通路を出口に向かった。
会場内は、まだ金粉が舞っている。
通路から会場を見渡すと、全員が机にうつ伏せている。
上の階の奥に設置されているテレビカメラの席が、
テレビカメラの方列だけが見え、カメラマンの姿が見えない。
おそらく三脚の下あたりで覚醒されているのだろう。
出口に近づくと扉が開け放たれ、俺たちは、
赤絨毯を玄関出口へ向かって歩いて行く。
警備係も俺たちには無関心のようだ。
廊下のテレビモニターは画面が白く映ってない。
また神様の配慮だろう。
俺は思わずにやけてしまった。
俺たちは、玄関出口を出ると、ジャンヌの緊張が解かれたのか、
笑顔でハイタッチしながら、
「モンチ、オズ、お疲れ様」
「おお、ジャンヌ、ミッション、大成功だな」
ゴリも興奮気味だ。
「ジャンヌも凄かったけど、老子の迫力は半端じゃないな。
宇宙大の迫力だったな。これで中国も大きく変わるな」
「そうね、老子様が中国の指導者の方々の意識を変えられたから」
「だよな、領土拡大だとか、反日教育とかはなくなって、
真の大国になってもらいたし、国や国民の国際評価も上がるだろうから」
「そうだよなゴリ、中国が老子の解く、真の大国のように下流になれば、
アジアの盟主になって、アジアの安寧と平和が達成されるんだな。
もっとも北朝鮮の問題が残ってるけど」
「そうね、でも、大天使ミカエル様から、
ミッションは大成功って誉めて頂いたから。
ねえ、私お腹空いちゃった、モンチ、お昼北京料理だったわね」
「そうそう、陳さんに確認するけど、やっぱ北京だから北京料理がいいよな。
じゃあ昼飯食べて、それから万里の長城見学だな」




