【北京】
飛行機は、北京空港に着陸した。
着陸して停止した機内で暫く待つと、乗降口が開き、
始めに70才位の女性が乗り込んできた。
座席の番号を確認しながら我々の席にやって来て、
手元のメモと座席番号を確認し、ジャンヌを見て、
「大橋さんですか?」
「はい、大橋です」
「ようこそ中国へ、私がご案内します」
俺たちは、ファーストクラスの乗客を置いたままに、
真っ先に誘導されて機外へ。
タラップを降りると既に車が用意されていた。
前にパトカーみたいな車が停まっている。
「私、陳と申します。今日と明日、二日間、ご案内させていただきます」
「大橋ジャンヌと申します。中国は初めてですので宜しくお願いします」
ジャンヌがお辞儀をすると、陳さんは軽く会釈し、握手してきた。
「陳さん、こちらが大田猿田彦です」
「大田猿田彦です、宜しくお願いします」
ゴリは右手を差し出し、陳さんとがっちり握手した。
「こちらが大澤小角です」
俺もゴリに倣ってがっちり握手した。
誘導されるままに車に乗る。先にパトカーが先導していく。
前の車はやっぱ先導車だった。
税関とか通らないで空港を出ていく。国賓並みの待遇だ。
「陳さん、私たち、普通の旅行会社に申し込んだ旅行者ですけど、
何か特別待遇みたいですね?」
ゴリが質問してくれた。
「はい、政府から、案内、命じられました」
大天使ミカエルが言っていたけど、全ては整ってるってやつか。
ジャンヌは余裕で落ち着いている。
「あ、そうですか。
旅行会社には、天安門広場と人民大会堂を見学して昼食、
それから万里の長城へ行くコースで、ご案内お願いしてると思うんですが?
それで、どこへ行くのでしょうか?」
「申し訳ありません。
私、政府の役人に聞きました。
でも秘密でした、皆さん、聞いてる、ありますか?」
「いえ、私たちも、陳さんのお出迎えにびっくりしています」
ゴリも知らないふりしてるけど、人民大会堂へ直行だろう。
「そうですか、政府は皆さんをどこ、連れて行きますか、わくわくです。
それから今日と明日、運転手、呉といいます」
「ニイハオ呉さん、大橋と申します。宜しくお願いします」
陳さんが通訳すると、呉さんは頷いた。
「ニイハオ、大田です」「ニイハオ大澤です」
それぞれ呉さんは頷いてくれた。
「大橋さん、中国語うまいです」
「ごめんなさい、陳さん。私、中国語これだけしか知らないんです。
あ、それからシェイシェイもありました。
陳さんこそ日本語とってもお上手ですね」
「はい、私、養父母に育てられた日本人なのです。
ずっと日本に住んで居ました。
日本の実の母が亡くなり、養父母をみるために、
9年前に中国に戻って来ました。
その養父母ももう亡くなりました」
「そうだったんですか。それで日本語お上手なんですね」
車は市内を進んで行くと、いたるところに警察官が警備している。
ゴリが、
「陳さん、今回、全国人民代表者会議が、臨時で開催されますよね」
「全人代ですね、はい。
既に人民大会堂には、全国の代表者が集まっているはずです」
「党大会は5年に一度で、全人代は毎年3月に開催されますよね。
臨時の全人代って、よく開催されるんですか?」
「ほとんどありません。
重要な政策や方針は、7人の常務委員によって決められます。
このメンバーにはもちろん、国家主席や首相もメンバーです」
「今回は特別なんですね。目的というか、議題はなんですか?」
「噂あります。重大な方針変更です。一つ噂あります。
軍、尖閣諸島占領します。そして、中国の領土、宣言します」
俺たち三人は驚きの表情で顔を見合わせた。
ゴリが、
「尖閣諸島は、今は無人島だけど、中国が占領すれば、
日本は確実に奪還すべき行動をとりそうです。
そうなったら軍事衝突は避けられないし、東シナ海が戦場になってしまう。
中国は、ほんとにそこまで踏み込みますかね?」
「私、反対です。でも中国国民、みんな支持します」
「陳さん、私も反対です。戦争は人びとを不幸にします」とジャンヌ。
「大橋さん、でも、あと一つ噂あります。とても嬉しい噂です」
陳さんは、喜びの笑顔で、
「中国救う、平和の使者、やってくる噂です」
「え? その平和の使者って、どこから、いつやってくるんですか」
俺は思わず身を乗り出して、大きな声で聞いてしまった。
「『紫着た、高貴な、天使』です。
東の国から、やってくる、話です。
平和の使者です。天使が中日を平和にする噂です」
「陳さん」
俺は感動で全身が震え、声までうわずってしまった。
俺は興奮状態だから、会話は常に冷静沈着なゴリに任せた。
ジャンヌも真剣な眼差しで陳さんを見つめている。
「陳さん、東の国って日本ですか?」
「そうです。日本に、紫着た、高貴な、天使、舞い降ります」
「陳さん、その天使は、いつやってくるんですか?」
「噂です、そうです、全人代の会場に現れます。
中国の人、隠れて、みんな、天使に期待する、多いです。
人民大会堂の、天井の赤い星から舞い降りる、言う人います」
「この噂は、どこまで広がっているんですか?」
「中国人、みんな知っています。もちろん共産党の幹部、知っています」
いつの間にか、天安門広場が見えてきた。
「先導車、人民大会堂に向かう、みたいです」
先導車は、物々しい警備の中を進んで行き、詰所の警官が、
白いバリケードのような柵を開けてくれ、天安門広場の西側にある、
人民大会堂の正面玄関に車は横付けされた。
巨大な円柱がそびえている。
先導車は停まったまま、中からは誰も降りてくる気配がない。
ジャンヌは、
「陳さん、車でお待ち頂けますか。私たちだけで行ってきます」
「わお、大橋さん、通訳要りませんか?
それに、今日、大会あります、中入れません」
「陳さん、ありがとうございます。
でも私たち、大丈夫ですから、ちょっと待っててください。
私たち、中で用事がありますから」
「はい、分かりました。ここでお待ち……」
陳さんは、ジャンヌと言葉を交わしながら、
ふとジャンヌの、制服の紫のリボンを見ると、驚愕で目を見張り、
「大橋さん! む、む……紫着た……て、て、てん、し……」
陳さんは絶句した。
同時に失神して助手席のシートに倒れ込んでしまった。
ジャンヌは、
「モンチ、どうしよう?」
「ジャンヌ、任しとけ。
俺、中国語判らないから、筆談できるように用意しといた」
俺は、メモ帳とボールペンで
『少々、時間、待、願、陳様、健康安全、貴様、理解?』
と書いて呉さんに渡すと、微笑んで頷いてくれた。
ジャンヌは合掌すると、
「大天使ミカエル様、宜しくお願いします。老子様、みこころに従います」




