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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第九章 中国
64/105

【老子】

 六高祭も終わり、校内は落ち着きを取り戻し、

3年生は本格的に受験モードに突中する。


 9月もなかばまでくると、六国見山も秋の気配を感じさせている。


 六国高校の落ち着きとは逆に、尖閣諸島を巡って、

日中間で騒がしくなっている。


 今日は、6月以来の六国見山への登山だ。


 地球の安寧と世界の平和を達成させるという、

ジャンヌがこの世に天降った使命がある。


 今、世界を見回しても、至るところに紛争が絶えない。

 だけど、ジャンヌがどうやって世界の平和を実現させるのだろう。


 今日は授業を受けていても身が入らない。いろんな思いが巡ってくる。


 相手が世界各国だろうから、スケールがでかすぎる。俺は心配してしまう。

 でも、不安の思いに囚われると、福岡の時のように、役行者から叱責されそうだ。

 今度は頭が砕けてあの世に戻されてしまうかもしれない。


 ジャンヌからメモが入った。


『授業中ですよ! 空想は休み時間にしてね』


 俺は片目をつぶってジャンヌにOKサインを出した。


 授業が終わると早速ジャンヌが、

「オズぅ、深刻な顔していたわ。何か悩み事でもあるの?」


「いや、今晩、久々の六国登山だろ、俺、またジャンヌが、

特別なミッション仰せつかるじゃないかと心配してたんだ。

 だって今、日中関係やばいじゃん」


「オズぅ、心配してくれてありがとう。

 私、大天使ミカエル様から夏休み頂いたでしょ。

 だから、その間、体力も気力も充実させたから、

どんなミッションでもお応えするつもりよ」


「オズまたいらん心配してるじゃん。お前が心配してどうするんだよー」


「なんかオズ、あんた頼りないわねえ! 

『俺が付いてるから安心しろ』ぐらいいいなさいよ。

 右側のなんとかだか知らないけど、オズの役割、

私が替わってあげようか。……たくぅ」


「ジュリ、オズはね、ミッションの時にはとっても勇気があって頼もしいのよ」


 そうか、普段の俺は、やっぱ頼りないのかな。


「だからオズ、勇気はミッションの時だけじゃなくて、

普段から勇気全開にしておきなさいよ。あんた出し惜しみしてんの!」


「いえジュリ、オズは勇気の人よ。

 だからぁー、普段からぁー、あー私、自分でなにを言っているのか……」


 ジャンヌは両手を赤く染まった頬にあて、恥ずかしげに下を向いてしまった。


「もういいよジャンヌ、私も応援するからさ」


 俺は心の中で、ジャンヌに『すまん、ありがと』ってつぶやいた。


 俺は、部活を終えるとゴリを置いて先に帰った。

 久々の夜間の六国登山だし、部活が終わってもなんとなく落ち着かない。

 早く今夜の準備がしたかった。


 ランタンと懐中電灯、それにジャンヌが、

頂上の展望台のデッキにひざまずいてもいいように、

キャンプ用のシュラフの下に敷くマットも用意した。


 ジャンヌは9月から、六国登山の日は、

自宅に帰らずに直接俺ん家に寄るはずだった。


 だけどまだ、メイド服買ってないし、

ジャンヌの部屋に預けている服の整理をしたいとかで、

今日は一旦自宅へ帰っていった。


 ゴリが7時すぎにやってきた。ゴリがきたので早速夕飯にした。


 7時20分にジャンヌがやってきた。


「今晩は、オズ夕ご飯は?」

「今ゴリと食べているところ。ジャンヌお母さんは?」


「お母さんはいったん帰って、9時ごろお父さんと迎えに来るって」

「そっかー。ゴリもリビングで一緒に夕飯食べてるから、こっちで待っていたら」


「ありがとうオズ、オズ私、先に二階の自分の部屋に行ってもいいかな? 

 ちょっと服、整理したいんだ」

「おお、もちろんさ」


 ジャンヌは、リビングのオカアとゴリに挨拶すると、

大きめのバックを持って二階へ上がって行った。


 俺の隣の部屋を、ジャンヌの部屋にしたのは5月だけど、

制服とか着替え一式を置いているが、それ以来、ちらっと覗いたことはあるが、

部屋に入ったことはない。


 オカアが外出して、一人の時も、不思議と入ってみようなんて、

思いも涌いてこない。

 なんか、俺にとってはあの部屋は、ジャンヌの聖域なのかもしれない。


 俺たちは、8時ちょっと前に家を出て六国見山へ向かった。


 登山道に入ると街灯もなく、空が木々に覆われ真っ暗になる。

 俺はジャンヌに手を貸し、足元をランタンで照らす。

 ジャンヌの手を握るのは6月以来だ。


 先頭のゴリが、懐中電灯で天を照らしても空は見えない。

 笹やぶを抜けると頂上だ。今日は空が曇って星が見えない。


 前方下の円覚寺方向から、人の生活の気配が風に乗って感じられる。


 ジャンヌの呼吸が整うのを待つ。


 俺は展望台の手すりの下に、キャンプ用のマットを敷いた。

 大人が一人寝られる幅と、長さは180センチくらいか、

三人がぎりぎり座れる感じだ。


「オズ、わざわざありがとう。私もう大丈夫だから」


 ジャンヌは展望台の正面、南西に向けて立ち、

胸の前で両手をからませてから両人差し指を揃えて天に向け、

掌を開いてピラミッドの印を組んだ。


 俺はジャンヌの右、ゴリは左に控えて同様にピラミッドの印を組んだ。


「それでは声に出して、《平成の祈り》を祈ります。お願いします。ハイ」


 ジャンヌの合図で俺たちは祈りに入った。

『内平らかに外成る、地平らかに天成る。

 地球の安寧と世界の平和が達成されますように』

『大天使ミカエル様、み心のままになさしめたまえ』


 左前のジャンヌが金色に輝き、どんどん広がっていくのがわかる。

 やがて左手上空が徐々に明るくなってきた。


「ハイ、ありがとうございました」


 ジャンヌの合図で祈りを止め、目を開けると、例によって、

役行者が沢山の眷族を引き連れて降りてこられた。


 ジャンヌはじめ、俺たちは合掌して迎えた。


 左手に留まり、俺を見て厳かに頷かれた。


 続いて右手上空が明るくなり、西の空から猿田彦大神が降りてこられた。


 同じく合掌して迎え、ゴリを見つめ頷かれた。


 最後に正面上空が金色に輝き、大天使ミカエルが、

沢山の守護天使を従えて降りてこられた。


 正面中空に留まると、ジャンヌを見つめて微笑まれた。


ジャンヌも合掌のまま微笑みながら、俺が敷いたマットの上にひざまずいて、

深々と礼をして、大天使ミカエルを見上げた。


 大天使ミカエルの更に上方に、巨大な白髪が降りてきた、

上方には、宇宙一杯に広がっている老人が現れた。


 ジャンヌは

「あ、老子様」っと叫ぶと、マットの上にひれ伏した。


 俺もゴリもあわててジャンヌに倣ってひれ伏した。

 俺は、老子のあまりの巨大さに驚愕して恐れおののいた。


 まさに白髪三千丈とはこのことだ。

 俺はひれ伏しながら、ジャンヌをちらっと見ると、まだひれ伏したままだ。


「ジャンヌ!」

「はい」


 老子のその一言は、宇宙全体に響き渡った。


 俺は、老子の宇宙に広がる巨大な響きに全身が震えだした。


 再びジャンヌをちらっと見ると、ジャンヌは既にひざまずいて老子に合掌している。

 俺もゴリも合掌して老子を仰ぎ見る。


「汝を中国に遣わす」

「はい、老子様」


 老子の声には、近寄りがたい威厳と絶対的な権威が伝わってくる。


「人民大会堂にて天命を完うせよ」

「はい、老子様、み心に従います」


 次の瞬間、老子は消え去った。宇宙に広がった、白髪三千丈は幻だったのか?

 いや、まだ大天使ミカエル他、役行者も猿田彦大神もいらっしゃる


「ジャンヌ!」

「はい、大天使ミカエル様」


「天界では、全ての諸神善霊が応援しています。

ジャンヌは守られているから心配することはありません。

安心してミッッションを遂行しなさい」


「大天使ミカエル様、み心のままに従います。

 どうぞ宜しくお願いいたします」


「ジャンヌ!」

「はい、大天使ミカエル様」


「明日から23日間、神殿にて祈りなさい。

 それからこの期間中、

《中国の安寧とアジアの平和が達成されますように》との祈りも加えなさい。

 そして、23日目に北京へ飛びなさい。全ては整えてあります」


「はい、大天使ミカエル様、断食は、前回と同じでよろしいでしょうか?」


「よろしいでしょう。でもジャンヌ」

「はい、大天使ミカエル様」


「もう既に、汝の肉体は浄化されています。

 後は汝の判断が私の判断です。汝自身を信じなさい」


 次の瞬間、神々は消え去られた。再び頂上に静寂が戻った。


「ジャンヌ、やっぱ中国だったんだ。

 ここんとこ、中国とは緊張状態が続いているからな」


「そうだよオズ、このままほっといたら戦争になりそうじゃん。

 それにしてもジャンヌ、老子凄かったな。俺、あの迫力にびびったよ」


「え? ゴリもびびったの?」


「オズ、私もびっくりしたわ。白髪が空一杯に流れていたでしょ。

 もっと上を見上げたら、老子様と目が合ったの。

 その瞬間、老子様って判ったの。

 宇宙一杯に広がっていらっしゃるんですもの。

 あまりの大きさに、私、思わずひれ伏してしまったの」


「でもジャンヌ、明日から又、断食修行だ。俺たちも頑張るからな。な、ゴリ」

「おお、それはいいんだけど、中国行きの手配、なんとかしなくちゃな」


「モンチ、また宜しくね。さっき、大天使ミカエル様が仰っていたけど、

全ては整えられているから、私、ちっとも心配していないわ」


「さすがジャンヌだな。なんか平常心だな。

 俺、中国へ行くって、これから俺たち、どうなるのかなって、

すげー心配なんだけど。あ、いけねえ、俺、又、不安の思い発してしまった。

 俺さあ、ジャンヌ」


 俺は思い出し笑いしてしまった。


「オズ、余裕でニコニコしているわね」

「俺、今だからいうけどさ、福岡の時、不安の思いが込み上げてきてさ、

その瞬間、役行者からすげー叱責受けたんだ。

 頭ぎゅうぎゅう締めつけられてさ」


「そうだったの、オズ」


「だから俺、一時的に不安な思いが湧き上がっても、

すぐに否定するようにしたんだ。でないと……やばいからさ」

「わー、オズもすごい進歩したんだ。頼もしぃー」


 下山すると、既にジャンヌの両親とゴリの両親も揃っていた。


 ジャンヌは真っ先にお母さんを抱きしめた。

 きっとゴリからの報告前に、お母さんに心配かけさせないためだろう。


「お母さん、老子様が現れて、中国に行きなさいって。

 でもお母さん、安心して。大天使ミカエル様がね、

『天界では、全ての諸神善霊が応援しています。安心しなさい』って。

 だからお母さん、心配しないでね」


 お母さんは頷くと、今度はお母さんがジャンヌを強く抱きしめた。


「わかっていますよ。

 ジャンヌは世界平和の達成のために、天界から天降ったんですから。

 お母さんも応援して……」


 お母さんは突然泣き崩れてしまった。

 オカアとゴリのお母さんが、二人の肩をそれぞれ抱きしめた。


 オカアが、

「福岡の時も、オズの役行者や猿田彦大神とか、

もちろん大天使ミカエルがしっかり護って、奇跡を起こしたんですから。

 今回は、全ての神様が護ってくださるんだから」


「そうですよ、彦もオズくんも、一体になってお守りしますから」


「……みなさんごめんなさい。

 今回中国って聞いたものですから……でも、そうですよね。

 今回も、福岡のときのように、神様がしっかり護ってくださるのは、

自分でもよくわかってはいるんですが」


「心配されるのはもっともですわ。

 でもジャンヌさん、きっと笑顔で帰ってこられますよ。

 ねえ彦、しっかりオズくんと、ジャンヌさんお護りするのよ」


「もちろんだよ。お母さん、俺、全然心配してませんよ! 

 さっき、六国見山の頂上、神様で凄かったんですから」


「モンちゃんありがとうね。また旅行の準備とか、会計もお願いね」

「はい、任せてください」


 ジャンヌのお母さんも落ち着きを取り戻し、みんなほっとしている。

 今晩は、オトウもジャンヌの重大な使命を予感したのか、

お父さんたちと飲むことは考えていなかったみたいだ。正解だ。


 それから、ゴリの親父さんが、中国旅行の基本的なことを話してくれた


 しばし談笑のあと、それぞれ帰っていったけど、

俺の両親も含めて、親はみんな緊張が隠せない感じだった。

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