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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第八章 体育祭
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【コーチ】

 俺は、部室で着替えて、グランドでサッカー部の部活に参加する。


 グランドに出てきた部員は、リフティングとかで準備している。


 グランドの端の、陸上部の部室の前で、ジャンヌと後藤がいる。

 ジャンヌは、今日からさっそく後藤の指導を受けている。


 他の陸上部の連中は、校外で練習だろう。


 ジャンヌは真剣な表情で、後藤の指導を受けているが、

後藤は嬉しさを隠しきれない感じだ。


 集合がかかった。先ずグランド5周のランニングだ。


 陸上部の部室の前を走る度にジャンヌを観察するが、

ジャンヌは時々笑顔を見せている。


 遠くから見ても、お似合いのカップルに見える。

 なんか、二人が仲良さそうなので、だんだん心配になってきた。


 今日は野球部がいないので、グランド全体を使えるので、紅白戦だ。


 俺も右サイドバックで試合をし、ハーフタイムの時点では、

ジャンヌはまだいたけど、試合が終わったらもういなかった。


 後藤もいない。


 俺は二人がどこに消えたか心配になってきた。


 陸上部は、よく、校門の外で練習している。高野台の坂を利用しての練習だ。


 ジャンヌは、おそらくもう帰っただろうけど、

後藤の奴、陸上部に合流してればいいけど。

 なんか、俺は心配だ。


 次の日、ランチタイムだ。


「ジャンヌ、きのう後藤君の指導どうだった? 

速く走れそう?」っとジュリ。


「ええ、とても参考になったわ。走りって、腕振りが大切なんですって。

 それから、私の靴、駄目って言われちゃったの。

 陸上用のランニングシューズって、とっても軽いのね。

 昨日後藤君のランニングシューズ、見せてもらったけど、

とても軽かったわ。

 だから今日、後藤君の指導が終わったら、

藤沢へランニングシューズ買いに行くの」


「ジャンヌ誰と買いに行くの?」とゴリ。


「もちろん後藤君とよ」ゴリが何か言おうとしたが、引っ込めた。


 ジュリが、

「ジャンヌ、今日、シューズ買ったら、早く帰りなさい」

「え?  もちろんよ、なんで?」


「遅くなると、オズが心配するでしょ」


 冷やかされてジャンヌは、顔を赤らめながら、


「オズぅ、心配しないで。

 帰りは、藤沢駅から家の方に行くバス、沢山あるから」


 ジャンヌの奴、男と二人だけになるから心配してるのに、

あいつはぜんぜんわかってないな。


「ジャンヌ、要は、シューズ買ったら真っ直ぐ家に帰れってことだよ」とゴリ。


「え?  もちろんそのつもりよ」

「それならいいんだけど」ゴリもそれ以上何も言わなかった。


 放課後、今日もジャンヌは、グランドの端の、

陸上部の部室の前で練習している。

 相変わらず二人とも楽しそうだ。走りの指導にしては、仲良しすぎる。


 後藤の奴め、調子に乗ってる。ジャンヌの嬉しそうな顔も気にくわない。


 シュート練習しながら小林が、

「おいオズ、あの二人心配だな。昨日もいい感じだったよな。

 お前、うかうかしてると、大橋、後藤に取られちまうぞ。

 しっかりしろよ。

 ところでよー、お前ら、どこまでいってんだ?」


「え?  どこまでって、どこも行ってねえよ」

「お前、とぼけんじゃねえよ! もう最後までいったんか?」


「もう最後までって、なんだよ?」

「もうオズ、お前鈍いなー、だから大橋とやったのかって?」


 俺は小林に、思いがけない事を急に言われ、狼狽してしまった。


「あ、赤くなってら、図星だろ。お前もすみに置けねえな」

「お前、ジャンヌはそんな奴じゃねえって」


「え? なんだオズ、まだお前、やってねえんだ」

「うるせえな! あったりまえだろ」


「なんだオズ、きれいなまま飾って眺めてるだけか。

 お前、そんなんじゃ、後藤に大橋が汚されるの、時間の問題だな。ほら」


 小林が顎をしゃくると、後藤とジャンヌは、

バトンの受け渡しの練習をしている。一組の第二走者は後藤だ。


 後藤はバトンを持ちながら、ジャンヌに覆い被さるように、

腕と手をベタベタ触って指導している。


 ジャンヌも笑顔で楽しそうだ。


 俺は焦ってきた。


 もうジャンヌを、後藤に取られてしまった気がしてきた。

 俺はもう、ジャンヌに嫌われたのかもしれない。


 三好キャプテンが遅れてやって来た。


 ジャンヌを見つけると、


「よー、大橋さん、元気?」

「あ、今日は」


「大橋さん、リレーに出るんだって? 

 聞いたよ。病気で走れない女子が、抽選で当たっちゃったから、

大橋さんが代わってあげたんだって? 」


 ジャンヌが恥ずかしそうに頷いた。


「凄いよな、頑張ってな」

「ハーイ、ありがとうございます」


 昨日の事なのに、もう広まってるんだ。

 ひょっとすると、俺の失態も、おまけに広まってるかもしれないな。


 気のせいか、廊下で女子とすれ違うと、

後ろで振り返ってひそひそ話している気がしていた。


 やっぱ噂になってしまったのか? 参ったな。


 それより、ジャンヌが後藤に汚される。

 そんな、神聖であるべきジャンヌが、絶対あってはならない。

 許せない事だ。


 シュー練(シュート練習)の次にミニゲームだ。


 休憩に入り、部室の前で休んでいると、ジャンヌと後藤が着替えて帰っていく。

 二人俺たちの前を通って行く。


 三好キャプテンが、

「大橋さん、もう終り?」

「はい、今日これから、藤沢へ、ランニングシューズ買いに行くんです」


「そうかい、じゃあなー」

「はい、お先に失礼します」


 ジャンヌは、俺を無視して、目を合わせようとしない。知らんぷりだ。

 やっぱ俺は、ジャンヌに振られてしまったのか。


 二人は楽しそうに帰っていく。

 会話が弾んでいるようで、恋人たちみたいだ。


「おい、オズ、お前、追っかけたほうがいいんじゃねえか? 

 ヤバイぞ大橋」


 確かに俺もそう思う。

 ジャンヌを追っかけて行って、怒鳴りつけたい衝動に駈られた。

 このままだと今晩、ジャンヌが後藤に汚されてしまう!


「よし、始めるぞ」


 三好キャプテンの集合がかかった。


 俺は、心配と嫉妬で胸が張り裂けんばかりだ。

 練習を再開しても、目の焦点が定まらず、練習にならない。

 気がついたら、練習は終わっていた。


 さすがに小林も見かねたのか、

「オズ、心配すんなよ。

 後藤の奴、まさか今晩、いきなり決めちまうってことあねえから」


「ああ」それもそうだな。俺も小林に言われ、少し安心した。


「お前、明日、大橋にびしっと言っとけよ。

 あんまり後藤をその気にさせるんじゃねえって。

 あいつ、誰にでも愛想いいじゃん。だから、誤解する奴、

結構いるんじゃねえ? 後藤みたいに。

 まあ、あの顔で微笑まれちゃ、みんなころっとくるからな。

 先輩たちみたいに」


 黙って聞いている俺に、

「オズ、大丈夫だって。大橋信じてやれよ。

 あいつ、そんな尻軽女じゃねえだろ」


 小林の奴、マッチポンプか。

 俺を散々心配させといて、でもまあ、長い付き合いの友達だし、

やっぱ本気で心配してくれてるのがわかる。

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