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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第七章 花火大会
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【浅間山】

「ただいまー」


 玄関に入ると、オカアがキッチンから、

「お帰りオズ!  早かったわね」


 キッチンから急ぎすぎてよろけながら俺たちを向かえた。

 一刻も早くジャンヌを見たい気持ちで足がもつれたみたいだ。


「只今帰りました」

「ジャンヌさんもお帰りなさい。

 わー、やっぱり決まってるわね、髪!  美容室?」


「ハイ、いつもの美容室なんですけど、

花火大会に浴衣着て行くってお話したら、

髪を結わせて欲しいって言われたものですから。

 そしたらこの花飾りも美容室で用意してもらいました」


「それに、浴衣もとても似合ってるわよ! 髪型も花飾りも」

「ありがとうございます。やっぱり美容室にお願いしてよかったです」


「ちょっと待っててね、今写真撮るから。

 あ、その前にお父さんがお待ちかねなの」


 オカアがジャンヌをダイニングへ促した。


「お母様、これ、井上蒲鉾の小判揚げなんですけど。

 お好きだってオズくんから聞いたものですから」

「わー、嬉しい。ジャンヌさん私、大好物なのよ」


 俺は、ダイニングで一杯やっていたオトウにただいまをした。


「お父様、ただいま帰りました」

「うをー、ジャンヌさん、浴衣バッチリ決まってるね!

 なんか、いつものイメージと全然違うね! 」


「ありがとうございます。

 私、今日、オズくんに、鎌倉の井上蒲鉾教えてもらったんです。

 お父様がお酒のおつまみに、昆布巻き蒲鉾が最高って聞いたものですから、

おみやげに買ってきました。

 蒲鉾に昆布が上手に巻かれているんですね」


「えーえ、ほんとー? 」


 オトウったら、まるでオラウータンみたいに胸を張り、

両腕を拡げて雄叫びをあげたようだ。

 俺の予想した通り、大喜びだ。


「な、ジャンヌ、言ったとおりだろ!」


「ジャンヌさん、ありがとう。

 気が効くね。おじさん、井上蒲鉾の昆布かま、大好物なんだ。

 酒のつまみに最高なんだ」


「お父様、昆布かま、少し召し上がりますか?」

「もちろんいただくよ」


「お母様、私が切って差し上げてもいいですか?」

「まあ、ジャンヌさん、もうお父さん、メロメロになっちゃうわね」


 オカアとジャンヌがキッチンへ。

 キッチンからオカアとジャンヌの楽しげな会話が聞こえてくる。


「ちょっと待っててね、今浴衣、たすき掛けしてあげるからね」

「お母様ごめんなさい。私がわがまま言って」


「いいのよ、家ね、子供オズだけでしょ、私、もう一人、女の子欲しかったの、

だからジャンヌさんがこうして家にきてくれると、私、とてもうれしいの。

 それにしても、髪型、とってもお似合いよ。

 ジャンヌさん、うなじがとってもきれいね」


「ありがとうございます。 美容室でも言われたんですけど」

「そうでしょ、ジャンヌさんなら美容師もやりがいあるわね」


 やっぱジャンヌのうなじ、特別きれいなんだ。

 俺はまた確認したくなった。


 キッチンをのぞくと、オカアが、

「なにオズ? ジャンヌさんのうなじ見に来たの? 

 ほら、きれいでしょ」


 ジャンヌが振り返ると、恥ずかしげに頬を染めた。


 オトウまで「どれどれ」って言いながら、


「なに、お父さんまで……もうお父さんったら、顔がいやらしいわよ」


「オトウ、エロおやじ丸出しだよ。

 ジャンヌが恥ずかしがってるじゃん。

 もうお金とるよ。なあジャンヌ」


「いいえぇ、お父様、見ていただけますか?」 

 

 ジャンヌはオトウに向かって恥ずかしげにうなじをみせた。


「うん、きれいだ。おじさんでも判るよ。天使のうなじだな」


「ハイハイお父さん、もうそっちで待っててくださいな」


 なんか俺も、ジャンヌのおかげで親孝行してるし、

 ジャンヌがいると、我が家が和むな。


「ハイ、まな板と包丁ね」

「ありがとうございます。なんか、ぬるぬるしますね」


「ジャンヌさん、滑らないように気を付けてね」


 なんかジャンヌって、おもてなしの心を学んだだけあって、

人を喜ばせるのが上手だし。


「ワサビとお醤油は、向こうにお刺身があるから大丈夫よ」

「はい、お母様」 


 ジャンヌは、小皿に盛った昆布かまをお盆にのせて、

ダイニングで一杯やりながら待ちかねているオトウへ、


「お父様、少しですけどどうぞ」

「おー、昆布かま、昆布かま。ジャンヌさん、ありがとう」


 オトウは満面笑みっていうやつで、わさびをチューブから、

え! っていうほど醬油の小皿に出して、昆布かまを一切れ食べると、


「おー、この味、この味」って言いながら酒瓶を手にとって、


「『浅間ラベル』の純米吟醸と最高に合うんだ。

 この浅間山のラベル、お爺ちゃんが描いたんだよ」


 オトウは、祖父の描いた絵がラベルになっている日本酒を呑んでいる。

 祖父は洋画家で、実家が長野の中山道沿いにある造り酒屋で、

元禄二年創業の大澤酒造だ。そこで造ってる酒だ。


「あ、今日、オズ君から聞いたんですけど、

おじい様、洋画家でいらっしゃったんですか? 

 私、多聞院のヒマラヤの絵、拝見しましたよ。

 私、どこかで見たタッチだなって、判らなかったんです。

 オズ君に、玄関とリビングに架かっている絵、

おじい様の描かれた絵だって聞いたものですから。

 とっても素晴らしい絵ですね」


「おう、ジャンヌさん、よく判ったね」


「オトウ、ジャンヌ、中学の時、美術部だったんだって。

 よくお父さんと、美術展観に行ったりしてるんだって」


「ええ、私も父も、絵画鑑賞が好きなんです。

 お父様、ちょっと見せていただけますか?」


 ジャンヌはオトウから浅間ラベルを受け取ると、

「おじい様、山の絵が得意なんですね。素晴らしい絵ですね。

 あ、お父様、お一ついかがですか?」って言いながら、

オトウに浅間ラベルを向けると、


「え、ジャンヌさん、注いでくれるの? 

 なんか、天使にお酌してもらうなんて、

ここは天国か、竜宮城みたいだね」


「まーお父さん、鼻の下伸ばしちゃって。もうニヤケすぎですよ」


「うん、うまい。うまい酒に、うまいつまみ、

それに浴衣の似合う乙姫様までいて、最高! ジャンヌさん。

ありがとね、ジャンヌさん。ジャンヌさんも昆布かま、味見してみたら?」


「ありがとうございます、お父様。

 家にはオズくんがおみやげに買ってくれたんですよ。それに小判揚げも」


「オトウ、俺がジャンヌに買った分は、オカアに請求するけど、

ジャンヌのおみやげは、ジャンヌの小遣いだってさ」


「え、そうなの? それならジャンヌさんに何かお礼しないとな、

あ、そうだ、この前話していた、メイド服はどうだろう。

 家で台所手伝ってくれる時、やはり着替えたほうがいいね、な、お母さん」


「お父さん、自分がジャンヌさんのメイド服姿、見たいだけなんでしょ、

もう、お父さんたら」


「お母様、そのお話なんですけど、母に話しましたら、

お母様が宜しかったら、夕食とか、お台所、お手伝いする時、

着替え用に買ってもいいっていうことになったんですけど。

 いかがでしょうか?」


「ジャンヌさんのお母様がいいっておっしゃったのなら、私はかまいませんけど。

 でもジャンヌさん自身はいいの?」


「ええ、それに、9月からまた、六国登山が始まりますでしょ。

 モンチも部活の帰りに直接おじゃまして、夕食もご馳走になるし、

私も学校の帰りに自宅に帰らず、

お母様の夕食のお手伝いさせていただければって」


「え、ジャンヌさん、夕食のお手伝いしてくれるの? 

 それは楽しみにしてるわよ」


 うをー、やったね! これでジャンヌのメイド服姿が見られる。

 さてと、どんなメイド服が似合うかな? 

 ちょーうきうきしてきた。


「よーしオズ、ジャンヌさんのメイド服に乾杯」

「オトウ、なんで俺と乾杯なんだよ?」


「オズ、お前、お父さん以上だよ。

 ジャンヌさんのメイド服姿見てみたいんだろ! 

 お前なあ、今、最高に幸せそうな顔してたぞ、ニヤニヤして」


「あ、オズ君、また空想の世界へ行ってたの?」


 やべ、俺がジャンヌのメイド服姿、想像していたのがばれてしまった。


「お母様の許可いただいたから、

オズ君は、セーラが着ていたようなみすぼらしいメイド服がいいんでしょ、

お父様はフリルの付いたメイド服で、

メイドカチューシャもあった方がお好きなんでしたよね」


「ジャンヌさんよく覚えているね、

ジャンヌさんは、機能的で、動き易いやつだったよね」


「わぁ、お父様もよく覚えていらっしゃいますね。

 私も実は、メイド服着てみたかったんです。

 ですから今度、父と秋葉原か原宿へ、

メイド服見に行こうって話になっているんです」


「そうかい、それで、お父さんの好みは?」

「家の父はよくわからないみたいですよ」


「お父さんもオズも、また楽しみが一つ増えて良かったですね」


 オカアがジャンヌの浴衣姿を眺めながら、

「私もジャンヌさんのメイド服姿、見てみたくなっちゃったわ」


「なんだよオカア、そんなんなら始めから賛成してくれよ。

 もう勝手なんだから」


 ジャンヌは笑い転げながら俺ん家の会話を聴いている。


「あ、写真、写真。ちょっと待ってね、今デジカメもってくるから」


 一通り写真を撮ると、


「ジャンヌさん、そろそろ帰りましょうか」

「はい、宜しくお願いします。お父様おじゃましました」


「おう、ジャンヌさん、ごちそうさまね、またね」


「オズはお留守番ね」

「え? また?」


「今日はお母さんとジャンヌさんの二人だけで送らせてよ。

 私もうきうきしてるんだから」


 ジャンヌが家にいると、みんながうきうきさせられるんだ。

 ジャンヌってすげえな。

 俺ん家は、みんなジャンヌの虜になってしまったみたいだ。

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