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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第七章 花火大会
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【材木座海岸】

 海岸に行くまでに、時々打ち上げ花火の音が聞こえる。


『さあ始まるぞ、早く来いっていわれてるようで、気が急いてくる』


 海岸に着くと、人の流れは、鎌倉駅からそのまま138号線を渡って、

由比ガ浜海岸の方へ吸い込まれていく。


 俺は、138号線を渡ると、左側の滑川を渡って、国道沿いに小坪方面へ歩いていく。


 打ち上げ花火は、毎年由比ガ浜海岸の前で上がるから、

由比ガ浜の方が混雑する。


 材木座も小坪の方に行くほど空いてくる。

 材木座の中ほどで海岸へ降りて行った。


 まだ、砂浜を歩いても、広いのか、大分空きスペースが在る。


 昼間の海水浴の延長で、そのまま肌を焼いているのか? 

 眠たくて寝てるのか、ビニールシートの上で、水着で寝てるのが沢山いる。


 俺は、帰りのことを考えて、比較的海岸入口近くにスペースをゲットした。


 ビニールシートを敷き、荷物を置いて、簡易ベンチを置き、並んで座った。


 まだ6時前だ。花火は7時からだから、まだ一時間もある。


「まだ着替えてない人たちも、かなりいるわね」

「きっと始めから、花火大会観るつもりなんだろう」


「でもみんな、よく焼けているわね」

「ジャンヌさあ、色白いじゃん。あれだけ焼けるの、大変じゃん」


「そうね、始めは赤くなってお風呂に入ると痛いのよね」


 俺もジャンヌと海水浴にも来てみたいし、水着のジャンヌも見てみたい。

 スタイルは抜群だし、でも、ビキニなんて着てこられたら、俺、

天使のジャンヌの水着姿なんか見て、色情をもよおしたらまずいしな。

やっぱジャンヌには、スクール水着が似合うかもな。


 そもそも、俺たち、まだまともに手も握ってないし、

恋人同士までいってない。

 なんせ今日が、初デートだから、二人で海水浴は、大胆すぎるかも。

 もしも誘って、軽蔑され、断られたら、

俺は一遍にジャンヌの信頼を失くしてしまう。


 色んな思いがわいてくる。


「オズぅ、なに考えているの?」ジャンヌが俺をのぞきこんだ。


 俺ははっとして我に返り、ジャンヌに俺の心を見透かされた気がして、

顔が火照ってしまった。


「いや、別になんでもない」


「ねえ、オズぅ、お母様が仰ってたけど、オズって、小さい頃から、

いろいろ空想するのが大好きだったんですって?」

「うん、俺ってそうかもな」


「オズったら、さっきも独りで、楽しそうにニコニコしていたわ」


 ジャンヌは俺のこと、オカアみたいにニヤニヤしてるって言わないで、

ニコニコって言ってくれた。

 それにキモイなんてジャンヌは言わない。

 俺はジャンヌのそうした思いやりが嬉しくなった。

 やっぱりジャンヌはすっげー優しいんだ。


「あ、オズ、また独りでニコニコしている。オズ一人でずるーい。

 今度はなに考えていたのか教えてー?」


 今度はジャンヌは、両手を胸に抱きながら、

俺に顔を、ぐっと近づけてのぞき込む。


 しまった。言われたそばからまたやってしまった。

 俺は顔を遠ざけながら、


「あのさージャンヌ、オカアは俺のこと、ニヤニヤしてるって、

キモイみたいな言い方するんだけど。

 ニコニコ楽しそうって言ってくれたじゃん。

 俺、すっげー嬉しかったんだ。

 ジャンヌのそういった思いやりが」


「え?、ごめんなさいオズ。

 私、意識して使ってなかったわ。

 だってオズ、ほんとに楽しそうに、ニコニコ顔だったのよ」


「そうかジャンヌ、でも俺、今もジャンヌがニヤケ顔って言わないで、

ニコニコ顔って言ってくれたじゃん。

 俺のこと、好意的に見てくれてるなって、

やっぱオカアと比較して、俺、すっげー嬉しいんだ」


「ふーん、そうなんだ。

 私、よく解からないけど、だけどオズ、自分のこと、

キモイなんて言わないで。

 全然そんなことないから。お願いね、オズ」


 俺は、ここで話を切り替えておかないと、さっき、

ジャンヌの水着姿を空想していたことが、ばれないように、


「ジャンヌ、麦茶持ってきたけど、飲むか? 

 俺、お菓子も考えたんだけど、ジャンヌのお菓子の好み、

判んないし、持ってこなかった」


「ありがとう、オズ。

 私もポットにミルクティとサンドイッチつくって持ってきたの。

 オズぅ、食べる?」


「おう、ジャンヌの手作り?」

「ええ、あのね、オズ、チーズ好き?」


「ああ、好きだよ」

「ああよかった。

 サンドイッチ、チーズサンドも入っているの。ハムと玉子も作ってきたの」


 ジャンヌは、籠バックから小さな筒に入ったおしぼりを出し、俺に渡しながら、

「これで手を拭いてね」って、俺は、女性が側にいてくれるって、

癒されるし、なんか浮き浮きしてくる。


 次にジャンヌは、タッパの蓋を取り、手作りサンドを勧めてくれた。


 俺はチーズサンドをつまみ、一口食べると、美味しさと嬉しさで思わず、

おもいっきりニヤケてしまった。


 ジャンヌも俺の表情に注目しながら、釣られて笑ってしまっている。


「オズお味どう?」

「すげー美味い、こんな美味いサンド、俺初めて食べた。

ジャンヌすげー料理上手じゃん。それに、このパンもすげー美味いよ」


「ありがとう、オズ、サンドイッチ用のパン、西鎌倉の『パイニー』っていう、

家の近くにある、美味しいパン屋さんのよ。ハムも玉子も食べてみてね」


 ジャンヌは、膝の上にタッパを置いて、微笑みながら俺を見ている。


「うん、ハムも、玉子も最高。ジャンヌも一緒に食べようよ」

「ありがとう、オズ、でも私、まだお腹空いてないから大丈夫よ。

 オズ、温かいミルクティなんだけど、飲む? 

 それとも、オズの持ってきた麦茶にする?」


「もちろんミルクティだよ。サンドイッチに合うしな。

 ジャンヌ気がきくじゃん」


 ジャンヌは、タッパを置いて、バックをまさぐっている。


 手作りサンドに、俺の好きなミルクティか、

女性が側にいてくれるって、こんなに気持ちが和むんだ。

 至れり尽くせりだ。これが大和撫子か。俺は独り、悦に入っていた。


「オズぅ」


 俺はハットして我に返ると、ジャンヌがティーカップを持っていた。


「はい、ミルクティ。オズぅ、またニコニコして、

自分の世界へ入っていたわね」


「あ、サンキュージャンヌ。俺、今、女性っていいなって思ってたんだ。

 女性が側にいるって、こんなにも心が癒されるんだって」


「わー嬉しい。オズって、女の子褒めるの、とっても上手ね」


 俺は、クマの童画のティーカップを見ながら、

「ジャンヌやっぱ違うよな。このカップも、わざわざ持ってきてくれてさ、

ほっこりするよな。

 手作りサンドとミルクティだけでも最高なのに、

やっぱお茶やってるから、それに、おばあちゃんから、

〈おもてなしの心〉を教わったからかもな」


「オズぅ、カップ、気づいてもらえたし、それに、気にいってもらえて、

とっても嬉しいわ。

 オズが言っていたように、お茶の世界って、

亭主も客も、相手のことを、最大限思いやり合うの」


「そうか、それなら俺も、ジャンヌにお茶注いでやろう。

 ジャンヌもミルクティだろ? ジャンヌのカップは?」


「あ、ありがとう、オズ、私、麦茶いただくわ」

「え、何で? ジャンヌって、どう見たって、

麦茶よりホットミルクティの方が合いそうじゃん。

 あ、俺が麦茶持ってきたから、それで俺に、気ぃ使ってんのか?」


「ううん、私、喉乾いたからよ」


「ジャンヌさあ、さっきジャンヌが言ってた、

お茶の世界の、相手を思いやる心だよな。

 俺がさあ、せっかく持ってきた麦茶、

ジャンヌが飲んでくれるのは嬉しいけど。

 俺的にはやっぱ、ジャンヌと同じものっていうか、

一緒にミルクティ、味わいたいんだ。

 二人で、ミルクティ、美味しいなって。

 俺、それに、ジャンヌのティーカップも見てみたい」


 俺はジャンヌからボトルを取り上げ、

「ジャンヌ、カップ」って促した。

 ジャンヌはちょっと躊躇したが、恥ずかしげに出したカップは、

俺のとおそろいでカップルだった。


「ジャンヌ、オソロじゃん」


 ジャンヌは、頷きながら頬を少し染め、嬉しそうにカップを指し出した。


 俺はジャンヌにミルクティを注ぐと、


「ありがとう、オズ。オズって優しいのね」

「いやぁ、〈おもてなしの心〉じゃん。ジャンヌから教わったのさ。

 じゃあジャンヌ、かんぱーい!」


 俺もオトウの乾杯の癖がうつってしまった。

 俺とジャンヌはカップを合わせ、一口飲むと、


「これ甘くてうめー。家で入れる牛乳ベースのミルクティじゃん」

「ええ、ヒマラヤ風ミルクティ、お母様から入れ方教わったの。

 オズはコーヒーより紅茶の方が好きなんでしょ?」


「俺、コーヒー飲むと、胃がおかしくなって、ニキビが出ちゃうんだよ。

 だから家じゃコーヒーは飲まないな」


「そうなんだ、でもお母様、オズ、食べ物は好き嫌いないって仰っていたわ」


「ジャンヌはどうなの、コーヒーと紅茶、どっちが好きか?」

「家ももっぱら紅茶ね、家にはダージリンとかプリンスオブウェールズとか、

いろいろな種類の紅茶を楽しんでいるわ。飲み方は、お砂糖いれるだけよ」


「なんか俺たち、最近までジャンヌが修行してたから、

お祈りばっかだったじゃん。

 だからお互いの事、食べ物の好みとか、あんまり知らないんだよな。

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