【手錠】
7月に入って、一学期の期末テストも終わり、久々のランチタイムだ。
テストが終わった解放感と、もうすぐ夏休みだから、
なんとなくみんなの表情が明るい。
ジャンヌが、
「ねえジュリ、夏休みに入るとすぐなんだけど、鎌倉の花火大会行かない?
私、江の島の花火大会は行ったことあるんだけど、鎌倉は行ったことないの」
「あ、ごめんジャンヌ、7月の終りに、鎌倉芸術館で演劇部の公演があるの、
稽古が詰まってるの。
もうみんな、一丸となって稽古してるんだ。
公演が終わるまで無理なの。せっかくなのに悪いわね」
「ううん、いいの。それより、公演なら是非観に行くわ。ね、オズ」
「ああ」 そういえば、オカアも公演やる時は、観に行くって言ってたな。
「俺も、江の島の花火大会なら何回か行ったことあるけど、鎌倉はないな。
やっぱ公演直前だから無理だなジュリ」
「ごめんなさい、モンチ。気にしないで。お稽古頑張ってね。
二人の舞台、楽しみにしてるから」
「私も江の島は、小田急で一本だから何回か行ったけど、鎌倉はないな。
そうだ、オズ、あなた暇なんでしょ?」
「え? 暇ってことはないけど、部活あるし、
それに来週から選手権のブロック予選が始まるから」
「部活っていっても、夕方には練習終わるでしょ、
それに、高校サッカーの選手権っていうけど、万が一、
奇跡の躍進が続いても、試合、昼過ぎには終わるじゃない」
「うん、まあ……」
「だったらジャンヌ、連れてってあげなさいよ。あなた地元でしょ」
ジャンヌが目を輝かせてジュリを見て、ちらっと俺を見ると、
顔を赤くして下を向いてしまった。
俺も、ジャンヌと二人だけで行くなんて、突然に言われ、狼狽してしまった。
「あー、お、俺は、行ってもいいんだけど……」
「はぁあ、なにオズ! 俺は行ってもいいって、
あんた、女の子から誘わせる気?
相変わらず使えないわねえ」
ジュリが恐い顔で俺にたたみかけてきた。
「ジュリ、オズをあんまり叱らないで」
ジャンヌは心配顔で、下を向いてしまった。
ヤバイ。またジャンヌを困らせてしまった。
「ジャンヌ」 一言発すると、心臓の鼓動が急に高まり、
息が詰まって言葉が続かない。しばし沈黙のあと、
「はい」 ジャンヌは、下を向いたまま小さな声で返事した。
「か、鎌倉 の 花火…… 大会……い、 行ったこと ないんだ」
「はい」 やはり下を向いたままだけど、今度は小さく頷いた。
俺の言葉を一言も漏らすまいと、全神経を集中している。
俺は、胸から首にかけて、より締め付けられ苦しい。
「お、 俺、よく ご存じだから……ご、 ご案内……しましょうか……って
思ってるんですけど……い 、いかがでしょうか? 」
俺は、顔が火照って、頭が真っ白で、自分で何を言ってるのかわからない。
「宜しくお願いします」 ジャンヌは机に三つ指ついての返事だ。
やったー! ジャンヌが了解してくれた。
俺は、緊張が溶け、大きな歓びが全身に拡がった。
ジャンヌも、取り乱してる俺をフォローするために、
俺のヘンテコな敬語に合わせて、ジョークで返してくれたんでは無さそうだ。
赤い顔して下を向いている。
ジュリとゴリが爆笑している。
ジュリが笑いすぎて、涙をふきながら、
「あなたたち、まるで、お見合いの席みたいなんだもん。
でもジャンヌ、よかったじゃない。花火大会行けて」
ジャンヌも、恥ずかしがりながら顔をあげ、頷くと満面の笑みだ。
「ええ、ジュリ、ありがとう。オズもありがとう」
「なんだジャンヌ、俺、誘ってもし断られたらどうしようって、
そしたらすげーへこむじゃん。
だから緊張しちゃったん……」
ジャンヌが強く違う違うと首を横に振ってくれた。
「オズう! ジャンヌがオズの誘い、断るわけないじゃない。……たくぅー」
ジャンヌがまた、うんうんって頷いてくれた。
もしかしたら俺、自信もってもいいのかなって、
半身半疑だけど、思わずニヤけてしまった。
「私ねえ、ジュリ。今年、浴衣つくったの。
茶道部で、文化祭では、2・3年生は、浴衣着てお点前するでしょ、
それに、着付けも習うから」
「あ、それでか、花火大会行きたいって?」
「それもあるけど、みんなでわいわいしながら花火大会観に行くって、
なんか楽しそうだから」
「そうだよねー、浴衣着てみんなで行けば、高校生の青春そのものだよねー。
浴衣はいいけどジャンヌ、その髪どうするの?
アップにしてまとめるの?」
「ううん、まだ考えていないわ」
「きっとジャンヌ、アップにしたら、きまると思うよ。
ああ、当日のお楽しみね。ナイショナイショ」
「やだ、ジュリったら、私、本当にまだなにも考えてないわ」
「オズ、オズん家、犬飼ってないから、うちの散歩用の首輪貸してあげるわ」
「え、なんでさ?」
「だってジャンヌ、浴衣着て、それも髪アップにするんでしょ。
だったら男ども、グッときて、ほっとかないわよ。拐われちゃうわよ。
オズ、しっかり繋いどかないと」
「え、私、犬の首輪するの?」
「いや、手錠の方が間違いないな」
「えー? オズ、私に手錠して観に行くの?」
「それなら、囚人が逃げないように、腰縄巻かれるじゃん。
腰縄でもいいけど」
ジャンヌは、困惑の表情をしている。
「オズぅ、それなら私……」
ヤバイ。ジャンヌが行かないなんて言い出されそうだ。
「……浴衣着ないし、髪もアップにしないから、普通でお願いできる?」
やれやれ、俺はほっとした。
「ジャンヌ、その、普通ってなに?」
「あのぉー、そのぉー、手錠とかぁー、腰縄とかなしで、
普通に連れて行って欲しいんだけど。ダメぇ?」
可哀想に、ジャンヌに冗談が通じなかったようだ。
「ジュリ、俺、なんか、罪悪感感じてきた」
「オズぅ、何かいけないことしたの?」
「ハイ、すいません」
「え、オズが捕まっちゃうの?」
「ジャンヌ、浴衣も髪アップも大丈夫よ、そのかわし、
オズがジャンヌの手、ガッチリ握って離さないから。
いいわね、ジャンヌ」
ジャンヌは頷き、自分の手を見つめ、
俺を見ると顔を赤らめ下を向いてしまった。
ジャンヌは、人の言動は、全て真に受けるから、冗談も、裏を読んだり、
まして吉本は理解出来ないだろう。
やっぱりジャンヌは、今のままの、純真無垢でいてもらいたい。
当日ジャンヌは浴衣かあ。俺も浴衣着たら、ジャンヌの奴、きっと歓ぶな。
よし、オカアに頼んで浴衣買ってもらおう。
そしてジャンヌに内緒にしておいて、当日びっくりさせてやろう。




