【初ランチ】
今日は登校二日目だ、この週末は、月曜日が待ち遠しくてたまらなかった。
というのも、ジャンヌに早く会いたかったからだ。
学校は、俺ん家(ち)から目と鼻の先だから、余裕で登校だ。でも心もち早めに登校した。
教室に入ると、ジャンヌは登校していて、別の席で女子と話していた。
ゴリは、隣のジュリと、朝から話が盛り上がっていた。ゴリが俺に気づき、
「よう! おはよう」と挨拶、俺は「オハヨース」と挨拶。
ジュリも「オズ、オハヨー」とフレンドリーに返してくれた。
傍目にも二人の息が合っていて、相姓の良さは明らかだ。理想通りの展開だ。
俺は席に着くと、先週学校から配布された印刷物を見るフリをしながら、
ジャンヌが早く席に戻らないか、目だけチラチラジャンヌを観察している。
俺もオトウの遺伝子を完璧に継承しているようだ。自己嫌悪。
始業時間が近づき、やっとジャンヌが自分の席に戻ってきた。
俺は、相変わらず配布物を読むフリをしながら全神経をジャンヌに集中。
「大澤君、おはよう」やったー。俺は、不意に挨拶されたみたいに、
「あ、オハヨース」と演技含みの挨拶。今朝もジャンヌの『素敵な笑顔』を見てしまった。
オトウのひやかしを思い出し、ニヤケてしまった。
昼休みに初めての昼食の時間だ。ジュリが、
「ジャンヌ、一緒にお昼しよう」って誘った。
「わーい、嬉しい」とジャンヌは例の微笑み。
「ちょっと、ゴリ、邪魔だから机どかして」って言いながら、机を動かしつつ、
「オズもゴリも一緒に食べようか。変人、いや、変な名前どうしってことで」
「その変な名前っていうのは、ジュリの本名も含むってことだよな」ゴリも軽口をたたく。
ジャンヌは相変わらず嬉しそうに聞いている。
俺は、女子と机を並べての昼食なんて、初めてだから緊張する。まして隣がジャンヌだ。
そこは、根っからの社交家でもあるジュリは、そつがない。
みんなでお弁当を食べながら、ジュリが、
「私とゴリが、この学校で演劇をやりたいって思ったのは、
六国高校の演劇部の舞台を鑑賞したからなの。それがねー、聞いてージャンヌ、
私とゴリね、おんなじ公演観て感動してたのよ。そして、絶対六国高校に入学して、
演劇部に入って、舞台に立って人々を感動させたいって」
「二人を感動させる舞台を演じられるって、この高校の演劇部って凄いのね」
「凄いなんてもんじゃないわよ、舞台もセットも衣装も、もちろん演技も本格的なんだから。
ねえ、ゴリ」
ジュリがゴリに同意を求めた。
「うん、プロ顔負けって感じだよな」
「ジュリと大田君って、自分たちの知らないところで、出会いがあったのね」
ジャンヌは、『ゴリ』って呼ばないんだ。俺とゴリのどちらが先に、ジャンヌから、
『オズ』『ゴリ』って愛称で呼んでもらえるか。俺にとっては重要なことだ。
てなことを考えてしまっていた。自分が恥ずかしい。
俺とゴリはライバルではなく、ともに協力してジャンヌを守っていく同志なのに、
まして、ゴリにはジュリという彼女? がいるのに、つくづく自分の狭量に自己嫌悪と反省だ。
こんなんじゃ、ジャンヌに嫌われてしまうし、守護していく資格さえなくなってしまう。
妄想と反省でぼーとしていたら、いきなりジュリにふられた。
「オズはどうしてこの高校選んだの?」
「決まってるジャン、目の前に高校があるのに、行けるなら行かない手はないだろ。
俺、普通の奴らみたいに、通学に時間かけるんなら、その分勉強時間にあてれば、
時間を有効に使えると思ってさ。それに、サッカー部も、俺のレベルに合ってるし」
「それならオズ、成績ぐんと上がりそうね。少なくても勉強時間は、私たちよりあり
そうだから」とジュリ
「じゃあ、ジャンヌは?」
「六国高校は、六国見山の麓にあるでしょ、私の家(うち)、西鎌倉だから、
大船からモノレールに乗ると、六国見山がよく見えるの」
「うん、ルミネのレストランからもよく見えるし、うちの高校もよく見えるよな」
ゴリの言うことにみんなうなずく。
「私が中1の時、あの山に登ってみたいなって、お父さんと登ったの。
お母さんにお弁当作ってもらって、水筒持って、大船駅から歩いて登ったの。
天気もよくて、頂上はとても素晴らしい眺めだったわ。そこでお弁当食べて、
しばらく休憩して下ったんだけど、登りと反対側から下ったんだけど、
ちょうど六国高校の前に出たの」
「『六国高校前』のバス停の先に出るんでしょ」とジュリ。
ジャンヌは「ええ」
「バス通りを歩いていくと、六国高校の正門があって、お父さんと校舎を見学させても
らったの。そしたら校舎から富士山がとっても素晴らしく見えたの。
私この校舎で学びたいって思ったの」
「私も中学の先輩から、夕日に染まる富士の眺めは素晴らしいって、聞いたことがあるわ」
続けてジュリが、
「ねえ、ジャンヌ、私も登ってみたい」
「ええ、いいわよ、私も3年ぶりだし、又登ってみたい」
「ゴリも登ったことないわよね?」
「うん」
「じゃあ、一緒に登ろう。オズは自分の家の庭みたいなんでしょ。だから道案内お願いね」
「登るって言っても、そんなに高い山じゃないから、学校からでも10分もかからないと思うよ」
今週はみんな早く帰れそうなので、今週登ってみることになった。
食事が終って、俺とゴリの二人になったので、
「今日、ゴリに相談したいことがあるんだ、学校の帰り、俺ん家へ寄ってくれないか?
何か用事ある?」
「いや、俺の方もオズに確認したいことがあったんだ」