【家族】
俺は入場者にお礼と感想を聞いていると、沙也香ちゃん一家がやってきた。
両親と弟も後に続いている。
沙也香ちゃんは、ジャンヌを探しながら歩いてる感じだ。
「沙也香ちゃん」
俺が声を掛けると、一瞬びっくりしてすぐに俺と気がつき、
「あ、こんにちは」
知ってる人に出会った喜びの表情だ。
「やあ、いらっしゃい。
お父さんも、雨の中ありがとうございます」
お父さんは、俺にお母さんを紹介しながら、
「こちらジャンヌさんのお友達で、一緒に助けていただいた生徒さん」
「こんにちは、はじめまして、1年1組の大澤です」
「まあ、その節は主人と沙也香が大変お世話になりまして。
私も機会があれば、直接お会いしてお礼を申し上げたかったんです」
「いやあ、僕はジャンヌにくっついていただけですから」
お母さんと話してる後ろに控えている弟の裕太君と目が合った。
俺はすかさず、
「こんにちは」って挨拶すると、
「こんにちは」ってぴょこんと頭を下げて返してくれた。
姉に似てしっかりしてそうだ。
再びお母さんに、
「ジャンヌでしたら俺と同じ1組なんですけど、
今あいつ、茶道部のお茶会手伝ってますよ。
昼ごろ戻ってくると思いますよ。
ジャンヌも1組の出し物の、お化け屋敷の幽霊やるんですよ」
「え、ジャンヌお姉さんが幽霊やるってほんとですか?」
沙也香ちゃんが怪訝そうに俺に確認してきた。
「ああ、クラスの髪の長い女子三人で担当するんだ」
「ええー、ジャンヌお姉さんが幽霊なんて全然似合いませんよ。
天使なんですから。天使の屋敷とかで、天使役がぴったりなのに」
「それじゃあみなさん、茶道部のお茶会のところへ案内しますよ」
「ありがとうございます、じゃあご案内していただけます?」
お母さんは紫帆祭のパンフレットを確認している。
「二階の作法室と隣の被服室を使ってるんです」
「ジャンヌお姉さん、茶道部なんですか?」
「ああ、1年は雑用係で、お点前は2・3年生がやるみたいなんだけど」
「あのー、ジャンヌお姉さん、苗字はなんていうんですか?」
「あ、そうか。大橋っていうんだ」
「大橋ジャンヌさんておっしゃるんですね。
いやー私もあれだけお世話になっていて、苗字も知らないで失礼しました」
「いえいえ、こちらこそ」
「大澤さん、改めまして、私田村秀樹と申します。
家内の宏子です。長男の裕太です」
最後に沙也香ちゃんの肩に手を置き、
「そして田村沙也香です」
みんなから一斉によろしくお願いしますっていわれた。
「えーと、俺いや、自分は大澤小角っていいます。
小さいに三角の角って書きます。
それからもう一人、背のでかい奴がいたでしょ、
あれは大田猿田彦っていいます」
お父さんは、手を俺に向けながら、確認するように、
「大澤小角さんに、大橋ジャンヌさんに、大田猿田彦さんでよかったですね。
あのー、大変失礼なことお聞きするんですけど、みなさん、本名なんですか?」
「はい、みんな変わった名前ですよね。
私は役行者から、大田は猿田彦大神から取ってますし」
「ほー、みなさん、歴史の教科書かなにかに出てきそうなお名前ですね。
意味深な、それぞれお役目がありそうな感じがしますね」
だんだんヤバそうになってきた。俺たちの素姓がばれそうだ。
「ジャンヌお姉さんは、ジャンヌ・ダルクから取った名前ですか?」
俺は一瞬躊躇した。
「さあ、それはよく判んないけど、そうかもね」
「福岡で総理を救った金髪の女子高生のグループって、
ジャンヌお姉さんと関係のあるグループなのですか?
私、絶対ジャンヌお姉さんと同じグループじゃないかなって。
だって、ジャンヌお姉さん、大天使ミカエルの指導を受けているし、
イエス様とも繋がっているでしょ。
それに、宝くじの奇跡だって、パパが1枚、当たりくじを引いたんじゃなくって、
ジャンヌお姉さんが、1等が当たるように神様にお願いされたんでしょ?」
俺は、沙也香ちゃんに問い詰められてるみたいで、返答に困ってしまった。
「さあ、それは……」話しながら作法室の前まで来ていた。
お茶会の予約受付の女子に、
大橋さんにお客さんだからと呼んでもらった。
すぐにジャンヌが隣の被服室から出てきた。
「まあ沙也香ちゃん、良く来てくれたわね……」
ジャンヌは沙也香ちゃんを抱きしめた。
二人ともすげー喜び合っている。
「私、また六国高校へ来ちゃいました。
今日は家族全員でジャンヌお姉さんに会いにきました」
「お父さん、お久しぶりです。お元気ですか?」
いつものジャンヌスマイルだ。
「あのー、大橋ジャンヌさんておっしゃるんですね。
先ほど大澤さんからお聞きしました。
私、申し遅れましたが、田村秀樹と申します。
今日はいい機会だから、家内もジャンヌさんに会ってお礼を言いたいと。
妻の宏子です」
「こんにちは、大橋ジャンヌと申します。沙也香ちゃんのお母さんですか」
「はい、宏子と申します」
「あ、君は裕太君ね? こんにちは、よく来てくれたわね」
裕太君は、ちょこんと頭を下げ、
なんで俺の名前知ってるのっていう顔している。
「ここじゃなんですから、移動しましょうか。ジャンヌ大丈夫?」
「ええ、お客様がいらっしゃったからっていってあるから」
俺たちは休憩スペースへ移動しながら、
「すいませんね、お忙しいところ」
「いいえぇ、私、またお会い出来て、とっても嬉しいんです」
休憩スペースへくると、
「大橋ジャンヌさん、先日は、私共一家をお救い頂き、
本当にありがとうございました。
なんとお礼を申し上げてよいやら……」
「いえいえ、沙也香ちゃんの祈りがご家族を救われたんですよ。
沙也香ちゃんの祈りをイエス様が受けとめられたんです。
私は単なるメッセンジャーですから」
「とんでもございません。
ジャンヌさんがいらっしゃらなければ、私ども、どうなっていたか」
「ママ、ジャンヌさんたち、私たち家族のために、祈ってくれてたんですって」
ここでお母さんが涙を流しながら、
「まあ、なんてお優しい人たちなんでしょう。
見ず知らずの私どものために……」
「ねえ、ジャンヌお姉さん、ジャンヌお姉さんって、
ジャンヌダルクに変身できるんですか?」
ズバリの質問に、ジャンヌも絶句した。
「あ、あのー、私、お祈りしているときは、自分でもよく解からないの。
それに……」
「福岡で総理を救ったのは、やっぱりジャンヌお姉さんだったんですね?」
「さ、沙也香ちゃん、わ、私は別に……」
ジャンヌが困惑している。
「あのね、沙也香ちゃん、
ジャンヌは大天使ミカエルの指導を受けてるって言ったよね」
「はい」
「ジャンヌは、地球の安寧と世界の平和が達成されるよう、
いろいろなミッションを担っているんだ。
そのミッションが遂行されるとき、その場がトランス状態になるんだ。
神事の最中は、ジャンヌ自身が光に包まれて、周りから見ると、
視覚、聴覚、記憶が神様にコントロールされているから、
真実の姿が判らないようになっているんだ」
「それでなんですか。福岡の事件の時も、総理はじめ、みんなの記憶が曖昧で、
どれが本当のことなのか、結局判らずじまいになってましたよね。
あれだけ沢山のカメラや映像も、全然映ってなかったですもんね。
やっぱりジャンヌお姉さんて、すごーいんですね」
「沙也香ちゃん、私は神様のみ心に従っているだけなの。
だから、当日のこと、新聞やテレビ、ほとんど見ていないから、
自分でも正直、良く分からないの」
「そうだったんですか、やはりジャンヌさんだったんですね。
でも、今日、学校におじゃましてみると、
皆さん普通の高校生やってらっしゃるんですね」
ジャンヌは思わず苦笑いしてしまい、
「お父さん、本業はもちろん高校生ですから。勉強もやっていますよ」
「いや私ね、てっきり天使のお仕事が本業かと錯覚してしまったんです」
「いえいえ、私たち、勉強だけじゃなくて、部活もやっていますし、
私は茶道部ですけど、大澤君はサッカー部で、もう一人の大田君は演劇部ですし、
あ、大田君、校門を入ったところで演劇部、講演会のチラシ配っていませんでした?」
「いえ、気がつきませんでした」
「今日、雨で中止になりましたけど、演劇部、屋外で公演予定だったんですよ。
でも7月に、鎌倉芸術館で公演がありますので、
そのチラシ配っているはずですけど」
「そうですか、帰りにいらっしゃったらご挨拶させていただきます。
そういえば、大田さん、お名前猿田彦っておっしゃるんですね。
大澤さんといい、強力な神様がジャンヌさんを護っているんですね。
まるで中世のフランスで、ジャンヌ・ダルクを守護した騎士のようですね」
「いやー俺たち、そんなにかっこいいもんじゃないですよ。
全然たよりになりませんけど」
「今日はお忙しいところを、時間をさいて下さってありがとうございました。
私、ジャンヌさんにお会い出来て、直接お礼を申し上げられて、
肩の荷が下りました。
あ、それからね、ジャンヌさん、我が家では、お食事前に、
沙也香から教わった『主の祈り』と、ジャンヌさんから教わった
《平成の祈り》をお祈りしているんですよ。
私は朝目覚めた時と、夜寝る前にもお祈りするようして、
ジャンヌさんのご恩に報いたいと……」
「私はママよりもっと《平成の祈り》を祈っていますから、ジャンヌお姉さん」
「皆さんありがとうございます。
きっと大天使ミカエル様のご加護がありますよ」
「ジャンヌさん、お忙しいのに時間を割いて下さりありがとうございました。
もう部活に戻って下さい。
大澤さんもありがとうございました」
俺とジャンヌは、田村一家と別れたあと、
「オズ、助けてくれてありがとう」
「いや、俺もさ、沙也香ちゃんのつっこみが鋭くてさ、まいったよ」
「ほんとに、あの家族には神様の奇跡が起こったしね。
でも皆さん、とてもいい人たちね」
「ああ、もう心配要らない感じだな。
ジャンヌ途中で呼びだしちゃって悪かったな。
じゃあ俺行くわ」
「私も後で教室行くから。じゃあね」




