【報道】
「オズぅ、起きて、もうすぐ着陸よ」
俺はぐっすり眠ってしまっていた。
ジャンヌの優しげな声が、夢の中で話しかけられ、
ふと目覚めると、涎を垂らしてしまっていた。
ジャンヌが微笑みながら、ハンカチで、おれの涎をそっと拭いてくれた。
「オズぅ、きっといい夢見ていたのね、どんな夢だったの?」
「いや、俺、全然覚えてねえ。
なんかさー、俺、夢の中でジャンヌの声がしてさー。
そしたら目が覚めたんだ」
窓の外は、すっかり暗くなっていた。
窓側のゴリは、黙って窓の下を見ている。
東京湾が見えているのだろう。
「そういえばジャンヌ、俺たち、っていうか、ジャンヌ、
福岡ですげー大仕事したんだったよな。今頃マスコミで大騒ぎじゃねえ?」
「私たちの顔や姿は映らないって言ったけど、私たちを目撃した人たち、
総理を始め、あの会場にいた人は、皆、記憶が曖昧になっているはずよ。
私たちの制服とか、人数まで記憶に残らないんですって」
「だからか、会場入り口のホテルの従業員とか、警備の人たちも、
まるで俺たちの存在に気がついてないみたいだったよな。
なんかさージャンヌ、俺たち透明人間になってたのか?」
「ううん、神様が、私たちを見た人たちの、視覚とか聴覚とか、
それに記憶までコントロールされたの。
だから総理も、私たちの記憶はぼやかされているはずよ」
「それならジャンヌ、俺たち、有名人になってないし、
今まで通り、普通に生活できるんだ」
「でもなあオズ、あの後、やっぱ俺たちのこと、
どんな報道になっているんだろう。
それに、うどん粉被った犯人たちは、もう捕まったのかな?
空港には、親父が迎えに来てるはずだ。そこんとこ聞いてみよう」
「俺はジャンヌん家で送ってもらうから。早く聞きたいな」
羽田空港は無事着いた。
ゴリは親父さん、ジャンヌは両親が迎えにきていた。
「彦、お疲れ。お前たち、とてつもないことやってきたんだな!
もう日本国中大騒ぎになってるぞ!」
「ジャンヌ、お帰りなさい。お母さん、あなたの顔見てほっとしたわ」
俺たちは、それぞれの親に挨拶とお礼を言ってから。
「親父、俺たちの素姓、割れてないだろ?」
「そうなんだよ、総理を始め、お前たちを真近でみた連中も、
顔とか制服とか、人数まで記憶が曖昧になっているんだ。
ただ、金星からきた天使が現れて、
総理を救った事実だけは確かに認識されているんだ。
それと、その天使は、宇宙からの物凄い光をキャッチして、
光に包まれ、その後の記憶はみんな曖昧らしいんだ」
「俺たちが、ホテルの会場に入る時も、誰も俺たちの存在に気がつかないし、
出る時も、自動で扉が閉まり、マスコミ関係者が追ってこなかったし。
これってみんな、神様の計らいだったんだよな」
ゴリがジャンヌの方を見た。
「ハイ、大天使ミカエル様からは、眉間のチャクラからの光と、
光背により、写真やテレビには映らないってお聞きしていました。
それと、我々の神事をみた人たちに対しては、
視覚や聴覚、記憶までコントロールされたそうです」
「そうだったんだ、だからか、ジャンヌさんの情報も、
今回全く報道されてないし。
それにしても、天使のお仕事、お疲れさんでした」
「ありがとうございます。
これもモンチくんやオズくんが、常に私を護っていてくれていたからです。
あ、お父様、長浜ラーメン、とっても美味しかったですよ。
教えていただいて、ありがとうございました」
「そうか、食べに行ったんだ、それはよかった」
ジャンヌのお母さんが、ジャンヌの手を握り、
「ジャンヌ、体は大丈夫? 具合悪くならなかった?」
「ううん、大丈夫。お母さん、心配かけてごめんなさい」っていいながら、
お母さんを抱きしめた。
ジャンヌのお父さんが、
「大田さん、今日は息子さんにお世話になりました。
ありがとうございました。
モンチくん、オズくんもありがとう。お疲れさんでした。
大田さん、オズくんは家で送っていきますから」
しばし到着ロビーで話した後、空港でゴリん家と別れた。
帰りの車の中では、ジャンヌが長浜ラーメンの話とか、
天神での買い物の様子だとか、一生懸命お父さんに話しかけていた。
お父さんも、車を運転しながら、
いかにも嬉しそうにジャンヌの話を聞いている。
やっぱジャンヌは、お父さん子なんだって判った。
でも、ジャンヌのお父さんもお母さんも、
俺たちのミッションのことは全然聞かない。
普段通りの日常生活みたいだ。
あえて聞かないのか話題にしないのか。
ジャンヌも、ミッションとか、お祈りの話は家では一切しないのかな?
あれだけの大仕事をやった後なのに、お互い話題にもしない。
なんなんだこの家族は?
俺は、大船に近づいたので、オカアにメールした。
飛行機に乗る前、オカアに連絡して、今晩は、ジャンヌも疲れているから、
送ってもらったら、玄関で挨拶して帰ってもらうからと言ってある。
そこはオカアも同じ考えだった。
家に着いたら、オトウもオカアも外で待っててくれた。
大橋家と玄関先でしばし話をした後、ジャンヌたちは帰って言った。
俺も早く寝たいけど、どうせオトウは、今日のことは、
マスコミの報道で聞いているだろうから、チョウ御機嫌で一杯やってたはずだ。
しばしオトウに土産話でもしてやろう。




