表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第一章 六国見山(ろっこくけんざん)
4/105

【役行者】

「オズ、お父さんとお母さんが結婚して、新婚旅行は、南紀白浜から

那智勝浦へ行ったんだ。お前もアルバムで見たことがあるだろう」


「うん」俺は、これからどんな話が出てくるのか緊張し、身構えた。

「観光バスで、名所旧跡を巡ったんだけど、その中で、『那智の滝』

という名勝があって、ここは、滝そのものがご神体といわれているんだ」


 お父さんとお母さんは、二人で、その滝の前で祈ったんだ。お互い、

どんなことを祈ったかは、その場で「は聞かなかったが、思いは一緒だった」


「その夜、温泉に入って寝たんだけど、明け方に、二人で同じ夢を見たんだそ。

 れも映画のように、夢のシーンがはっきりと記憶されていたんだ」


 オカアは、テーブルの上に両手を組んで乗せ、じっと一点を見つめている。

俺は緊張のため、生唾をごくりと飲み込んだ。


「その夢のシーンだけど、昼間二人で、那智の滝の前でお祈りしているんだけど、

滝の中から役行者が、白龍に乗って現れ、我々に『汝らに我が分霊を授ける、

名を小角と名乗らせよ!

追って《紫をまとういと高き天使》が地上に降ろされる。

その右脇侍(きょうじ)として守護させよ!』そこまでおっしゃられると、

滝のなかに消えられた」


「役行者は、那智の滝に近い大峰山で修業され、修験道の開祖となられ

お方なんだ。一説によると、空を飛べたり、山という山を浄め歩いたんだそうだ」


「朝目が覚めたら、二人とも同じ夢を見ていたんだ。そして、二人が祈った内容は

『幸せな家庭が築かれますように、そして、子宝に恵まれますように』って、

同じことを祈っていたことが判ったんだ」


 俺は、役行者の生れかわりなのか? でも、オトウは分霊って言ってたよな

《紫をまとういと高き天使》ってジャンヌのことか?


「そして、すぐに授かったのが小角、お前なんだ」

「お父さんもお母さんも、正夢って信じていたから、オズを授かったときは、

とても嬉しかった。お母さんね、オズがお腹にいる時から、名前は決まっているし、

絶対男の子だって思っていたの」


「子宝っていうけど、お前が生まれて、宝物のように大切に育てなければ、

だけど、お父さんとお母さんは、オズの親なんだから、子供は子供らしく、

特別扱いしないで、普通に育てようって、お母さんと約束したんだ」


 オカアが顔を上げ、俺を見てうなずいた。

 俺は両親に感謝するとともに、二人の愛情というか、絆の強さを感じた。

そして、毎晩飲んだくれているオトウだけど、初めてオカアも含め、

尊敬することができた。


「オズがお守りする《紫をまとういと高き天使》が、ジャンヌさんなのかも

しれないわね。ジャンヌさんも、それなりの使命というか、

お役目があって生まれてきたと思うわ」


「そういえば、六国高校のスクールカラーは古代紫で、女子は首に、

古代紫のリボンを結んでるんだ。ジャンヌも紫のリボンしてたな」

とっても似合っていた。


「え、じゃあ《紫をまとういと高き天使》は、ジャンヌさんに間違いないわね」

「お前たちが六国高校に入学して、出会ったのは偶然ではなく、

生まれる前から決まっていたんだ。神様のはからいって、ほんとに凄いな」


 俺は、嬉しさよりも、責任感で武者震いし、これからの使命の重大性を自覚した。

「猿田彦君が、左脇侍として、オズと二人で、ジャンヌさんを支えていくんだろう。

猿田彦君は、『猿田彦大神(さるたひこおおかみ)』の分霊で、ジャンヌさんは、

『ジャンヌ・ダルク』の、生まれかわりかもしれないな」


「お父さんたちは、いつお前の前に、役行者がおっしゃった、天使が現れるのか、

ずーと心に留めておいたんだ」


「お母さんも、オズが幼稚園や小学校に入った時なんか、同じクラスに、

幼なじみとして、小さいうちから現れるんじゃないかと観察してきたわ。

でも、それらしい子は現れなかったわ。まさか、高校生になったばかりの

オズの前に現れるなんて、びっくりしてるの」


「大橋ジャンヌさんが、今後、どんな使命を果たしていくのか判らないが、

いずれにしても、オズと大田猿田彦君の二人で、しっかりと守っていかにゃ

いかんということだ。それが二人のこの世に生を受けたお役目ってことだ」

 俺たち三人が出会ったのは、単なる偶然ではなく、宿命的な出会いだったんだ。


「オズ、こうなった以上、お父さんも、お母さんも、しっかりお前たちを応援して

いくからな、なあ、お母さん」オカアも強く頷いた。


「でも、お母さん、期待と不安でいっぱいだわ。きっと、

大橋さんのご両親はもっとお悩みになると思うわ」

 俺も、ジャンヌとの出会いとお役目は、とても嬉しいが、

どんなふうに守っていけばいいのか、それを考えると、不安でもあった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ