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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第四章 サッカー部
37/105

【セーラ・クルー】

「ただいまー」


 俺は玄関のドアを開け、一歩中に入ると、


「お帰りなさーい」キッチンから声がした。


 ジャンヌが出迎えた。まるで幼児の女の子が、

お父さんの帰宅を待ちかねていたように、走りこんできた。


 玄関の、上りかまちでピタリと止まり、

『気を付け』の姿勢をとり、

「ご免なさい」と言った後、下を向いて緊張している。


 エプロン姿だ、ジャンヌのエプロン姿も、

家庭的な雰囲気を出して、とても似合っている。


「ドンマイジャンヌ。おあいこだから、気にすんなよ」と言ってリビングへ。


「え? おあいこってなに?」


 俺は『しまった』と思ったが、

「イヤ、なんでもない」って言えばそれでジャンヌは大丈夫。


 ジャンヌは人を疑うことを知らないから、信じて納得してくれる。


 俺が怒ってないので、安心したのか快活だ。


「ジャンヌ、来てたんだ」

「ごめんなさい、オズ、黙っていて。

 私、お父様とお母様にも、私が焼いたクッキーを差し上げたかったの」


 ジャンヌは、嬉しそうに説明しながら、俺の後を付いてくる。


「オトウ、ただいま」


「お帰り」オトウがソファーで本を読んでいる。


「ところでジャンヌ、エプロンなんかしてどうしたの?」

「こちらにおじゃましたら、お母様が、夕食の支度をなさっていたから、

お手伝いさせて下さいって、お願いしたの」


「ふーん 、じゃあ今晩は、ジャンヌの手料理が食べられるんだ」

「ううん、私はただお手伝いしただけ。

 今晩は、レバニラ炒めと若鳥の唐揚げよ、

今日試合で疲れたでしょうから、沢山食べて栄養つけてね」


 オカアがキッチンから

「オズ、お帰り、お風呂沸いてるわよ」


「はいよー、ただいまー、ねえオカア、

ジャンヌも一緒に食べていけばいいのに」


「私も勧めたんだけど、ジャンヌさん、今、断食修行中っていうか、

昼抜きの一日二食でしょ、お肉お魚は食べられないし、

精進料理じゃなきゃだめなの」


「オズくん、せっかくだけどごめんなさい。

 お母さんがいろいろ栄養考えて、晩ごはん作ってくれているの」


 ジャンヌは申し訳なさそうに両手で拝んでいる。


「いいよ、ジャンヌ。

 家でサラダだけじゃ、体もたないもんな」


 俺は、ジャンヌのエプロン姿に見とれていたが、

どうせなら、メイド姿の方がもっと似合うんじゃないかと、

どんなメイド服が似合うか想像していた。


「オズ、なにニヤけて、ぼーと、ジャンヌさん見てんのよ」


 オカアに言われ、はっとなった。


「いやー、ジャンヌのエプロン姿が似合ってるけど、

メイド服も似合うんじゃないかと」


「オズくん、ありがとう」


 ジャンヌも褒められ、両手を拡げ喜んでいる。


 オトウが突然、ソファーから、


「ジャンヌさん、メイド服、きっと似合うよ。

 家に来た時用に、買ってあげようか?」


 オトウも身をのりだしてニヤけている。


「お父さん、何言ってるんですか、

ここは秋葉のメイド喫茶じゃありませんよ!」


 オカアがオトウをニラミつけた。


 ジャンヌが大きな声で笑ってしまった。


「ごめんなさい、お父様。

 家の父も、私のメイド姿、似合いそうだから、

メイド服買ってあげようかって言ったら、

お母様と、おんなじこと言って怒ったんですよ。

 口調までそっくりで」


「そうだろ、きっと似合うんだよ。

 あんなに真面目そうな、ジャンヌさんのお父さんも言うんだから、

お母さん、変に誤解しないでくれよ」


 ジャンヌはオトウに、


「私、小さい頃、アニメの<小公女セーラ>が大好きで、

セーラが始めのうち着ていた、綺麗なお洋服より、

セーラのお父さんが、亡くなってから着せられた、

みすぼらしいメイド服が着たいって、父を困らせたんですよ」


「おじさんもあのアニメ、セーラ・クルーが好きで、

オズと一緒によく見たな。

 セーラが4ペンス銀貨を拾って、パンを買うシーン、

何回観ても泣かせるね」


「お父様もセーラがお好きなんですね」


「もー、お父さんたら、好きなんてもんじゃなくて、

泣きながら、おんなじシーン、何回も見るんだから」


「わー、お優しいんですね」


「俺、あのアニメ、いじめのシーンが多くて、好きじゃなかったのに、

オトウったら、しつこいぐらい見るんだから、

今だから言うけど、ホント勘弁してって感じだったよ」


「お前もよく、感動して泣いてたろ」

「かわいそうだから泣いたんだよ」


「オズくんも、お父様に似て優しいんだ」


「ジャンヌはセーラ見て、泣かなかった?」

「泣いたかどうか記憶にないけど、私自身、セーラになりきって見ていたわ。

 だから私、セーラが着ていた、みすぼらしいメイド服を、とても着たかったの」


「そーか、やっぱジャンヌは、メイド服でも、秋葉で着ている、

フリルの付いたやつより、みすぼらしいメイド服の方が似合うかもな」


「え、オズくん、それって、私を褒めているの?」

「いやー、ジャンヌ、ボロが似合うっていうのは、

よく物語で、本当はプリンセスなんだけど、

事情があって、仮の姿で、ボロをまとっているって。

 ほらシンデレラみたいに、外見と中身のギャップがいいんだよな」


「ありがとう、オズくん」


「そういえば昔、水前寺なんとかっていう歌手が歌った、

題名は忘れたけど『ボローは着ーてても心の錦……』

とかいう歌が流行ったな」とオトウ。


「セーラも、どんな境遇に置かれても、

常に、プリンセスとしての誇りを、持ち続けていましたね。

 それが人に対する優しさだったり」


「でも、ジャンヌさんが家で着るなら、ボロを着せるわけにもいかないし。

 お父さんは、貴族に仕えるような、白いフリルの付いた、

高級メイド服がいいな。

 それに頭に被る、白い帽子みたいなやつも、

あった方がもっと似合うとおもうが」


「オトウ、それはもう、コスプレの世界だよ」


 ジャンヌは、ニコニコしながら、俺とオトウの話を聞いている。


「親子でも好みが違うんですね」


「じゃあ、ジャンヌは、どんなメイド服がいいのさ?」


 ジャンヌは、いきなり振られて、当惑顔で、

赤くなって下を向いている。


「私はー、機能的でー、動きやすかったら、デザインはべつにー」


 ジャンヌは、メイド服は嫌じゃないのも、

俺とオトウを、軽蔑していないのも判った。


 好みはオトウの手前、ああいったけど、俺の好みに応えてくれる筈だ。


 実際に、メイド服を着るのは、料理を手伝う時なら、

ジャンヌも抵抗しないだろう。


 あとはオカアをどう説得するかだ。


 あー、早くジャンヌのメイド服姿、観てみたい。


 実際、我が家での、ジャンヌの位置は、

初の夜登山の後、何があってもいいように、

俺の隣の空き部屋をかたずけて、ジャンヌの部屋にした。


 そこにジャンヌの制服一式。

 古代紫のリボンから、ハルタのローファーまで揃えてある。

 それに、新品の下着一式も、預かっているそうだ。


 ジャンヌの制服を預かった当初、オトウがダイニングで飲んでいる時、

制服を見ながら一杯やりたいから、持ってきてくれって言ったら、

えらいオカアに怒られていた。


 オトウは、ジャンヌの制服を見ると、天使がそこにいるようで、

思わず合掌したくなるからとか、言い訳していた。


「もう、お父さんたら、いい年して、

メイド服に夢中になっちゃって、ジャンヌさんごめんなさいね」


「いいえぇ、私は、ちっとも気になりませんから。

 お父様も、とっても楽しんでいらっしゃいますし」


「お父さん、そろそろジャンヌさんを送って行かなくっちゃ」


「え? ジャンヌ、もう帰っちゃうの?」


「今日は、お父さんが、車でジャンヌさんを送っていくから」


「えー、それなら俺も一緒に送っていく」


「オズくんはお疲れだから、早くお風呂に入って、疲れをとって」


「そうよオズ、お父さん一人で、ジャンヌさん送らせてあげなさいよ。

 こんなに若くて可愛いお嬢さん、車に乗せるなんて、めったにないんだから。

 お父さん、ずっとウキウキしてるんだから」


 オトウは、いかにも嬉しそうな顔しているし、

ジャンヌは微笑んで、オトウを見つめている。


 オトウは、ソファーから立ち上がり、


「じゃあ行くかい」

「お父様、よろしくお願いします」


 ジャンヌは、オトウの左腕を、ジャンヌの右腕で腕組みした。


 オトウは驚愕、体が硬直し、次に顔が真っ赤になった。

 オトウが赤くなった顔は初めて見た。


「まあ、ジャンヌさんと、デートするみたいね。

 お父さん、そんなに緊張しちゃって、運転大丈夫?」


 ジャンヌはあわてて腕をほどいた。


「お父様、ごめんなさい。

 私、つい、いつものクセが出てしまって」


 ジャンヌも赤くなって下を向いている。


「あーら、ジャンヌさん、いつもお父さんと外出の時、腕組んで歩くの?」


 ジャンヌは恥ずかしそうに、


「はい。私ってお父さん子なんです」

「まー、ジャンヌさん、お家では甘えん坊さんなのね」


 オトウは落ち着いたのか、今度は余裕でジャンヌに左腕を出し、


「ジャンヌさん、お父さんのつもりでどうぞ」

「わー、ありがとうございます」


 ジャンヌは歓びながら、両腕というか、全身でオトウの左腕に抱きついた。


 オトウは、得意の絶頂って感じで、満面笑みだ。


「じゃあ、お嬢様をお送りしてくるから」

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