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紫をまとういと高き天使  作者: げんくう
第一章 六国見山(ろっこくけんざん)
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【秘密】

 入学式の夜、俺はリビングでテレビを見ていると、ダイニングで一杯やっている

オトウ(俺は家ではおやじのことを『オトウ』、

おふくろは『オカア』と呼んでいる)が、


「オズ、今日、入学式どうだった?」

「うん、まあ」


 俺はテレビを見ながら適当に返事すると、ダイニングでオカアが、

「あなた、オズ、今日、とってもご機嫌なのよ。何かいいことあったらしく、

学校から帰ってから、ずーとニヤケてるのよ。オズを見ていると、

こっちまでニヤケてしまうわ」

 

 オカアの奴、余計なこと言いやがって、ムカツクー。でも、やっぱ幸せな気分。

 ジャンヌを思い浮かべると、思わずニヤケてしまう。

 

ダイニングでオカアが、オトウにアゴで、俺の方をしゃくりながら、小さな声で、

「ほら、またニヤケてる」

 

 そういえば、オトウが帰ったら、借りようと思っていたCDがあったんだ。

 俺はダイニングに移りながら、


「オトウ、あのさ」

「オズ、まあ座れや、お父さん、お前の入学のお祝いで、一杯やってるんだ」

「入学式でなくても、毎晩一杯やってるじゃん」

「そうだ、乾杯するか、ママ、お前もビール飲むか?」

 

 オトウはご機嫌だ。

「じゃあ、一杯だけお付き合いするわ」


「オズはまだ未成年だからな。早く大きくなれよ、お父さん、お前と一杯

やるのが夢なんだから」

「なんてクダラネー夢」

「まあ、そう言うな。まだ先が長いな」


「オズは牛乳でいい?」オカアが冷蔵庫から牛乳をコップに注ぎ、

「じゃあ、オズ、入学おめでとう! カンパーイ」

 

 オトウの音頭で、三人でグラスを合わせ、カチィーンと乾杯した。

 オトウもニヤニヤしながら、


「オズ、お前、ママが言うとおり、本当にニヤケてるな。早速彼女でも

できたのか?」

「そんなんじゃないって、今日初日だよ、そんなん、あり得ないしー」


「それよりオトウ、昔、車を運転してる時、よく聴いてた曲、なんていったっけ?

さんざん聴かされた曲」

「スピッツか?」


「どうかな? 君が思い出になんとか……」

「ああ、あるよ。昔はよく聴いたけど、最近全然聴いてないな」


「貸してよ」オトウは俺の顔を見てニヤニヤしている。

「いいけど、お前、今日、入学式で、素敵な笑顔に出会ったのか?」

「え?」ドキッ! 俺は沈黙。


「心がうきうきして全てがバラ色に変わったんだろう!」

続けてオトウはさりげに、


「その娘(こ)、可愛いのか?」と聞かれ、思わず、

「うん、スッゲー可愛いよ」しまった! オトウのペースにはめられた。


「そうか、同じクラスか?」

「同じクラス、なんてもんじゃなくって、そいつ、俺の隣の席なんだ」

 俺は、ついつい嬉しくて、べらべらしゃべってしまった。


「あー、お父さんもその気持ち、わかる、わかる。クラスに可愛い子がいると、

席替えの時なんか、『俺の隣に来い』なんて念じたりして、隣がダメなら

斜め前でもいいかなって、斜め前なら横顔が見えるし、

一日中眺めていられるし」


「オトウ、それって、変態かストーカーじゃん」

「美人がクラスにいると、授業に身が入らんからなあ。オズ、

でれーとしてちゃいかんぞ」

 オトウと一緒にされたくないわい。

「オズはお父さんと違うから大丈夫よ」とオカアが援護。


「そいつ、大橋ジャンヌって言うんだ」

「その子、ハーフなの?」とオカア。

「いやー、両親とも日本人だって。それがさー、俺の名前も変わってるけど、

ジャンヌの向こう隣の奴も、俺以上に変わった名前でさ、『大田猿田彦』って

いう名前なんだ。何でも神話に出てくる人から取ったらしいんだ」

 

 俺が大田の話をしたら、オトウとオカアが、不安げな、びっくりした顔で

見合わせた。それまでの、なごやかな雰囲気が一変した。

 

 そういえば、俺の名前も、『役行者(えんのぎょうじゃ)』という古代人から

取ったと聞かされている。二人は絶対何か隠していると確信した。

それにジャンヌも関係あるらしく、オカアが、


「オズ、じゃあ、大橋ジャンヌさんは、『ジャンヌ・ダルク』から

取った名前なの?」

 

 オカアは、心配そうな表情で俺に聞いてきた。

「『ジャンヌ・ダルク』って何? 人の名前なの?」

 

 俺は、オカアに聞かされるまで、『ジャンヌ・ダルク』が中世の時代、

英仏戦争で、敗戦濃厚なフランスを、逆転勝利に導いた、救国の少女、

『オルレアンの乙女ジャンヌ・ダルク』だということを初めて知った。


「神話の世界と、古代人と中世人の、歴史上の登場人物が三人も並んで、

まるで、生きた博物館か変人クラブジャン」俺自身もこの組み合わせに理解不能。


「オズ、お前の席って、ジャンヌさんの右隣か?」

オトウが俺に、身を乗り出して確認してきた。


「うん、そうだよ、何で右って判るの?」続けてオトウは、

「じゃあ、猿田彦君は、ジャンヌさんの左側だな?」

 

 オトウは慎重に確認しているみたいだ。

「そんなの当たり前じゃん、だからー、なんで判るのさー」

 オトウとオカアはお互いに目で確認し合い、うなずき合った。


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