【四日市】
椿大神社を後にした。15時40分になっていた。
ホテルには、16時半前に着いた。
ホテルは、四日市都ホテルだ、近鉄四日市駅に近い。
福西さんが、フロントまで案内してくれた。
ホテルが手配したタクシーだからか、無事に俺たちを送り届けたことを、
ホテルに報告していた。
福西さんへは、みんなでお礼を言ってお別れした。
カウンターでは、チェックインもスムーズだ。
「大橋様のお母様から、いろいろ受けたまわっておりますが、
こちらでも何かご要望等がございましたら、直接何なりとお申しつけ下さい。
スイートルームに勉強用の机とスタンド、ご用意させていただいております。
バスタオル等は、翌朝の分もご用意させていただいております。
お夕食でございますが……」
ジャンヌのお母さんが、直接依頼しただけあって、俺たち、
まだ高校生なのに、おもてなし度は充分すぎるほど満足だ。
ジュリなんか、さっきから目を輝かせて聞いている。
女性って、こうした一流のおもてなしに弱いんだな。
夕食も、ホテルの中華料理をお願いしていて、ジャンヌ用に一人、
菜食で軽めのメニューを依頼済みとのことだ。
また、ホテル側には、夕食前に、四日市名物の、
餃子を食べてくることも伝わっており、ホテルでの夕食は、8時頃の予約だそうだ。
ジャンヌのお母さんは、段取りがいい。
部屋割りは、スイートルームはジャンヌとジュリ、ツインルームは俺とゴリだ。
フロアは違うが仕方がない。
早速、荷物を部屋に置いたら、散歩がてら、餃子を食べに行くことにした。
ゴリの親父さんから、四日市に泊まるなら、
『餃子の新味覚』に行って、餃子を食べてこいといわれていた。
制服を着替えるかどうかの話になったが、ゴリが、
ここのホテルで食事するなら、失礼のないようにということで、
制服を着替えるのは、ホテルの食事が終わってからということになった。
ゴリは、ジャンヌの気持ちを代弁していた。
ジャンヌは、心に思っていても、みんなの手前、言い出せないはずだ。
そういった心配りは、俺にはできない。ゴリをあらためて見直した。
もっとも、着替え用の靴は、持ってこなかったし、みんなも同じだろう。
場所は、事前にゴリが地図を印刷していた。ホテルからちょっと歩きそうだ。
ゴリの親父さんから、事前の注意として、
『餃子の新味覚』では、メニューは餃子のみで、
それも一種類、ごはんも置いてないと聞いていた。
だから、ゴリが、断食修行中のジャンヌは無理だから、止めるか、
ジャンヌ抜きで行ってこようか相談した。
そしたらジャンヌが、私も行ってみたいからと、全員で行くことにした。
店内は、カウンター席のみだ。
土曜日だけど、早い時間だから比較的すいていて、四人そろって座れた。
席は、学校の習性で、おんなじ並びだ。
ゴリから、注文しなくても、黙って座っていれば、
勝手に餃子が出されるといっていた。
お替わりも、カウンターの上に、皿を置けば、焼いて出してくれるらしい。
俺の隣の男性も、黙って空いた皿をカウンターの上に乗せた。
無言だ。ビールを飲んでいる。
その隣のアベックを観察すると、牛乳を飲んでいる。
餃子と牛乳は合いそうだ。
「ゴリ、俺、牛乳飲みたいんだけど」すかさずジュリも、
「私も、ゴリも飲もおよ。ジャンヌは?」
「じゃあ、私はジュースいただくわ」
ジャンヌに出された餃子は、俺とゴリで食べることになっている。
餃子が焼きあがり、俺たちのカウンターの上に置かれた。
ジャンヌが手を合わせ、
「ありがとうございます。わー美味しそう」といかにも食べる雰囲気で、
餃子を自分の前に置いた。
俺は、
「え、ジャンヌ、いいの?」
ジャンヌは、微笑みながら顔を横に振った。
みんなで箸を取り、一斉にいただきますをして食べ始めた。
餃子はほくほくで、油がきつくなく、さっぱりしていて、
皮と中の餡とのバランスも絶妙だ。
唐辛子ときざみニンニクの入ったオイルをタレと混ぜると、
ニンニクのひりひり感との相性は抜群だ。
なるほど、ごはんなしで、いくらでもいけそうだ。
「うーん、餃子にしては、さっぱりしてて、すごくおいしい。ジャンヌ、残念ね」
ジュリは、ジャンヌに話しかけたあと、しまったって顔して、舌を出した。
左手でごめんねをしている。
ジャンヌは、にっこり左手で、OKサインを出した。
ジャンヌは、箸で自分の餃子を、俺とゴリに取り分けると、
早々と無言でごちそうさまをした。
はじめから、俺とゴリは、ジャンヌの分も含めて二人前、
ジュリは一人前と決めておいた。
八時からの中華が控えているからだ。
俺とゴリが食べ終わるのを待って、店を後にした。
支払いは、ゴリが、ジャンヌのお母さんから預かっているお金から支払った。
現金の清算は、ゴリが会計責任者に任命されている。
みんなでジャンヌにゴチをした。
ホテルに帰ると、まだ五時半前だ。
八時までひと勉強することにした。
俺とゴリは、勉強道具を持って、スイートルームへ。
スイートルームは、ソファーの他に、会議用のテーブルと椅子、
スタンドが四セット用意されていた。
寝室は、二間続きでベットがそれぞれ二つ、四人泊まれる。
俺は、部屋の中を観察しながら。
「なんだ、四人泊まれるじゃん。それなら俺たちも、ここでよかったのにな」
「冗談じゃないわよ! 私たちが嫌よ。
あんたたちと、お風呂もトイレも一緒なのよ。オズは相変わらず無神経ね」
「そりゃー、オズ、寝室は別でも、おんなじ部屋には違いないから、
女の子の母親としたら心配するよ」
ジュリがにやけ顔で、
「そうよ、オズ、寝込みを襲ってくるかもしれないしね」
ジャンヌが真剣な顔で、
「ジュリぃ、オズはそんな人じゃないわ」
「ゴリぃー、なんとかしてよ、もう」
「冗談に決まってるじゃん、ジャンヌ。
ジュリが俺のこと、そんなふうに思ってるはずないじゃん。
例の吉本やってるんだよ」
「まあ、ジュリったら」
「オズの反応が遅いからよ。
吉本判ってんなら『わてにも選ぶ権利ありまっせー』ぐらい、すぐ返しなさいよ。
だからジャンヌが本気にするじゃない。
でも、オズ、ジャンヌの信頼、厚いんだ。よかったわね」
ジャンヌは恥ずかしそうに顔を赤らめ、下を向いてしまった。
俺はジャンヌから、本心より信頼されているのが判って、
ジュリではないが、ほんとに嬉しい。
「さあ、おしゃべりはこのくらいにして、勉強始めようぜ」
さすがゴリだ、冷静で真面目な奴だ。
だけど、勉強始める前に、ジャンヌのエネルギー補給が心配だ。
「なあ、ジャンヌ」
「なあに、オズ」
「ジャンヌ、八時まで、なんにも食べないで大丈夫?
例のブドウ糖入り抹茶は?
エネルギー補給した方がいいんじゃない?」
「オズ、心配してくれてありがとう。
そうね、今日の分、まだ少し残っているから、いただくわ」
ジャンヌは嬉しそうに、おれの心配に応えてくれた。
「ジュリ、解んないとこあったら、教えるから。
俺でも解らなかったら、ジャンヌ先生に聞いて」
「オズ、私で教えられるところは任せてね。
私も解らなかったら、一緒に調べましょう。
あ、それから、私の整理ノート、授業で教わった大切なところ、
テストに出そうなところをチェックしているから、よかったら参考に見てね」
「それならジュリ、俺も教科書に書き込みしてるし、
ノートも参考にしてもいいぞ」
「うん、ゴリありがと。参考にするわ」
俺たちは、八時までみっちり勉強した。
俺も、一人のときは、なかなか集中力が続かないけど、みんなと一緒だと、
ずっと継続できた。それに、ジャンヌのノートは最高だ。
どんな参考書よりも良くできていて効率がいい。
遅い夕食を、ホテルの中華料理の店で食べた。
ジャンヌ用に菜食が用意され、俺たち三人には、
豪華で美味しいごちそうだった。
夕食後は、それぞれお風呂にはいって、スイートルームに集合して、また勉強だ。
ジャンヌたちが、風呂からあがったら、メールしてもらうことにした。
食事の後、部屋へ帰る途中、ジュリが、
「お風呂、ジャンヌ先に入りなさいよ。あなた髪乾かすの、時間かかるでしょ」
「じゃあ、そうさせてもらうわ」
俺は二人の会話を聞きながら、ジャンヌをちらっと見ると、
やっぱ、ジャンヌの髪型、黒くて、長くて、かっこいい。
なんといってもジャンヌの可愛さを引き立てている。
一緒に歩いていても、俺が自慢したくなってしまう。
部屋に帰って、俺たちも風呂に入ることにした。
ジュリからゴリへ、OKメールがきたので、再びスイートルームへ。
ジャンヌたちは、Tシャツとジャージに着替えていた。
パジャマ兼部屋着なんだろう。
ジャンヌの髪も、さっきと同じ状態に手入れされていた。
もう10時近くになっていた。12時まで勉強して、寝ることにした。
今朝は、7時にスイートルームに集合してお祈りをする。
それまでに各自、風呂かシャワーで、身を清めておく。
俺もゴリもシャワーで済ませるから、6時に起床した。
7時半から、ホテルのバイキングで朝食。
近鉄特急は、四日市駅発9時頃の列車だ。
俺とゴリは、制服を着て5分前にスウィートへ。
ジャンヌがドアを開けてくれた。制服をきちんと着こなしていた。
「おはよう、ジャンヌ。髪乾いてるじゃん。昨日よく寝られた?」
「おはよう、オズ、モンチ。よく寝られたわ」
「おはようジャンヌ。爽やかで、元気そうで安心した。
今日、本番だからよろしくな」とゴリ。
奥の部屋からジュリが、
「よう、おはよう、オズ、ゴリ。
昨日、あれからジャンヌといろいろ話していて、
結局寝たの、1時回ってたわね」
俺とゴリも、ジュリに挨拶しながら、
「ジュリ、今日も優等生やってるじゃん」
「えへー、オズ。実はちょっと照れてるんだ。
ねえ、ゴリ、私の美脚、見られないとつまんない?
今日も我慢してね」
「俺、そんなこと頼んでないって。
ジュリのスタイルの良さは、充分わかるから、心配しなくていいよ」
「ジャンヌも、カモシカみたいな綺麗な脚してるんだから、
これからスカート、もっと短かくすればいいのに。ねえ、オズ」
ジャンヌが、上目づかいに俺をちらっと見た。
「え、俺? わかんない。だけど最近、1年の女子、
先輩見習って、スカートどんどん短かくなってねえ?」
「ほら、オズ、ジャンヌに言ってあげなさい。
でないと、ジャンヌだけ、置いてきぼり食っちゃうわよ」
「ジャンヌ、毎朝お祈りが終わったら、俺ん家で、着替えてもいいじゃん。
ジャンヌの部屋、用意したんだから」
「オズぅ、私、スカート短くしたほうがいいの?」ジャンヌは不安顔だ。
「いや、そういうわけじゃないけど。
ジャンヌが一人だけ、浮いちゃわないかなって、そこだけが心配なんだ」
「オズ、心配してくれてありがとう。私、考えてみる」
ゴリが、スマホの画像から、神殿の水晶を取り出し、
机の上に置き、準備している。
「そろそろ7時になるから、みんないいか」
ジュリも含めて、お祈りの準備に入る。
スマホの画像の前に並んで座った。教室と同じ席の並びだ。
ゴリがジュリに、
「ジュリ。《平成の祈り》とか、天之宇受売命への感謝だとか、
心の中で、繰り返し祈ってればいいから」
「ハイ」ってジュリが返事した。
ハイだなんて、やっぱしジュリは、素直になっている。
俺たちは、30分ほどお祈りして、朝食のため、カフェテリアへ。
ジャンヌには、朝食半分にして、その分、
お伊勢さんの名物を、一緒に食べさせたい。
「なあジャンヌ、ゴリの親父さんが、参拝のあとのお楽しみで、
赤福とか伊勢うどんとか言ってたけど、
朝食少しにして、その分お伊勢さんで食べたら?
赤福一個でも、伊勢うどん一本でもいいから、残りは俺が食べるから」
「ありがとう、オズ。
それなら私、朝食抜きにして、朝お抹茶いただくわ。
じゃあ私、お部屋に帰って、お抹茶飲んでいるから、
みんなゆっくり朝食いってきて」
昼はジャンヌと一緒に、お伊勢名物を楽しめることになった。
楽しいこと、嬉しいことは、ジャンヌと共有したい。
おれの心は満たされ、空腹感もすでに満たされたようだ。
朝食後、8時半に、荷物を持って、スイートルームに集合だ。
ジャンヌのキャリーは俺が引き、ジャンヌはスクールバックのみだ。
フロントで、チェックアウトの手続きをする。
清算は、ジャンヌのお母さんが、前払いで預けたお金から清算し、
余りを大橋家に返金してもらうことになっている。
俺たちは、ホテルでの、きめ細やかなおもてなしに感謝し、
お礼を述べてホテルをあとにした。




