【鈴松庵】
時計を見ると、15時少し前だ。
「じゃあジャンヌ、まだ早いから、松下幸之助さんのお茶室で、
お茶でも飲もうか」
「あ、それなら、運転手さんの福西さん、お誘いするわね」
「ジャンヌ、俺も一緒に行くよ。
ジュリ、ゴリも折角だから、ゆっくり散歩してこいよ。
俺たちゆっくりお茶飲んでるから」
俺は、ジュリとゴリに気を効かせたつもりだけど、
それよりも、ちょっとでもジャンヌと二人だけになりたかった。
俺とジャンヌが、二人で駐車場へ向かった。
旅行先で、ジャンヌと二人だけになれるなんて、
俺は今の幸せを噛みしめていた。
「オズ、ごめんなさい、おつきあいさせちゃって」
「いや、いいんだ」
二人で駐車場へ探しにいった。
俺は、福西さんが車に不在で、どこか時間つぶしに行ってるのを期待した。
少しでもジャンヌと二人だけでいたかった。
あいにく福西さんは、シートを倒して休んでいた。
「あーよかった。福西さん、いらっしゃるみたいね」
ジャンヌが、嬉しそうに俺を見たので、不機嫌な顔もできないので、
「そうだな、探しに行かなくてよかった」
福西さんも、初めは遠慮していたけど、
ジャンヌが本心から相伴を願っているのが伝わったようだ。
ジャンヌの無邪気な微笑みでお願いされたら、断れるヤツはいないはずだ。
俺たちは、鈴松庵へ向かいながら、
「福西さん、私たち、いろんなお願いしたから、お疲れになったんですか?」
「いえいえ、私ら運転手は、休めるときに、体休めておくんですよ」
「それなら安心しました。
福西さん、今から行くお茶室、行ったことおありですか?」
「いいえ、初めてです」
「それなら次回、いらっしゃったときに、お客様にお茶室の説明出来ますね」
鈴松庵の入口で、ゴリとジュリが待っていた。
ジャンヌが、福西さんを先に促したけど、固く固辞された。
ジャンヌが先頭で中へ。
中はかなり広かった。
茶室にあがるとジャンヌは、床の間の掛軸の前に座り、
正式な礼をして、両手をついてお軸を拝見している。
俺たちは、真似するか躊躇していると、ジャンヌが俺たちに振り返り、
「あ、ごめんなさい。今日は形式張らずにいただきましょう」
ジャンヌは、係りの和服を着た年配の女性に、
「お席はどちらへ?」と聞いた。
「毛纎の上なら、どちらでもお好きなところへどうぞ」
俺たちは、庭の廊下に面して並んで座った。
すぐに和菓子が出された。
「ジャンヌ、お菓子、先に食べるのよね。
この前教わったけど、ジャンヌ、もう一回教えてね」
「ハイ、でも略式でいくわね」
「ゴリたち、散歩しなかったんだ」
「うん、ジュリともう一度、本殿と椿岸神社にお参りしたんだ」
「二人で、両方の神様に、感謝したり、これからもよろしくお願いしますって」
「ジャンヌ、お菓子どうする? 食べられる?」
「あ、じゃあ、オズ、お願い」
「OK、お皿は記念品で、持ち帰りらしいから、お菓子だけ俺の皿にのせて」
抹茶が運ばれてきた。ジャンヌが一番先にいただく。
ジャンヌは、和服の女性に、三つ指をつき一礼し、茶碗を取ると、
「あのー、お茶を習っているのは、私だけですので、
みんな、気軽に頂戴したいんですけど」
「どうぞ、お気軽に、作法などお気になさらずに」
と言うと下がって行った。
和服の女性の言葉を聞き、なんとなく感じていた緊張感が解けた。
ジャンヌは、茶碗を隣のジュリとの間に置き、三つ指をつき、
「お先に頂戴いたします」と一礼し、茶碗を再び自分の前に置き、
「ジュリ、ほんとはここで主人がいれば、主人に向かって,
『お点前、頂戴いたします』と言いながら両手を畳につけた正式な礼をするの」
ジャンヌは深々と頭を下げながら、
「じゃあ、復習ね、茶碗をもって、軽く会釈し、
茶碗の正面を避けるように左へ二回まわし、飲む。
飲み終わったら、飲み口を親指と人差し指で拭き、指を、懐紙で拭く。
懐紙がなければ、ハンカチでもティッシュでもいいわ。
そのあと右回りに戻し、お返しすればいいの」
次はジュリの番だ、始めに和服の女性に三つ指で一礼し、
ジュリは茶碗を持ってジャンヌとの間に置き、三つ指で礼をして、
次に茶碗を俺との間に置き、三つ指をついて、
「お先に頂戴いたします」次に茶碗を自分の前に置き、
「お点前、頂戴いたします」とハッキリと大きな声でいい、
作法も堂々として、ゆったりと味わっていた。
大和撫子風女子高生って感じで、ゴリも見とれている。
「ジュリ、お作法、完璧ね」
「でしよー、私、舞台にあがったつもりで、お芝居演じてたの。
お茶の心って、奥が深いじゃない。
だから始めは、かたちから入って、心の余裕を持ちたかったの」
「それでなのね。どおりで所作が、堂々としていたわ」
「ねえジャンヌ、また抹茶やろう、今度はオズん家でやろうよ。
抹茶やると、なんか、精神性が高まる気がするの。
舞台にもきっと役にたつよ。ゴリもやろうよ。
先生もいることだし。あ、私もお茶、点ててみたい。
オズ、場所提供してくれるわよね」
「提供するもなにも、もうジュリ決めてるじゃん。
俺も大賛成だから。
ジャンヌの指さばき、また見たかったんだ」
「福西さん、すいません、内輪の話ばっかして」
隣のゴリが気を使ってくれた。
「いえ、私のことはお気になさらず。
それにしても皆さん、とっても仲が良いですね」




