【板付き】
次の日のランチタイムになった。
ジュリが、しゃべりたくて待ちかねていたようだ。
「ジャンヌ、私も嬉しかったけど、ママが興奮しちゃって、
もう、我が家じゃ大変だったのよ」
「ジュリ、突然ごめんなさい。お母様もびっくりなさったんじゃないの」
「いやー、ママったらね、家は、ゴリん家みたいに、
神様から特別な啓示も受けていないし、ジュリって名前も、
たまたま天之宇受売命の名前が一致していたからって、
天之宇受売命の生まれわりとは信じられないし。
だから、ジャンヌが誘ってくれたことで、ママは、
私が天之宇受売命の生まれかわりって確信したのよ」
「ジュリ、私はね、ジュリのお役目は、モンチやオズと同じく、
私が命じられたミッションを完遂できるように、
間接的にサポートしてほしいという、神様のサプライズよ」
俺は、ジャンヌの話しを聞きながら、何事にも積極的なジュリの性格だから、
「きっと、ジュリのことだから、猿田彦大神の分霊が降ろされるのなら、
是非私もって、ジュリは、天上界でネゴッタんじゃないの」
「そうそう、充分あり得そうな話しだな」とゴリ。
「何よ、私が降りてきちゃいけなかったの? オズ」
「いやいや、ただ、俺は、ジュリの性格は、天上界の天之宇受売命と
ちっとも変わらないんじゃないかと思ってさ」
「なにそれ、だったら、オズ、あなた、本当に役行者の生まれかわりなの?
だったらもっとシャキッとしなさいよ。
いつも優柔不断でさ、役行者って、すごく厳しそうで、怖そうな人じゃない?」
「ごめんなさい、ジュリ。オズは決してジュリのこと、
悪気があって言っているんじゃなくってよ」
「そこでなんでジャンヌが謝るのよ。オズはジャンヌの不肖の息子ってわけ?」
「俺、そういうジュリの、強気のとこが好きなんだよな」
ジュリがジャンヌをチラッと見、
「ジャンヌ、オズも世渡り上手になったわね。私、すごく嬉しい」
「ほんとに」
ジャンヌもほっとして、嬉しそうに微笑んでる。
「でも、オズ、私、ツンデレじゃないからね」
「ねえ、ジュリ、そのツンデレってなーに?」
「アニメや小説なんかのキャラクターで、初めはツンツンしてるけど、
そのうち好きになって、でれーとしちゃうキャラクターのことよ。
ツンデレキャラっていうの」
「わー、オズ、大変だー」
「ジャンヌ、何でオズが大変なのよ」
「だって、オズがツンデレキャラ好きになったら、大変だなって」
「ちょっと、ジャンヌ、私のツッコミ、ボケで受けてくれなきゃ」
「え? ジュリ、冗談なの?」
「ジャンヌも吉本へ入門したら?」
「ジュリ、吉本学園の校長やったらいいんだよ。生徒は、俺たち三人で」
「ゴリ、なに言ってるのよ。あんたが副校長で、
ボケとツッコミ教えてあげなさいよ」
「俺、関西出身じゃないしー」
「私だってそうよ」
ジュリは、やっぱし、俺たちに必要な存在だって気がついた。
俺たちにないキャラクターを持っている。
これからもどれだけ助けられるだろうか。
それに比べて、俺の存在はなんなんだ。
ちっともジャンヌの役に立ってない気がする。
それどころか、俺は、すぐに思ったことを、後先考えず、
口に出してしまうけど、これでどれだけ相手を傷つけていたんだろう。
でも最近、お祈りを初めてから、俺自身進歩していると思う。
「俺、なんか、最近、口に出す前に、自然にブレーキがかかるんだけど、
ジャンヌがいう、内なる声がするんだ」
「オズ、それはきっと、これをいったら相手が傷つくぞっていう、
役行者のご指導よ。オズも直感力が冴えてきたんだわ。私もとても嬉しい」
「俺さあ、最近、言ってしまってから、
ヤバイって後悔することが多くなった気がする」
「オズも、サッカー部辞めて演劇部に入ったら?
役者はね、自分の演じる役だけじゃなくて、人の感情の機微を自然に学べるから、
オズみたいに、鈍い人間にはもってこいよ」
「えー? 俺が演劇部に?」
「オズ、サッカーが大好きなんでしょ?」
ジャンヌが心配顔で俺とジュリを見る。
「まー、ジャンヌ、焼けるわね。冗談に決まってるでしょ!
もう、本物のぼけが二人もいるんだから。それも天然付きの」
「テンポが早すぎて、俺もついていけねえよ」とゴリ。
「大丈夫よ、ジャンヌ、オズだったら、板付きしか務まらないわよ」
「ねえ、ジュリ、板付きってどういう意味?
通行人Aならオズでも務まりそうだけど」
「ジャンヌ、あなた、私よりきついこと、平気で言えるのね」
「え、私、何かきついこと言った?」
ジャンヌもかなり天然だな。俺以上かも。ゴリが、
「大衆演劇の世界では、舞台の進行パターンが決まっていて、
舞台の幕が開く、茶店で股旅者がだんごを食べている。
その股旅者の役者のことを、はじめから、舞台の板の上に付いているから、
『板付き』っていうんだ。役としては、
だんごを食べてお茶を飲んで『婆さん、銭ここ置いとくよ』だけなんだ」
「あーら、それならオズにもできそうね」ジャンヌが目を輝かせている。
「ちょっと、ジャンヌ、オズに演劇やらせるの?
板付きなら使ってもらえるわよ」
「なんだよ、ジャンヌ、俺、演劇部なんて、絶対やだからな」
「ごめんなさい、オズ、私、そんなつもりじゃ」
「板付きっていっても、最初から舞台にあがってるし、
なんたって、最初に口火を切るセリフだから、普通は緊張するよな」とゴリ。
「そうそう、人によっては緊張しまくって、
だんごも歯がガチガチしちゃって食べられないし、『婆さん』が言えなかったり」
「あら、じゃあ、やっぱりオズは、通行人Aがいいわね」
「ジャンヌ、俺、そんなに役者に向いてないかな?」
「ううん、オズ、だって通行人Aなら、私、安心して観てられるもん」
「ジャンヌ、通行人Aだって、緊張してロボットみたくなったりして」とゴリ。
「あーら、オズ、それなら、やっぱり、役者は止めといた方がいいわね」
俺って、そんなに頼りないかな?
確かにゴリは、俺より、はるかにしっかりしている。
ジュリも世間慣れしてるし、ジャンヌの世間に疎い分、
ジュリがフォローしている。
二人と比べて、俺はジャンヌに対して、どんな貢献ができるのか疑問だ。
何か自分自身に焦りを感じてくる。
「オズ、何考えてんのよ。真剣な顔して。なんか難しい話に行ってない?
どっから横道に反れたんだっけ」
「ジュリが天上界でネゴったとか」とゴリ。
「あー、オズだ。私がこの世に生まれてきたことに、文句をつけたからよ。
思い出した。やっぱりオズじゃない」
「いや、違うんだ、ジュリ、俺、ジュリが、俺たちと一緒に生まれてきてくれて、
本当に感謝してるんだ。
だって俺、今までジャンヌに、そんなにお役に立ってないじゃん。
ジュリは、ジャンヌの友達として、ジャンヌの足らないところとか、
俺とかゴリでは、補えないところも、ちゃんとジュリがフォローしている。
俺たちには、なくてはならない存在だって解ったんだ」
「オズすごーい。私もジュリは、一緒に出会えて、
ほんとによかったって、いつも感謝しているの」
「俺もだぜ、俺を忘れないで……」
「ゴリ、もういいよ……」
急にジュリが声を詰まらせた。
「俺、今回、ジュリも一緒に行くって、俺、最高に嬉しい」
「オズのばか、板付き……」
ジュリは、弁当を包んでいたハンカチを掴むと、下を向いて泣き崩れた。
ジャンヌがそっとジュリの肩を抱き締めた。そして、ささやくように、
「旅行、とっても楽しみにしてるから」
ジュリは顔を伏せながらもうなずいた。
「ジュリ、役者は自分で泣いたらいけないんだろ。
観客を泣かせるのが仕事だから……」
ジュリは、顔をにゅっと挙げ、涙目で俺をにらみ、
「オズ、それは役を演じてる時のことよ。
役者はね、プライベートのことなら泣いたっていいのよ。
役者が親の死に目にあっても、泣いちゃいけないの?」
「あ、そうだよな、ジュリ、いっぱい泣いてもいいから
思わずジュリが吹き出して、
「やっぱりオズもずれてんのね」




