【1年1組】
入学式を終えて、教室へ移動。教室に入ると、俺の席はなんと、
ジャンヌの右隣の席だった。喜びで胸がやけどしそうだったが、
なんとか平常心を装って席に着いた。
ジャンヌは、左隣の男子と話していた。やっぱ、名前の話らしい。
ジャンヌはちらっと俺を見ると、
「私達、お隣りどうしね、宜しくね」とジャンヌ。俺も、
「宜しくー」って言って、教室の中を見回して確認しているが、
左耳だけは特大ダンボ状態で、二人の会話をキャッチしている。
さっきも、俺とジャンヌは、名前の話をしていたから、俺も二人の話に
参加する資格がある。きっかけのタイミングを狙っていると、ジャンヌが席を、
後ろにずらせながら俺の方を見て、
「大澤く~ん、こちら大田君、大田君の名前、『猿田彦』って言うんですって」
と紹介され、お互いに顔を合わせ、
「宜しく」って頭を下げた。
「とっても威厳のある名前ねって、お話していたの」
『猿田彦』かあ、俺より変わった名前だな、『威厳』かあ、ジャンヌの奴、
俺には『素敵』って言ったよな、やっぱ、俺の方が近親感持っているのかなあ。
大田をライバル視して、『俺の方がリードしている』なんて自己満足していると、
「大田君、大澤君の名前も、小さな三角の角って書いて、『オズヌ』って
言うんですって。素敵な名前でしょ?」
ジャンヌは大田に同意を求め、大田は頷きながら、
「オズヌにジャンヌに猿田彦って、変わった名前が三人並んでねえ?」
三人同時にうなずく。
担任の岡田先生が入ってきて、改めてみんなとご対面。
型どおりの挨拶の後、先ずは先生の自己紹介。国語の先生だ。
続いてみんなの自己紹介だ。
大田は中学の時、『ゴリ』っていうニックネームだった。
猿田彦の、『さる』って言われると、めちゃくちゃ怒るし、
体もデカかったから、猿よりゴリラの方が似合うので、みんな親しみをこめて、
『ゴリ』って呼ばれるようになった。
だから、みんなも自分のこと、名前で呼ぶなら、
『ゴリ』って呼んで欲しいと言っていた。
俺も小さい時から、っていうか、両親が俺のことを、
『オズ』って呼んでいたから、周りからも、『オズ』って呼ばれていた。
だからみんなにも、『オズ』って呼んで欲しいと自己紹介した。
ゴリの向こう隣の大浜ジュリは、戸籍上の名前は漢字らしい。
親が姓名判断で付けたんだけど、漢字だと、『ジュリ』って読みづらく、
カタカナの方が馴染み易いので、『ジュリ』で通している。
本名は、受付の『受』と売り買いの『売』で、『受売』って言っていた。
ジュリもゴリと同じく演劇部希望だけど、ダンスとかミュージカルを
やりたいらしい。
おっと、最後にジャンヌの自己紹介だけど。西鎌倉中学出身で、
茶道部へ入部希望と言っていた。
私のこと、『ジャンヌ』と呼んで下さいとは言わなかった。
俺は、『大橋さん』ではなく、『ジャンヌ』と呼んでみたいのに。
ジャンヌに対しては、俺のクラス内での当面のライバルは、同じ隣の席の、
ゴリということになるが、ゴリとジュリはすでに、
お互いいい感じになっている。
俺とジャンヌが、体育館入口の、クラス分けの名簿を確認中に出会ったように、
ゴリとジュリも同じように、名簿の前で出会い、お互い演劇がやりたくて
六国高校に入ったことで、すっかり意気投合していた。
すでにお互いを、『ゴリ』『ジュリ』と呼び合っていた。
俺はこの展開に、『どこまでツイテいるんだろう』と、
一人でニヤケっぱなしの初日だった。
来週が待ちどうしい。