【沙也香の祈り】
今朝も、お祈りの最後に、水晶が輝き、映像が映し出された。
制服を着た少女が、教会の聖壇の前に膝まずき、十字架上のイエスを見上げ、
一心に祈っている。背後には、黄金色の円光が輝いている。
次に少女の前方上段より顔が映し出された。
「やっぱ沙也香ちゃんだ」
『……み国の来たらんことを、み心の天のごとく、地にもおこなわれんことを。
我らの日常の糧を、今日もあたえたまえ』
「『主の祈り』ね。沙也香ちゃん、イエス様を信じているのね」
「なあジャンヌ。『主の祈り』ってなに?」
「イエス様が、このように祈りなさいと仰られた祈りなの」
「『天にまします我らの父よ……』っていう祈りだよな。
キリスト教徒ならみんな祈る祈りなんだ」
「ゴリ、キリスト教もよく知ってるんだ」
場面が変わり、沙也香の自宅のようだ。自分の部屋だろう、
机の上の本棚の上には、イエス・キリストの複製画が掛っている。
沙也香は、机の上の父母と弟の家族写真の前で、カーペットに膝まずき、
静かに目をつぶって祈っている。
沙也香の背後には、先程と同じく、黄金色の円光が輝いている。
「あれ、日曜日、今日の日付じゃん。時計も7時55分を差している。
この映像、実況じゃねえ?」
祭壇脇の置時計と一致している。
「ゴリ、よく気がついたな。沙也香ちゃん、教会でも家でも祈ってるんだ」
「信仰心が篤いんだな。それにしても、何をいっしょうけんめい
祈ってるんだろう?」
とたんに沙也香の胸の内の祈りが、沙也香の声になって響いてきた。
《……我ら家族に、日常の糧をあたえ給え。我が罪人を許したる如く、
父が犯せし罪を許し給え。健やかなるときも、苦しみにあえぐときも、
父母が互いに信じ合い、助け励まし合い、我が家族に安寧をもたらし給え。
また、この安寧が、不幸にあえぐ、すべての家族にももたらされんことを……》
突然、壁に掛るイエス・キリストの絵が金色に輝き、
《汝の信仰 家族を救えり 心安らかに行け》
厳かな声が響き渡った。
今日の映像はここで消えた。
「沙也香ちゃんの祈りを、イエス様が受け止められたわ。
お父さんもきっと救われるわ」
「ジャンヌ、俺たち、どうやって救うの?」
「お父さんが、銀行強盗をやる前が、私たちの出番みたいね」




