【姫カット】
5月の連休明けだ。朝、ジュリが、ジャンヌにご馳走のお礼を言っていた。
昼のチャイムが鳴って、午前の授業は終了だ。
ランチタイムはいつもの4人で一緒に食べる。といっても、
ジャンヌはお茶だけだ。
ジャンヌは、基本は一日二食で昼は抜きだ。それも肉と魚を除く、精進料理だ。
弁当の代わりに、ポットにお茶を入れてきて飲んでいる。
「ジャンヌ、お父さんによーくお礼言っておいてね。お母さんにもね。
お寿司とてもおいしかったって」
「みんな、来てくれてありがとう」
「そうそう、お父さんの仕入れというか、センス、最高だったな」とゴリ。
「なんか海苔もいいの使ってなかった? 家とやること違うよな」
「お寿司の材料も褒めてくれてありがとう。みんなとても喜んで、
美味しかったって、お父さんに伝えておくわね」
「この前ジャンヌ、食べられなかったから、ジャンヌの修行が終わったら、
またやってもらいたいな」
「オズ、いい材料使ってたし、それに私たち、結構食べたから、
次回のお願い、気が引けるわよ」
「ううん、全然気にしないで。私も次は、みんなと一緒に食べたいから。
私の断食期間が終わったら、お父さんに絶対やってもらうから」
「なんかさー、ジャンヌのお父さんって、娘がお世話になってるから、
感謝の気持ちを表したいって思いが、こちらにひしひしと伝わってきたよな。
なあ、ゴリ」
「そうそう、それは私も感じた。なんていったって、大事な独り娘だからよ」
「あ、そうだ、忘れていた」
ジャンヌはバックから、ジュリが忘れていったカチューシャを渡した。
「あら、ジャンヌ、ありがとうね。私、帰りにモノレールの駅まで行く途中で、
小学生の女の子がカチューシャしてたの。その子見て私、はっとして、
頭にカチューシャないからあせっちゃって、ああ、そういえばトイレに入った後、
洗面台に置き忘れたって気がついたの」
「そうよ、洗面台にあったの」
「私、取りに帰ろうかと思ったけど、まあいいやって、ジャンヌが気がついて、
学校に持ってきてくれるだろうって」
「ジュリのショートヘアに、とっても似合っていたわ」
「ありがとジャンヌ、ジャンヌのロンゲ、いつから伸ばしてるの?」
「私、たぶん、小さいときから、三つ編みが好きだったから」
「前髪ぱっつんは?」
「中学2年からかな」
「そっかー、それで、その姫カットも?」
「ううん、姫カットは、今年中学卒業してからよ。
行きつけの美容院に勧められたの。お任せしますって」
「ジャンヌの美容師って、カリスマなの?」
「いいえ、大船の、お母さんが昔から行ってる美容院よ」
「でも、ジャンヌの美容師、センスいいじゃない。
黒のロンゲで、前髪ぱっつん姫カットジャンヌ風ってとこね」
「ジャンヌのヘアースタイル、すっげー似合ってるし、かっこいいよ。
ジュリも伸ばしてみたら」
「ありがとう、モンチ」
「ちょっとゴリ、私のショートヘア、嫌いなの?」
「いや、そんなことないって。今のショートヘア、とってもジュリに似合ってるし、
カチューシャも最高に似合ってたぜ。だけど」
「だけど、なによ」
「ジュリも、ロングヘアー、似合うんじゃないかなって」
「ゴリ、ジュリも演劇部だから、ロングヘアーのかつらなんて、山ほどあるだろ」
「そうよ、オズ、いくらでもロンゲに変身しようと思えばできるんだから。
それよりオズ、ジャンヌの髪、褒めてあげなさいよ。
女の子はね、容姿は別にして、髪型は、おせじでも褒められたら嬉しいものよ」
「まあ、ジュリったら、私、オズのおせじ、きいてみたーい」
ジャンヌのやつ、微笑みながら、目を大きく開き、瞳を一段と輝かせながら、
俺を覗き込む。
「ジャンヌの黒髪、いいツヤしてるじゃん」
「オズ、ありがとう」
ジャンヌはいかにも嬉しそうに、両手を胸の前に合わせた。
「何、そのコメント。ジャンヌに似合ってるかどうか、聞いてるんでしょ」
ジュリのフォークに刺したウィンナーが、こっちにすっ飛んでくる勢いだ。
ジュリのやつ、すっげーおせっかいだな。
「ああ、とっても似合ってるよ」
「だってさ。ジャンヌ、よかったわね」
ジャンヌは首を、横に傾げながらニッコリうなずいた。
ジャンヌはボトルからお茶を注ぎ飲んでいる。それを見ながらジュリが、
「ジャンヌ、お茶だけでほんと、大丈夫なの?」
「これ、お抹茶なの。お抹茶に、ブドウ糖混ぜているの。
だから、脳に栄養補給しているから、授業を受けていても大丈夫なの。
ジュリ、心配してくれてありがとう」
「それ、抹茶なんだ。ねえ、ジャンヌ、今度、私たちにも抹茶点ててよ。
私まだ、抹茶飲んだことないのよ」
ジャンヌのことだから、きっと優雅な指さばきだろうなって、
想像しただけで、無性に飲みたくなった。
「俺も、ジャンヌが点ててくれたお茶、飲んでみたい」
「じゃあ、作法室使っていいか、部長と顧問の先生に聞いておくから」
「そっかー、茶道部は、作法室で部活っていうか、稽古してるんだ」
「ええ、八畳間で、全員入ると狭いけど、楽しくやっているわよ。
先輩たちも優しいし。先生から、お部屋の許可いただいたら、
私、お家から、お茶碗とか、お道具持ってくるから、
そしたらオズ、お願いがあるの。
お家から、携帯のポットにお湯入れて、もってきてくれるかな」
「ああ、お安い御用さ」




