【拘置所】
今朝も連休で、会社が休みなのか、ジャンヌもゴリも、お父さんが送ってきた。
7時からお祈りを始めた。《平成の祈り》を初めて、まだ一週間だけど、
ジャンヌの身体は、日に日に浄化されていくのが感じられる。
ジャンヌが祈り始めると、ジャンヌの身体が輝き出し、同じく水晶も輝きを増し、
石室内が真昼のような明るさになる。
俺自身の肉体の、穢れや煩悩が浄化されていくのが判る。
心身ともに軽くなっていく。直観力も増してきている。
ジャンヌの進化の度合いは、俺の比ではないだろう。
一時間祈り続けた。八時ころ、水晶から映像が映し出された。
拘置所のようだ。例の銀行強盗で捕まったおじさんの家族と面会するのだろう。
面会室のガラスの前に、母親と娘が座って待っている。服装から夏のようだ。
今4月だから、今回も未来の映像だ。
母親は、憔悴しきった顔でやつれている。娘は、思い詰めた表情ながら、
瞳は父親に会える喜びで輝いていた。
しばらくすると、ドアが開き、父親が係官に促され、部屋に入ってきて着席した。
座ってもうつむいて、母親と娘に顔を合わせようとしない。
音声付きだ。
重苦しい沈黙の後、母親が、
「何で、どうして」と言って泣き崩れた。
「すまん」と言ってうつむくお父さん。
「何で私に相談してくれなかったの、これから私たち、どうなると思っているの、
沙也香は中学2年で、裕太はまだ小学5年ですよ」
激しく詰め寄る母親を、抑えながら沙也香は、
「パパ、ママと裕太と沙也香のことは心配しないで、それよりパパ、
だいぶ痩せたみたいだけど、ご飯ちゃんと食べてるの?」
「事件を起こして以来、食事が喉通らないのだ、沙也香や裕太のことや、
これからのことを考えると、夜も寝むれないのだ。沙也香や裕太に、
つらい思いをさせてすまん」
「沙也香のことは大丈夫。パパ、裕太は、先生やお友達から、
励まされているから安心して。だからちゃんと食べてね」
「そうか」
お父さんは力なく応えたが、少し笑みが戻った。
「あなた、これから私たち、どうやって生活していけばいいの。
今の状況、現実を解っているの! 沙也香も転校させなければならないし、
今のお家も、手放さなくちゃいけなくなるでしょうし」
お父さんはまたうつむいてしまった。
「ママ、お願い、パパのこと責めないで」
「沙也香、今の学校辞めて地元の公立中学へ転校するから、
それから中学卒業したら働くから。裕太は私が大学まで出してみせる。
だからパパも罪を償ったら一緒に頑張ろう」
「せっかく沙也香が一生懸命勉強して入った学校なのに……ほんとにすまん」
「ううん、パパ、実はね、今まで黙っていたけど、沙也香、
学校でいじめにあっていたの。だから、今の学校辞めたいと思っていたの。
いままでパパに黙っていてごめん」
お父さんが急に泣き出した。
お父さんはずっと下を向いて泣いている。
「どうしたの、パパ」
やっと顔を上げたお父さんは、流れる涙を拭おうともせず、
「沙也香、お前は嘘をつくのが下手だな。沙也香がみんなから愛されているのは、
お父さんが一番よく知っているよ」
「ううん、沙也香、本当に……」
「沙也香、いいんだ。沙也香は今、お父さんのせいで、家庭や学校で、
つらい思いをしているのだろう。そんな状況のなかで、こんなお父さんのことを、
気使ってくれるなんて、お前ってやつは、なんて天使みたいな子なんだ……」
お父さんはまた泣きくずれた。お母さんもハンカチで顔を覆っている。
「沙也香、ありがとう。お前の嘘にお父さん、心が洗われた。
なんだか勇気が湧いてきた。もう何にも怖くなくなったみたいだ。
将来に希望がもてるみたいだ。しかし、なんでもっと早く気づかなかったんだろう」
「パパ、今からでも遅くはなくってよ。とにかくパパは、過ちを悔いて、
迷惑をかけた皆様にお詫びしなくちゃ。沙也香も許して頂けるようお祈りするわ」
映像はここで消えた。
「犯罪者の家族って、大変な思いするんだな」とゴリ。
「でも、沙也香っていう子、しっかりしてるじゃん。なんか、この家族、
大丈夫そうだし、立ち直れそうだな」
「そうかもしれないけど、今の映像、未来の出来事だから、お父さんが、
銀行強盗する前に、運命を変えられればいいのにね。
あ、そうだ。私、沙也香ちゃん一家の幸せをお祈りするわ」
ジャンヌは、早速お祈りしている。ゴリも倣ってお祈りしている。
そうか、俺も他人ごとみたいに映像見てたけど、俺も追っかけお祈りした。




