【熊野神社】
今日は、授業が午前中までで、午後は全員下校となっていた。
ジャンヌが、俺ん家の周辺の氏神様にお参りしたいって言ってたから、
今日行こうということになった。
「先ず、地元の氏神様にご挨拶しておきたかったの」
ジャンヌのこれからの決意と気合いが伝わってきた。
「ねえオズ、氏神様って、どこにあるの?」
「ああ、六国高校のグランドの下辺りに、熊野神社ってあるんだ。
正月に初詣に行くし、隣が多門院っていうお寺さんなんだけど、
家のお墓が在るから、お盆の時にはお墓参りした後も、熊野神社へもお参り
してるんだ。確か大船の町の総鎮守とかいってた気がする」
「じゃあオズ、その熊野神社に案内してね。ついでに大澤家のお墓参りも
させてちょうだい」
「グランドの裏口からすぐなんだ。裏の切り通しを通って、
大船中央病院の前から大船駅へ抜けていけるんだ」
「今日は、校門から出ないとまずいよな。オズ」
「ちょっと遠回りだけど、高野台のバス停から、
テニスコートの裏を通って行けば大丈夫」
「二人とも、付き合わせてごめんなさいね」
「いやー、いよいよジャンヌがっていうよりも、
《紫をまとういと高き天使》が動き始めたっていう感じだな。
俺たちも、ジャンヌの役にたって嬉しいよ。だから、全然気にすんな。な、ゴリ」
「そうだ、ジャンヌ。遠慮するなよ」
「モンチ、オズ、ありがとう」
「それでは行こうか」
俺たちは、学校をあとにした。
バス通りから高野台のバス停を左折し、六国高校の裏手を回り、
グランドの下に至る。
「右手でいいんだな?」
先導はゴリだ。ここは俺の地元だけど、天孫降臨の御一行を先導した
霊的なDNAを受け継いでいる。ジャンヌ、俺と続く。
山道を少し進むと、
「モンチ、ちょっと待って」
ジャンヌが立ち止まって合掌している。
ゴリが後ろを振り返る
「どうした、ジャンヌ」
「神様がいらっしゃいます」
俺も神様を感じる。これは直感的なものだ。ジャンヌが授かった《平成の祈り》を
祈り出してから、日毎に直感力が進化している。俺も目がヒリヒリしている。
神様の存在というか、目に見えないが、神様の光を感じる。
ゴリはなにも感じないらしい。おそらく体質的なものだろう。
少なくとも、信仰心にかけては、俺よりゴリの方が篤そうだ。
「ジャンヌ、すぐ先が多門院の墓地の裏山で、
隣が熊野神社の本殿の裏にあたるはずだ」
「熊野神社の神々様が、お出迎えくださっているわ。
オズ、正面の鳥居はどこかしら?」
「一旦、切通しを抜けて、下まで下って、多門院の駐車場を回り、
正面の鳥居から階段を上がるしかないな」
「正面に回りますので、しばしお待ち下さいませ」と言って、
ジャンヌは頭を下げた。
俺とゴリも、ジャンヌに倣って合掌して頭を下げた。
「モンチ、じゃあ進んで下さい」
「了解、足元滑りやすそうだから気をつけて」
神社の裏は、切通しになっている。薄暗くて足元が悪い。
このような切り通しが、鎌倉には至るところにある。
切通しを抜けると明るくなった。
俺たちは、熊野神社の正面に回り、ジャンヌは、入口の鳥居の前で一礼した。
再び目がヒリヒリしている。
急な階段を上がると本殿だ。
ジャンヌは、深々と一礼し、合掌してピラミッドの印を組み、祈り始めた。無言だ。
俺もゴリも、ジャンヌに倣い、無言で《平成の祈り》を祈った。
目をつぶっているから判らないけど、左のジャンヌは、太陽のように輝いている。
熊野神社の神様が、裏の随道で、ジャンヌを迎えたのが納得できた。
それに、ジャンヌの背後には、大天使ミカエルと天使群が見守っているはずだ。
ジャンヌの輝きが収まり、そっと目を開けると、ジャンヌも目を開け、
前を見つめていた。
俺たちは、隣の琴平宮にも参拝した。
「さっき、この裏を通ったんだ。な、オズ」
「そうだ、じゃあ、次に多門院さんへ行くか」
俺たちは、隣の多門院へ移動した。
「オズ、ここのご本尊、毘沙門天じゃねえ?
毘沙門天て、別名多門天ていうんじゃなかったかな」
本堂の横に、『本尊毘沙門天』の額がかかっているのを、
ゴリはチェックしていた。
「へえ、俺、いままで、ご本尊がどうだとか、全然意識してなかった。
ゴリ詳しいな」
「俺、昔から神社とかお寺に興味あってさ、結構宗教オタクかもな」
多門院の本堂で、一同お祈りする。
ジャンヌは、ピラミッドの印を組んでいる。
やはり目をつぶってお祈りすると隣のジャンヌが太陽のように輝き出した。
本堂の階段を降り、水子地蔵を見つけたジャンヌは、
その前にしゃがんでお祈りをした。俺たちも、ジャンヌの後ろでお祈りすると、
やはり目の前が太陽になった。
それから裏の墓地へ回り、大澤家の墓にお参りした。
ご先祖様も、ジャンヌにお参りしてもらい、さぞかし喜んでいるだろう。
帰りに、墓地の入口の六地蔵を見つけたジャンヌは、
「私、小さい頃、『笠地蔵』の童話が大好きで、よくお母さんに読んでもらったわ。
何回も繰り返しお願いして、お母さんを困らせたの」
ジャンヌは、しゃがんで俺たちに振り返り、とびっきりの笑顔で微笑むと、
ここでの最後のお祈りをした。
「オズ、今日は、大船の鎮守様を案内してもらい、ありがとう。
地元の神様がしっかり守ってくださり、交流させていただくことができたわ」
「ジャンヌ、家のお墓、拝んでもらってありがとな。オトウもきっと喜ぶよ。
それじゃあ、鎌倉街道まで送って行くよ」
俺は、ジャンヌとゴリに、多門院から鎌倉街道へ抜ける道を案内しながら、
「ゴリ、今日、ジャンヌが参拝して、祈り出すと、光り輝き出すの分かった?」
「もちろんさ、神殿の前で祈る時と一緒じゃん。
でも俺は、ジャンヌとオズが感じたみたいな、神様の存在は、分からなかったな」
「そうだったな。神殿の前じゃあ、ジャンヌ、祈り出すと、いつも輝いてるよな。
今日は、神殿とか、水晶以外の場所でも、ジャンヌが祈り出すと、
太陽のように光り輝いたじゃん。だから俺、ジャンヌはやっぱし、
地上に降りた天使だって、確信したよ」
鎌倉街道までくると、
「この先、道なりに行くと、大船中央病院があるから、大船駅まで一本だから」
「あと、判るからもういいぜ」
「オズ、今日はありがとう」
ジャンヌは、目を大きく見開き、右手で力強くバイバイしてくれた。
ジャンヌの誠実な態度が伝わってくる。
先程までの、神聖にして近寄りがたい神々しさは消え、
愛くるしい少女に戻っていた。
俺は、このまま別れがたくなり、せめて大船駅まで送って行きたかったけど、
ゴリの手前もあり、ここで別れた。
ジャンヌも、ゴリと笑顔で話しながら帰っていく。二人の後ろ姿を見る限り、
お似合いのカップルだ。
俺は、ゴリにも全く嫉妬しない自分を感じていた。ゴリの人間性に、
全幅の信頼を置くことができている。
俺は、帰りは、甘粕屋敷の長屋門の前を通って、急坂を登っていった。
今晩、オトウが帰ったら、今日の話をしてやろう。




