【入学式】
六国高校の正門をくぐると、桜並木の桜が満開で気分がいい。
強い風が桜並木を舞い、花びらを散らせている。
俺は、六国見山を睨み、《……心短き 春の山風》とつぶやいた。
すると、風はたちどころに山へ帰っていった。
入学式の会場の、体育館の入口で、俺はクラス分けの掲示板を確認すると1組だった。
俺は岩瀬中の知ってる奴がいないか名簿で確認したが、クラスには誰もいなかった。
隣で女子が1組の名簿を確認している。横顔だけどかなり可愛いそう、
『1組でありますように』と願っていると、
「あった」独り言のように小さくつぶやいた。
俺は心の中で『やったー』と叫んだ。
そいつは俺に気づき、恥ずかしそうに
「あなたも1組?」と話しかけられた。
正面から見ると、横顔よりも、ずっと可愛かった。古代紫とかいう首のリボンも、
清楚な感じを引き立てている。
俺は一瞬狼狽し、
「あ、はい」なんて、タメなのに敬語的な返事をしてしまった。
「私、大橋ジャンヌ、宜しくね」って、微笑みというか、いかにも遠距離恋愛している
彼氏と、再開した時に見せる、喜びの顔っていう感じだ。
黒い瞳をキラキラ輝かせている。黒いロングヘヤーも良く似合っていた。
「俺、大澤小角(オズヌ)宜しくね」と、さりげに返事は出来たものの
胸はどきどきだった。
「え? 大澤? ごめんなさい」
「小角(オズヌ)って言うんだ。小さいに三角の角って書くんだ」
「わー、素敵な名前ね」って、マジで『素敵』っていう感じで、俺のことが素敵って
言われているみたいで、俺はなにを勘違いしたのか、
「いやー、全然そんなことないって」てな、へんてこな返事をしてしまった。
「ううん、とっても素敵でいい名前ね」とジャンヌ。
大概の奴は、『へー』という反応がほとんどで、『変わった名前ね』で終わってしまう。
俺の名前が『素敵』だなんて言ってくれたのは、ジャンヌが初めてだ。
俺は、この会話が、ずっと続いてくことを願った。何とか会話を続ける話題を必至に
探したが、すぐに出てこない。沈黙が支配し、俺はあせりまくった。咄嗟(とっさ)に、
「君も 大橋ジャンヌって言ったっけ?」
「ええ、そうよ」とジャンヌ。水晶みたいな黒い瞳で微笑まれ、ニヤケてしまっている
自分に、心の中で、『シャキっとせい』と気合を入れたが、
「あのー」
「あー、私、両親とも日本人よ」とジャンヌ。折角会話がつながっているのに、
「大澤!」って俺を呼ぶ声に振り返ると、俺と同じ、岩瀬中学出身の小林だった。
中学では、、俺と同じサッカー部で、この高校でも、一緒にサッカー部に入ろうぜ
といっていた。
「大澤、お前何組?」って話かけてきた。ジャンヌは、
「じゃあ、またね」って言って、体育館の中の受付に行ってしまった。
「俺、1組、お前は?」
「俺は3組だけど、さっきの女子、チョー可愛いじゃん、ひょっとして1組?」
と小林。俺は頷くと、
「ちくショー、お前、チョーラッキーじゃん」って、小林に言われたけど、
ほんとに俺チョーラッキー。
ジャンヌは先に行ってしまったけど、なんてったって同じクラスだから、
これから毎日会えるんだと思うと、俺は一人でニヤケてしまった。