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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第四巻 遙かなる時の漂流者
99/157

家族の痕跡(5)

(でも……、これじゃ、どっちが勝ったのか分からないわね……)


 完成したクロノポーターを前にして、ふと、レイチェルは、アマンダと賭けをしていたことを思い出し、思わず頬が緩んだ。

 自分がリトルワース基地で、リチャードたちと研究していたテレポーター、そして、父と妹が研究していたクロノポーター。どちらが早く完成するか賭けていたのだ。


 テレポーターが使えるようになったのは、レイチェルがこの世界で目覚めて、パルフィからヒントをもらってからである。したがって、年代で考えれば、アマンダたちの一万年後なのだから勝ち目はない。しかし、時間の経過でいえば、ここで目覚めて2週間後に完成したのだ。そして、クロノポーターはあと数ヶ月はかかるという見通しだった。


(うふふ、そう考えれば、私の勝ちなんじゃないの?)


 アマンダは自分にとって、家族であり、分身であり、親友でもあったが、同時に、良きライバルでもあった。幼少の頃からどんなことでも競い合い、それが半ば趣味のような二人だったのだ。

 思えば、この賭けをしたのが、アマンダと会った最後だった。その時の情景が胸に蘇ってくる。




『なによ、レイチェル。そんなに自信があるなら、賭けない?』


 それは、レイチェルがコールドスリープカプセルに入る2週間前。自宅の居間で、お互いの研究の進み具合を語り合った時のことだった。レイチェルが、何気なく、テレポーターの完成の方が早いかもしれないと言ったら、アマンダが食いついてきて賭けを提案してきたのだ。もちろん、レイチェルもこの手の勝負は嫌いではない。しかも、アマンダは、ことあるごとに張り合ってきたライバルでもある。


『いいわよ、じゃあ、あなた何賭ける?』

『そうねえ……、ふふっ、じゃあ、私が勝ったら、リチャードをもらおうかな』


 アマンダがチラリと意味ありげな視線でレイチェルを見る。


『えっ? ちょ、ちょっと、アマンダ、あなた何言ってるのよ』


 全く予想外の申し出に、レイチェルはうろたえた。


『いいじゃない、どうせ、まだキスもしてないんでしょ?』

『っ!』


 あからさまな言い方をされて、レイチェルが頬を染める。


『そ、そんな、だって……、まだ付き合って日も浅いんだし……』

『あはは、いやあねえ、冗談よ。リチャードはいい人だと思うけど、好みじゃないし』

『やだ、も、もう、アマンダったら……』

『なによ、レイチェルだって分かってるくせに。私たち双子だけど、男性の好みだけは違うじゃない』

『それは、そうなんだけど……』


 服や装飾品などの好みは同じなのに、不思議なことに男性の趣味だけは別だったのだ。レイチェルは、優しく大らかな男性、アマンダはリーダーシップのある強い男性が好みだった。レイチェルが当時付き合っていたリチャードは、アマンダから見ると「いい人」の域を出なかったのだ。


『ま、冗談は置いておいて、そうねえ、じゃあ、私が勝ったらBurlington Houseのディナーでいいわ』

『「でいいわ」って、あなた、そんな高いところ……。本気?』

『自信あるんでしょ? それならいいじゃない』 


 アマンダが、ニヤリと微笑んでレイチェルを挑発する。


『はあ……。ふふ、大きく出たわね』


 だが、ここで引いては姉の沽券にかかわる。レイチェルは、逆に、アマンダを焦らせるような賞品を思いついた。


『まあ、いいわ。そっちがその気なら、こっちだって考えがあるわよ……。そうね、私が勝ったら、そのペンダントの使用権をもらうわ。好きなときに使える、ね』

『えっ、これ? だって、これは……』


 アマンダが、まるでレイチェルに取られそうになるのを防ぐかのように、首から掛けていた赤いペンダントに手をやった。

 このペンダントは、アマンダがカレッジ時代に両親からご褒美に買ってもらったものだった。その年、アマンダとレイチェルはそれぞれに優れた論文を発表していた。アマンダがタイムトラベルについて、レイチェルはテレポーターについての論文だった。ともに、優秀な研究成果であるとの評価も高く、大きな賞にどちらもノミネートされていたが結局、アマンダが受賞した。その時の両親からのプレゼントである。

 アマンダは、賞を勝ち取れたことよりも、レイチェルに勝って両親からペンダントを買ってもらったことの方が嬉しいらしく、それ以来、勲章のように肌身離さずつけていた。そして、装飾品から衣服までほとんど全てのものを貸し借りしてきた姉には触らせようともしなかったのだ。


『あら、アマンダ、自信あるんでしょ?』


 レイチェルは愉快そうに微笑みながら、さっきのセリフをそのまま返した。


『も、もう。それ、仕返しのつもり?』

『ふふふ、それだけじゃないわよ。ホントに私、一度でいいからそれをつけて出かけてみたかったのよ。でも、あなたが悪いのよ、Burlington Houseのディナーなんていうから』


 レイチェルが微笑む。

 アマンダが、やれやれとばかりにため息をついた。


『はあ。分かったわよ。貸してあげるわよ、テレポーターが先に完成したらね……。ああ、もう、私、いつもレイチェルにはやり返されてばかりのような気がするわ』


 すねた振りをしてアマンダが、ソファに持たれるかかる。


『だって、お姉さんとしてはそうそう妹にやられるわけにはいかないわよ』

『また、そうやって……。たった12分差でお姉さん面しないでよね』

『何言ってるの。何かあったらすぐに妹面して甘えてくるくせに。でも、姉は姉なんだから。ちゃんと、お姉さんの言うことは聞きなさいね』

『はいはい、姉さん。分かりました』


 そして、二人は笑い合ったのだった。




(アマンダ……)


 ふと、レイチェルは我に返って、もう一度クロノポーターを見つめる。もうここは自分たちのいた世界ではない。このように科学力の低い世界で、しかも、魔道という未知の力を持った人たちに、この装置を渡すと何が起こるか分からない。危険としか思えなかった。そして、悪意を持つ者の手に渡れば、父とアマンダが情熱をかけたこの装置が悪用される恐れもある。それだけは、許すことはできなかった。

 しかし、だからといって、この装置を、自分が破壊することなどできはしない。これは、父と妹が生きた証であり、遺品なのだ。ならば、自分のすべきことは一つしかない。


「……ウォルターさん」


 レイチェルはウォルターたちを振り返った。


「はい」

「お願いがあります」

「何でしょう?」

「悪意を持つ者の手に渡らないよう、私たちは何としてもこの装置を守らなければなりません」

「ええ、それは、無論……」

「この装置は、この世界の運命を大きく変えてしまう力を持っています。悪用されれば、大変なことになります」

「そんなすごい装置なんですかい?」

「はい」

「そりゃあ、いったい……」

 

 まさか、そこまでの力を持つ機械とは思っていなかったのだろう、レイチェルの言葉を聞いて、ウォルターが様子を改めた。


「レイチェル殿、このようなものが発掘されたのはおそらく世界で初めてです。これだけ希少価値の高い遺跡ですから、盗賊どもから守らなければならないのは当然です。ですが、世界の運命を変える装置となると話は別です。賊から守るという話ではすまなくなります。大きく国を巻き込むことになる」

「はい」

「そろそろ、教えていただけますかな。これは、一体何なのですか?」


 ウォルターが、実験室全体を指し示すように手を大きく回して、レイチェルに問うた。

 レイチェルは、真っ直ぐにウォルターの目を見つめ返す。


「……これは、クロノポーター(時間転送機)と呼ばれています」

「クロノポーター?」


 一同が不思議そうな顔をする。何の機械かピンとこないのだろう。


「ええ。簡単に言えば、人や物を過去と未来に送り込むための機械です」

「ほう」

「過去と未来に……」


 ウォルターの後ろで、リンツとエドモンドが互いに顔を見合わせるのが見えた。そのさらに後ろで腕組みをしている幻術士は、一切表情を変えないため、何かを考えているのかわからない。


 おそらく、科学力が低くタイムトラベルの概念すらない文明では、理解し難い話の中も知れない。そう思った時、ウォルターが思わぬことを言った。


「それは、『時渡り』のようなものですか?」

「えっ?」

「自在に時を渡ることができる魔幻語使いですよ」

「魔道で、そんなことができるのですか?」


 レイチェルは驚いた。幻術士のテレポートだけでも十分に驚愕したのに、それどころか、生身の人間が呪文だけでタイムトラベルができるなど、人間の能力からすると埒外もいいところである。


「あ、いえ、伝説ですよ。事実か作り話かも分かっていません。かつて、何百年か、何千年前かに、時を自由に渡る大導師がいたという話が伝わっていましてね」

「そうなのですか……、そんな伝説が……」


 それが、伝説であることに、やや安堵と失望を感じながらレイチェルが頷いた。


「ただ、クロノポーター自体は、時を渡りませんわ。人や物を転送するだけですから」

「そんなもの、一体何に使うってんです?」

「未来や過去に何かを送って、いいことでもあるんですか?」


 エドモンドとリンツが尋ねてくる。二人はまだ、この装置の意義が分からないようだった。


「そうですわね。用途は様々ですが、人の命を救うことができます」

「ほう、それはどのように?」

「たとえば、大きな災害があって、多数の犠牲が出たとします。その後で、災害が起こる数日前にでも使者なり警告なりを送れば、予め住民を避難させたり、対策を取ったりすることができます。または、薬や治療の効かない疫病が流行った時、未来に行ってこの時代ではまだ知られていない治療法や薬をもらってくることもできます」

「ははあ」

「ほう。それは、素晴らしいですな」


 ウォルターも大きく頷く。


「ええ。もともと父がこの研究を始めた時も、それが目的だったと聞いています。ただ、これは使い方によっては、戦争の具にもなり得るのです」

「ほう」

「それは、どういうことですかい?」

「たとえば、奇襲を受けて酷い損害を受けたとしても、過去の自軍に警告を送り、相手の戦力などを事細かに教えることができます。そうすれば、奇襲に備えることはおろか、逆手に取って待ち伏せすることも可能になり、未来を書き換えることができるのです」

「ほほう……」


 エドモンドがいかにも感心したという素振りで、腕を組んだ。


「逆に、未来に行って、敵に勝つための武器や技術を持ち帰ることも可能です。この世界でいえば、未来に飛んでこれから生み出されるはずの高度な未知の呪文を学ぶことができますわ」

「それは、すごい」

「ふーむ。この装置を手にした国だけが、未来の呪文や技術を使うことができるというわけですな。確かに、それはこの世界の成り行きを左右する装置と言える」

「それだけではありません。この機械自体が莫大なエネルギーを使用しています。下手に使って暴走したらどうなるか分かりません。ものすごい爆発を起こす可能性があります」

「ど、どれぐらい、すごいんで?」

「もしかして、フィンルート遺跡のようなことになるのですか?」


 フィンルート遺跡の大爆発を思い出したのか、エドモンドとリンツが恐々と尋ねる。


「いえ、直接的な爆発としては、あれほどではありません。ただし、ここは火山地帯です。この一帯の火山の大噴火を引き起こす恐れがあります」

「火山の大噴火……、そんな力がこの機械に……」

「もともと、この実験室が地下に作られたのは、地上への被害を軽減させるためでした。当時は、この辺りは火山などない平地だったので、地下に作るのは理にかなったことだったのです。ですが、今はそれが完全に仇になっています。このような火山の麓の地下で大爆発が起こった場合、火山に与える影響は多大なものです」

「そりゃあ、一大事ですな……」

「ですから、ウォルターさん、この装置には護衛が必要です。そして、ある程度調査が進むまでは、内密にしておくべきです。悪意を持つ者に知られてはどうなるか……」

「ふーむ」


 ウォルターが思案げに腕を組んだ。


「……確かに、これほどの装置であれば、見つけただけでいきなり報告するわけにも行きませんな。現実問題として、アルトファリア政府にも科学を忌み嫌う者も多くいますし、このように巨大な力を持つ装置が見つかったのも初めてです。それなりの根回しが必要でしょう。また、この国の宮廷にも、他国からの内偵が送り込まれているでしょうから、迂闊に上に報告すると、他国にも知られる恐れがある。この装置にそれほどの力があるなら、戦を仕掛けてでも奪おうとする国も出てくるかもしれません。ただでさえ、ここは辺境の国境地帯で、攻めやすく守りにくいところにありますからね。それを考えると、やはり、政府に報告するのはある程度こちらの態勢が整ってからにしたい」

「ええ」

「警護については、ここには、ランク4の魔道士とランク5の幻術士がいますから、よほどのことがない限り大丈夫だと思いますが……。だが、うーむ、そうすると、その他の細々した用事に不自由するな。私たち二人で不寝番を務め続けるわけにもいきませんしね」


 ウォルターは、もともと魔道士の修行を積んでいたが、妻アネットの死をきっかけとして考古学者に転職したのだ。そのため、魔道士としてもランク4の実力があった。そして、新しく加入した幻術士がランク5なのだ。


「ですが、隊長。魔幻府に頼むにしても、ギルドに頼むにしても、上にバレちまいますぜ」

「確かにな、だが、われらの他に、ある程度の遣い手で、信用のおける者と言えば……」


 それを聞いて、レイチェルが顔を上げた。


「クリスたちではどうですか? フィンルート遺跡の時も護衛に来てもらったわけですし」

「そうですな、私もそれしかないと考えておったところです。まあ、あいつらなら、まだ初級とはいえ、見回りと戦力の足しくらいにはなるでしょう」

「ええ」

「それでは、早速迎えに行っていただくことにしましょう。せっかく、高ランクの幻術士に加入していただいたわけですからな」


 ウォルターは、後ろを振り返り、これまでほとんど口を利かず、ただ最後方で成り行きを見守っていた幻術士に声をかけた。


「よろしいですかな、グスタフ殿」


 グスタフは、腕組みをして彫像のように立ったまま、うなずいた。


「それは、むろん構わぬが、私が迎えに行ったのでは、あの者たちは大人しくついてこないのではないか?」

「それは、そうですわね、グスタフさんがみなさんと同行しているなんて、クリスたちは知らないでしょうし」


 レイチェルが苦笑いする。自分もそうだったのだ。

 ここに来る当日、いきなり自宅まで迎えに来られた時は、肝を冷やした。一緒に、エドモンドがいて、事情を説明してくれていなければ、ついてくる気にはならなかっただろう。


 グスタフは、フィンルートの一件後に、ベルグ卿による国家転覆に加担した罪に問われ裁判に掛けられた。だが、本人はアルティア攻撃の計画は何も知らず、ベルグ卿の命に従っていただけであること、そして、宮廷にも影響力を持つウォルターの弁護もあって、お咎めなしとなった。そして、その恩に報いるべく、ウォルターに帯同していると、あとから聞いたのだった。


 レイチェルも、グスタフ自身が忠誠心が強いだけで、残忍なのではないと悟り、また、もともとフィンルートの一件では、直接関わることが少なかったこともあって、事情を聞かされたあとは、気にしていなかった。


「だが、この状況で、エドかリンツを同行させるのは痛い。それに、誰かに一緒に行かせると、六人連れての遠距離テレポートになるからな……」


 ウォルターが、思案げに顎を撫でる。

 幻術士のテレポートは、距離と、目的地との親和性、さらには一緒に飛ぶ人間の数によって、大きく難易度が変わる。この遺跡は国境沿いの辺境にある。術者の負担を考えれば、人数は少ないのに越したことはないのだ。

 しばらく考えたあと、ウォルターがニヤリと笑ってグスタフに言った。


「ここはやはり、グスタフ殿お一人で行っていただいた方がいいでしょう。そして、もし、クリスたちがぐずったら、その場合は、無理矢理連れてきていただいて結構です。稽古を兼ねて、死なない程度に叩きのめしてください」

「まあ」


 レイチェルが驚いて思わず声をあげる。ウォルターがそれを見てウインクした。


「いい実戦経験になりますよ」


 グスタフは重々しく頷いた。


「分かった。そういうことであれば、引き受けよう。どこまで行けばいいのだ?」

「あ、クリスたちは、カトリアの王宮に行くって言ってましたわ」

「ほう、オルベール王宮に?」


 意外そうな顔つきで、ウォルターが尋ねた。


「ええ、魔物退治か何かで行く用事があるそうです」

「ははあ、なるほど」


 ウォルターは、何かに思い当たった表情を見せた。

 レイチェルは、ウォルターがパルフィの正体を知っていることをクリスから聞いていた。おそらく、それと関連づけているのだろう。


「そうすると、行き先はルーンヴィルか。結構遠いな。どこまで迎えに行ってもらえばいいのかな」

「隊長、きっとクリスたちはルートン経由でカトリア入りしたんじゃないですかい?」

「そうだな……」


 ウォルターたちが、クリスの一行を連れてくる段取りを話し合い始める。

 レイチェルは、それをウォルターたちに任せることにして、一人またクロノポーターに目を向けた。


(完成はしてるけど、テストはしたのかしら……。ログ(記録)をとってあるだろうから、見てみないと……)


 このような大掛かりで実験的な装置は、完成と言えるまでに何度もテストと調整を行う必要がある。おそらく、このクロノポーターでも、過去や未来への転送実験を重ねたはずだ。そう思った時だった。


「あっ」


 思わず大きな声が漏れた。不意に、雷が落ちたかのようなショックが全身を駆け巡って、ある考えが突然浮かんだのだ。


「どうしました? 何か、気になることでも?」


 熱心に段取りを話し合っていたウォルターたちが、一斉にこちらを見た。


「あ、いえ……、ごめんなさい、何でもないんです」

「そうですか」


 ウォルターたちは、また、話し合いに戻る。

 だが、レイチェルは自らが思いついた考えに、激しく動揺していた。


(これ、もし本当に完成しているなら……)


 ドクン、ドクン


 胸の鼓動が高鳴る。

 無意識のうちに、レイチェルは右手でハーフローブの胸元の襟をぎゅっと掴んでいた。


(もしかして、これ……)

(自分を転送してしまえば……私、元の時代に戻れるんじゃないの?)

(そうよ……。きっと、そうよ)


 自分の思いついたアイデアに興奮と動揺を感じながらも、これが実現可能かどうか、懸命に考えをまとめる。


(オペレーター席のコンソールを直接操作できなくても、クロンがいればなんとかなるはず……)


 まだ、レイチェルは完成したクロノポーターに触れたことはなく、転送作業は複雑な処理の連続だが、なにしろ開発を手伝っていたのだ。原理は承知している。これから、システムに習熟すれば問題はない。それに、実際の操作は、クロンに任せることができるはずだ。


(まだ、確かめてみないと分からないけど……、たぶん、なんとかなる……)


 突如訪れた『過去への帰還』というチャンスに、レイチェルは体の震えを感じた。

 両親と妹の姿が目に浮かぶ。


(お父さん、お母さん、アマンダ……)


 レイチェルは面を上げ、実験室の奥にある転送ステージを見つめた。


(私、帰れるのよ……)




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