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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第三巻 幻術の国の王女
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パーティ・テレポート(2)

 しばらく街道を歩いた一行は、やがて村に到着し、教会に隣接したエミリアの家の前まで来た。ルティが、ドアをノックする。


 コンコン


『はぁい、ただいま参ります』


 奥から、エミリアの声が聞こえる。

 そして、パタパタと廊下を小走りに駆ける音がして、ドアが開き、エミリアが出てきた。


「あら、ルティ、それに、みなさん」


 突然の来訪に、エミリアは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。


「姉さん、ただいま」

「エミリアさん、こんにちは」

「みなさん、お久しぶりですわね。まあ、パルフィさん、どうなさったのですか?」


 パルフィがクリスの背におぶさっているのに気がつき、心配そうに声を掛ける。


「大丈夫よ。テレポート呪文で疲れただけだから、心配しないで」


 ここまで来る間にクリスの背中で回復したのか、元気そうにパルフィが答えた。


「パルフィにとっては、初めてのパーティー・テレポートだったので、思ったより疲労が激しかったみたいです」

「あらあら、それはお疲れでしょう。では、私が回復呪文を掛けて差し上げますわね。さあ、みなさん中にどうぞ。あ、クリスさん、そのままパルフィさんを二階の客間に連れて行ってあげてください」

「分かりました」


 そして、エミリアがドアを広く引き開けて、招き入れた。


「お邪魔します」

「失礼いたします」


 一行が口々に挨拶しながら、エミリアの脇を通り中に入る。


 と、その横で、


「エ、エミリア、久しぶりだな」


 最後に残ったグレンが、照れながらエミリアに話しかけた。


「グ、グレンさんも、お元気そうでなによりですわ。さあ、どうぞ中に」


 エミリアもほほをサッとバラ色に染めて、微笑み返す。


「いやあん。二人とも初々しいんだからあ」


 パルフィがその様子を見て、クリスの背で身を起こし、頬に手を当てて体をクネクネと動かした。


「ちょ、ちょっと、パルフィ。人の背中でぐねぐね動かないでよ」

「だあってえ」

「そんな冗談が言えるなら、もう大丈夫だね。降ろすよ」


 クリスが、パルフィを降ろそうとすると、パルフィがクリスの首にしがみついて甘えた声を出した。


「やだ、ちょっと待って。まだ歩けないのよう。上までつれてってえ」

「ええ? ホントかなあ。やたら元気そうだけど……」


 疑わしそうな顔をしたクリスだったが、パルフィを背負い直して、階段を上がった。


「えへへ」


 パルフィは、うれしそうにまたクリスにしがみついたのだった。



◆◆◆


「じゃ、降ろすよ。よいしょっと」

「ありがと。あ……」


 客間に入り、クリスが、背負っていたパルフィを下すと、パルフィは本当にまだ足元がふらつくようで、そばのベッドにぽすんと座り込んだ。


「大丈夫かい?」

「うーん、まだちょっとふらつくわね……。一人で練習してた時はこんなことなかったんだけど、やっぱり、四人連れて長距離飛ぶのは大変なのよね」

「そっか」

「まあ、次はもう少しうまくやれると思うわ。今日は朝からルートンから歩きっぱなしだったから、もともと疲れてたってのもあると思うし」

「今夜は、早めに寝なよ」

「そうね」


 ちょうどその時、開いていたドアをコンコンとノックする音が聞こえて、エミリアが入ってきた。


「パルフィさん、お加減はいかがですか?」

「うん、ちょっと体がふらふらするけど、大丈夫よ」

「そうですか。では、すこし診察して、疲労回復の呪文をかけますわね」

「ありがとう」

「じゃあ、僕は下に降りてるから。エミリアさん、よろしくお願いします」

「はい。承りました」


 クリスは、パルフィにうなづきかけて、ドアを閉めて出て行った。


「パルフィさん、すこし横になっていただけますか」

「うん」


 言われたとおりに、パルフィはベッドに横になる。


「では、まず診察させていただきますね」


 エミリアはベッドの縁に腰掛け、右手をパルフィの胸部にかざして、呪文を唱えた。右手から淡い光が出てパルフィを照らす。そして、ゆっくりと首から腹部にかけて手を動かしていく。


「疲れているのが感じられますが、特に異常はないようですわね。テレポート呪文による単なる疲労だと思います」

「やっぱり、そうよね。今日、初めて全員つれて長距離飛んだからさ。しょうがないわ」

「そうですか。テレポートは術者への負担が大きいですから、慣れるまでは無理はなさらないでくださいね」

「うん」


 エミリアは、話しながらも手をかざしていたが、ふと、パルフィの胸の辺りで手を止めた。


(えっ……)


 何か驚いたように小さく声を上げる。


「ん、どうかした?」

「あ、いえ、なんでもありませんわ……」


 だが、なんでもないといいながらも、エミリアは、手をかざしたまま、少し考え込むような顔つきになった。


(……これは、もしかして……)


 エミリアのつぶやくような声が、パルフィに聞こえてくる。


「エミリアさん?」


 パルフィのいぶかしむ声に、我に返ったのか、エミリアがあわてて返事をした。


「あ、ごめんなさい。ちょっと、考え事をしていたもので……。では、疲労回復の呪文を唱えます」


 そういって、別の呪文を唱えると、今度はパルフィの体全体が薄い緑色の光に包まれ、しばらくして、その光が消えた。


「はい、結構です。起きてみてください。いかがですか?」


 パルフィは、身を起こすと、うーんと大きく伸びをした。


「うん、すっかり疲れも取れたわ。ありがとう、エミリアさん」

「いえいえ。お役に立てて良かったですわ……」


 一瞬、微笑んだが、また何か物思いにふけるような表情に戻るエミリア。


「どうしたの?」


 エミリアは、パルフィの心配そうな表情に、しばらくの間、迷うような表情で黙っていたが、やがて、思い切ったように顔を上げて、パルフィを真っ直ぐに見つめた。


「……パルフィさん、少しお尋ねしたいことがあります」

「う、うん、なに?」


 エミリアの真剣な眼差しに、どうしたのかと不安げに聞き返すパルフィ。


「……不躾(ぶしつけ)なことをお伺いしますが、もしかしてあなたは、普通とは異なる、特別な血筋のお生まれではありませんか?」

「えっ? そ、それって、どういうこと?」


 パルフィは慌てたように聞き返す。自分が王女であることは、まだエミリアには告げていない。ルティに知られた以上、エミリアに隠すのも気が引けたのだが、ほとぼりが冷めるまで、パーティー内だけにしておこうと思っていたのだ。それを、いきなりこのように言われて、パルフィは焦った。


「あ、いえ。パルフィさんの家柄とか生まれ育ちをお聞きしたいわけではないのです。ただ、ちょっと、気になることがありまして……」

「な、何?」

「あなたは、何か特別な力をご先祖から受け継いでいらっしゃいますね。それも、かなり強い力が眠っているのが感じられます」

「えっ、エミリアさんにも分かるの?」


 パルフィは、まだ発現もしていないオーガスタスの力を感じ取ったエミリアに、驚いた。


「はい、まだ、おぼろげながらにですが、確かに感じます。最後にお会いした時には、気がつきませんでした。今、治療をしていて気づいたのです。といっても、その眠っている力が目醒める兆しが見えるというだけですけれども。……それでは、パルフィさんも、この力についてはご存知なのですね?」

「え、ええ。お父様にも、私の幻術の先生にも聞いたわ。まあ、それもあって今こうやって修行しているんだけどさ。何だか、ランクが低いうちに覚醒したら制御できないらしいから、それを抑えられるようにって」


 そして、パルフィは、オーガスタスの力について、かいつまんで説明した。

 優れた幻術師の家系に生まれ、その幻術師の能力が数世代ごとに子孫に受け継がれること。

 そして、当代ではその力をパルフィが受け継いでおり、しかも、先例よりも早く覚醒する恐れがあるため、父や師に修行をするように言われていること

 である。


「そうですか。そのようなお力が……。確かに、まだ、発現していないこの状態でも、その力の強さは感じられます」

「そうなんだ」

「はい。ですから、私も、パルフィさんの先生がおっしゃったように、修行を積んで『その時』に備えるのがいいと思います。覚醒するまでにはまだかなりの猶予があると思いますし。ただ……」

「ただ?」


 少し言いにくそうに黙ったが、やはり言っておくべきと考え直したかのように、エミリアが続ける。


「……これは、まだ先の話なので、そういうこともある、とだけ覚えておいていただきたいのですが……」

「うん、なに?」

「これから何年か経って、もしこの力の覚醒が止められなかったとき、そのときに何が起こっても、パルフィさんは、自分が自分であることを覚えておいてください。そして、周りの人が自分を愛していることを忘れないでください。おそらく、覚醒してしまったときに、この力に飲み込まれずにすむかどうかは、自分自身でいられるかどうかにかかっていると思います」

「自分自身でいる……?」


 言われたことが今ひとつピンと来ずに、パルフィが聞き返した。


「そうです。パルフィさんがご先祖から受け継がれたのはあまりに強力な力です。そして、その器となるべきパルフィさんの準備が整わないうちに、それほど強大な力が目覚めてしまったら、その力にあなたの精神も飲み込まれてしまうかもしれません。そうなれば、もう取り返しがつかないことになります。ですから、そうならないように、自分を見失わないでいることが必要なのです」

「ふーん、自分でいる、か。よくわかんないわね」

「大切なのは、ありのままの自分を受け入れること、そして、どんな自分であれ、今の自分が愛されていると信じて、その気持ちを強く持つことです。パルフィさんのご家族やクリスさんたちパーティーの仲間、そして私やレイチェルも、みんなパルフィさんのことを愛しているということは忘れないでくださいね」

「うう、なんか、あらたまってそんなふうに言われると、照れるわね」


 少し頬を染めて、パルフィが言った。


「ふふふ。本当のことですし、それに、とても大切なことですから」

「そっか……。分かったわ。エミリアさんがそう言うなら、覚えとく」

「はい」

「……えと、それでね、エミリアさん、黙ってて悪かったんだけどさ、あたし、ホントはね、カトリアの……」


 パルフィが自分の身分を明かそうとした時、エミリアが優しく遮った。


「パルフィさん、無理に(おっしゃ)る必要はないのですよ。人には黙っておきたいことがあるものなのですから」

「で、でも……、ルティも、クリスたちも知ってるし……」

「それは、ルティは同じパーティーなのですから、私と違うのは当然です。それに……、正直に言うと、パルフィさんが高貴なお生まれだということは、初めてお会いした時から分かっていましたから……」

「え、ウソ、ホントに?」

「ええ」

「初めて会った時って、ルティをオークから助けて、泊めてもらった時?」

「はい」


 エミリアの返事に、パルフィは驚きの声を上げる。


「え、でも、どうやって? あたし、お兄様やお姉様みたいに、出来も良くないし、威厳も気品もないし、しかも、こんな普通のカッコしてて……」

「そんなことはありませんよ。パルフィさんは、口も達者だし、お転婆なところもありますが、ちゃんと内から溢れる気品も威厳も感じ取れますよ」


 まるで、引け目を感じることはないと言い聞かせるかのように、エミリアが言った。


「そ、そうなんだ……。でも、他のみんなは、あたしが言うまで気づいてなかったけど……」

「それは、たぶん、私が祭司だからです」

「それ、どういうこと?」

「ご存知の通り、医師や薬師と同じように、祭司にも回復士としての役目がありますが、医師や薬師が体を回復するのが仕事であるのに対して、祭司は神に仕え、人の魂を救うことが務めです。病や怪我を治すのもそれが目的なのです。魂にも健全な体が必要ですからね。でも、それゆえ祭司は、魂の器である肉体にとらわれず、人の魂そのものを看る修行を積むのです。

 人の見目や姿形に違いがあるように、人の魂にも違いがあります。性格や気質だけでなく、生まれや育ち、幼少より受けた教育、これまでの人生の経験、全てが相まって魂の色と形を作っていくのです。そして、祭司には、それを感じ取ることができるのです。

 ですから、たとえどのような格好をなさっていも分かるのですよ。私から見れば、パルフィさんは、どこに出しても恥ずかしくないぐらい立派なお姫様ですから」

「……そっか、そうなんだ……。でも、そうやって言ってもらえると、ちょっと嬉しいな」

「うふふ。だから、自信持ってくださいね」

「うん、ありがと……。あ、でもね、みんなにも言ったんだけどさ、あたしはあたしだから、その、特別扱いしないで欲しいな」

「もちろんですよ。パルフィさんはパルフィさんですものね」


 エミリアはそういって、優しく微笑むのだった。






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