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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第三巻 幻術の国の王女
62/157

意外な目的地


「みんな、何か報告はないかな?」


 クリスたちは今日も、ギルド宿舎の食堂で朝食を食べ終わった後、自分たちが借りている五人部屋の居間に戻り、パーティー・ミーティングを行っていた。


 フィンルートの旧文明遺跡を巡る冒険からアルティアに戻ってきてすでに一ヶ月半。クリスたちは、いくつもの小さなミッションを重ねて、ひたすら修行に励んでいた。その結果、今では全員がランク2になっていた。平均的なマジスタと比べると、相当に速いペースであると言えよう。


「あたし、もうすぐテレポートが使えるようになるよ」


 パルフィが軽く手を上げた。


 パーティー・ミーティングでは、その日の予定やミッションの確認などの事務的な内容から、習得した呪文の報告まで様々な情報を共有する。特に、新しい呪文を習得した場合には、メンバーに伝えるのが必須とされていた。そうしないと、例えば、戦闘中に急に知らない呪文を出すと、周りを混乱させることにもなりうる。そのため、習得するたびに、他のメンバーたちに報告し、そして、場合によっては屋外に出て試し撃ちや、立ち位置の確認をするのだ。


「おお、いよいよだね」

「そういや、ランク2で最初のパーティーテレポートができるって言ってたな」

「うむ。これで、移動時間の節約になるな」

「でも、このランクで出せるテレポート呪文は、たかがしれてるからあんまり期待しないで」


 パルフィは、少しすまなさそうに笑って肩をすくめた。


「飛べるのは行ったことのあるところだけだっけ?」

「そうよ、しかも近距離しか飛べないし、マナの消費も激しいから、連発はできないわね」

「あとどれくらいで使えるようになるの?」

「完璧になるのはあと数日かな。ランク1の時から練習してたしね」

「そうか。ちゃんと使えるようになったら教えてね」

「うん」


 呪文は、ランクが上がると同時に、自動的に習得できるわけではなく、あくまでも、修行して自分で学ばなければならない。

 また、呪文ごとに定められている習得ランクは純粋な難度を表すのではなく、必要なマナを満たし、自分の体が呪文に耐えられるかどうかが大きく影響している。そのため、実際は、高ランクの呪文でも発生原理を学ぶこと自体はそれほど難しくない。単に、マナが足りないとか体が持たないという理由だけである。

 このことから、少し前から次のランクの呪文を『予習』することによって、ランクが上がってすぐに新しい呪文が使えるようにするというのが一般的なのだ。

 

「じゃあ、今日、この後だけど、どうする? ギルドにミッションをもらいに行ってみる?」

「うむ。それがいいだろう。昨日は休息日でゆっくり休養したし、稽古よりはミッションをやりたい気分だな」

「オレもそれでいいぜ」

「よし。じゃあ、そうしよう。それに、言いにくいんだけど、今月の収支もちょっと厳しいからさ……」


 クリスが苦笑いしながら、チラッと、グレンがそばに置いている大剣に目をやった。


「収支? フィンルートの一件でクリスの父上に貰った報酬があったのでは………ああ、なるほど」

「ははあ、そういうことね」

「あれですね」


 ミズキやルティたちもグレンの剣を見つめる。

 その視線に耐えられなくなったかのように、グレンが両手を上げた


「悪かったよ、どうせオレが悪いんだよ。新しい剣を買ってもらったからな。だけど、仕方ねえじゃねえか、剣が折れちまったんだからよ」


 グレンは、旧文明遺跡での機械兵との戦闘で、剣にダメージを受けたらしく、一昨日のミッション中に折れてしまったのだ。それだけならよかったのだが、昨日たまたま寄った武器屋で、中古ではあるがかなり上等の剣が掘り出し物の価格で売られているのを見つけてしまい、クリスに買ってくれとせがんだのだった。

 武器や防具、ポーション、そして食費や宿泊費などパーティーの活動に必要な物は、経費としてクリスが管理しているパーティーのお財布から出る。

 しかし、いくらお買い得とはいえ、元が上等な剣である。支払う金額としてはかなりの額だった。最初は、難色を示していたクリスだったが、どちらにせよグレンには剣が必要なこと、そして、この剣の攻撃力がかなり高く、パーティーに貢献するということで、最後はクリスも折れたのだった。


「なんか、ボロそうだけど、そんなにいい物なの?」


 パルフィはバカにしたような目で、グレンの剣を見た。

 確かに、剣の(さや)から見えている(つか)はボロボロの布が巻いてあり、金属製の柄頭もさびて変色している。(つば)もややゆがんでいた。鞘自体も、革で作られているようだったが、あちこち擦れて装飾も見えなくなり、ところどころ穴が開いていた。


「バッカ。おめえにはわからねえよ。こんな掘り出し物、滅多にないぜ。あの武器屋も、この剣をあんな値段で売ってるようじゃ、モグリと言われてもしかたねえな」

「どうなの、ミズキ?」

「うむ。私は刀のことしか分からないが、確かに見てくれは悪いとはいえ、刀身の部分はかなりよい仕上がりだと思う。このレベルの打物としては相当に安かったと思うがな」

「へえ。グレン、あんた剣のことは分かるのね」


 意外だという顔でパルフィが感心した。


「グレンの父上は、確か鍛冶屋ではなかったか?」

「おうよ。オヤジの仕事柄、オレも小さい頃から、いろんな剣は見てるからな」

「フーン」

「じゃあ、みんな、飢え死にしなくてもいいように、頑張って働いてね。特にグレンには、獅子奮迅の働きを期待してるよ」

「ホントよ。あれだけ無茶言って買ったんだからね」

「ああ、任せておけ。腕がなるぜ」

「じゃあ、行く?」


 そこで、急にパルフィが思い出したかのように声を上げた。


「あ、ゴメン。あたし、これから試験を受けにいかなくちゃいけないのよね」

「ははあ。認定試験で出来が悪かったから呼び出されてるやつだろ?」


 グレンが、ニヤニヤした顔でパルフィを見る。

 パルフィはマジスタ認定試験のうち、筆記試験が相当に悪く、実技試験のよさもあって補欠合格にはなったが、そのかわり、補講を受けさせられることになったのだ。ミッションの合間に、もうすでに数回受講していた。そして、今日がその締めくくりの筆記再試験の日であったのだ。これに不合格になれば、また補講プラス試験である。


「うっさいわね。多少筆記が悪くても、合格させてもらえるほど優秀って言ってちょうだいよ」

「ものは言いようだな」

「ふんっ」


 ふくれてパルフィが横を向く。


「それなら、僕たちだけでミッションもらいに行ってこようか?」

「そうね、ミッションなんて早い者勝ちだから、みんなで行ってきて。あたしも昼前には戻るから」

「どんなミッションでもかまわないよね」

「無謀なヤツ以外ならなんでもいいわよ」

「そんなの、僕たちも引き受けないって」


 苦笑いで、クリスが手を振った。


「むしろ、おめえが一番引き受けそうだからな」

「はん。勝手に言ってなさいよ」

「まあまあ、じゃあ、適当に引き受けてくるよ」

「うん、お願いね」


 こうして、パルフィは魔幻府の考査棟に、クリスたちはギルドに出かけたのだった。



 ◆◆◆◆


 それから数刻後。パルフィは、意気揚々と宿舎に戻る道を歩いていた。

 今日は珍しく頭が冴えており、補講試験に無事合格したのである。


 昔からなんでも直感で理解し、感覚的にこなして来たパルフィにとって、頭で論理的に理解して覚えるということは性に合わない。そのため、実践練習の優秀さに比べて、机上の勉強がすこぶる苦手だった。ただし、それは、できないわけでも、頭が悪いわけでもない。単に、文字にして紙に書かれると今ひとつピンとこないだけなのだ。それを無理やり頭に詰め込むというのはパルフィにとっては本当につらい作業である。

 しかし、その苦しみも今日で終わりだ。もうこれで、補講もなく、晴れて補欠合格の身分から脱することができたのだ。パルフィの足取りも軽い。


「ただいまぁ」


 パルフィが部屋に戻ると、クリスたちが居間に揃って、何やら盛り上がっていた。


「あ、パルフィ、おかえり」

「試験はどうだったのだ?」

「ええ、何とかなったわよ」

「そりゃ良かったじゃねえか」


 四人はやたら機嫌が良さそうに見える。


「ええ、まあね。それより、どうしたの、みんな。盛り上がっちゃって」

「ほら、ギルドにミッションもらいに行ったでしょ。そしたらね。すごく条件のいいものがあったんだよ」

「へえ、どんなの?」

「国外への書類の配達だよ」

「旅ができるんだぜ」

「しかも、外国ですよ」


 ルティもうれしそうである。


「えっ、すごいじゃない」


 国外へのミッションは、移動の手間と途中の滞在費などの経費も含まれるため、概して報酬が高い。

 しかも、書類を届けるという極めて簡単な仕事である。言うなれば、タダで旅行に行けて、高額な報酬までもらえるようなものだ。このようなミッションなど滅多にないことも相まって、クリスたちが盛り上がるのも無理はなかった。


「よかったよ。これで、生活費もしばらく安泰だよ……いやホント」


 クリスの安堵の声には切実な響きがあった。


「ク、クリス、そんなにやりくり大変だったのね……。で、行き先は?」

「それがさあ、ね、みんな?」

「おう、よくぞ聞いてくれたってもんだぜ」

「うむ。きっと、驚くぞ、フフフ」

「うふふふ」


 一同がニヤニヤと愉快そうな表情でパルフィを見上げる。


「な、何よ、もったいぶっちゃって。さっさと教えなさいよ」

「はいはい。えーとね。行き先は、カトリアだよ」


 そう言って、クリスはまた、反応を見るのが楽しそうにパルフィを見つめた。


「は………? え、ええええっ? ウソ、ホントに?」

「うむ、パルフィはカトリア出身なのだろう?」

「これで、里帰りができますね」


 みんな、うれしそうにパルフィに話しかける。当然ながら、パルフィの事情を知らないクリスたちは、故郷のカトリアに戻れることを喜んでくれるとしか思っていない。

 自分に向けられる期待のこもった目が、かえってパルフィには痛かった。


「あ、ああ、そうね……」


 引きつりながらもなんとかうれしそうな表情をするパルフィ。

 しかし、衝撃はここでは終わらなかった。激しく動揺しているパルフィにさらに追い打ちを掛けるように、ミズキがたたみかける。


「しかもな、カトリアのどこだと思う?」

「え、なに? そ、そんなにすごいところなの? デ、デルヴィ村?」


 パルフィは、あえて、国境沿いにある誰も知らないような小さな村の名前を出した。もちろん、そんなところに、書類の配送などあろうわけもない。あくまで、そんな人里離れたところだったらいいという希望である。しかし、グレンたちの興奮した顔をみて、最悪の結論が待っていることが分かった。


「デルヴィ……? どこだよ、それ? ちげえって。王宮だよ、王宮。首都ルーンヴィルのオルベール宮殿だぜ」

「そそ。王宮に書類を届けるんだよ」

「……ほ、ほ、ほんとに?」

「おうよ。すげえだろ?」


 グレンはなぜか自分の手柄のように得意そうである。

 だが、パルフィは全く予想外の成り行きに戸惑うばかりであった。


(ど、ど、ど、どうしよう……)


 カトリアへのミッション自体が極めてまれであるうえ、王宮への書類の配達など今まで聞いたこともない。それが、まさか、このタイミングで自分に回って来るとは。

 

(ああ、もうっ。いったい誰よ、うちの王宮に書類なんて送ろうと思ったバカは……)


 パルフィは、依頼者に火の玉の一つでもぶつけてやりたい気持ちに駆られながら、心の中で悪態をついた。


 一方、パルフィの衝撃と動揺をよそに、クリスたちは相変わらず盛り上がっていた。


「国外ってだけでもすごいのに、王宮へ行けるって、夢のようなミッションだよね」

「私、王宮なんて、敷地の中にも入ったことないですよ」

「そんなの、みんなそうだぜ」

「うむ、こんな貴重な経験をさせてもらえるとはな」

「もしかして、王族の誰かに会えるのかな」

「うわぁ、直接、お目通りがかなったらすごい自慢です」


 普段、冷静なルティも興奮が抑えきれないようであった。


「そういえば、カトリアは王女が何人かいたんじゃなかったか。おい、クリス、おめえどうする、王女さんに見初められて言い寄られたらよ? うまくいきゃ、結婚して王子になれるぜ。ガハハハ」

「ぶっ」


 いくら知らないとはいえ、その王女を目の前にして好き放題言うグレンに、パルフィは思わず吹き出した。

 それを見とがめるグレン。


「どうした? 何かさっきから妙な反応ばかりしやがるな。気になることでもあるのか」

「あ、あ、あ、あのねえ。お、王女さまがそんなことするわけないでしょ。い、言い寄るとか……、それに、け、け、結婚だなんて……」


 そこまで言って、パルフィはクリスをちらっと見た。


「いやあ。まいったなぁ」


 クリスは、グレンのセリフに苦笑いしながら、のんきに頭をかいていた。


「あ、あんたも、調子いいこと言われて照れてんじゃないわよ。王女さまがあんたと、け、け、けっ、結婚だなんて……」

「ちょ、ちょっとパルフィ、グレンのいつもの冗談じゃないか。落ち着きなよ」

「ていうか、なんでおめえが赤面してんだ?」

「え? い、いや、せ、赤面なんてしてないわよ。アンタがつまんないこというから、ちょっと頭に血が上ったのよ」

「ケッ、そうかい。まあ、いいや。みんな揃ったことだし、早速用意して、昼飯食ったら出かけようぜ」

「そうだね」

「必要な物も買いに行かねばならぬな」

「王宮に行くなら、いいかっこして行ったほうがいいのかな?」


 クリスが、自分の服を見回して言う。


「オレたちはこのままでいいが、クリスは、王女様が惚れるようなかっこしていけよ」

「そんなこと言われても……」

「まあ、王族の方々にお目通りがかなうのは無理としても、せめて宮殿の中に入れてもらえるとよいのだがな」

「ですねえ……」


(さ、最悪だわ……)


 脳天気に盛り上がるクリスたちをよそに、今度は青ざめていくパルフィ。


(まずいわね……、他の場所なら、変装してなんとでもなるけど、王宮だと絶対にバレる……)


 それでも、滅多に自分が言葉を交わさないような者たちなら、何とかなるかもしれない。しかし、自分の家族、そして、クレアにティベリウスなど、普段からよく話をする者たちだけは、騙し通せる自信がなかった。

 そして、自分がパルフィ王女であると分かれば問答無用で連れ戻されるのは明白だった。


(い、いやよ、あたし、みんなと別れるのは……)


 この数ヶ月というもの、毎日、仲間と一緒に修行もして、バカ騒ぎもして、死にそうな目にも遭ったが本当に楽しく充実した日々を送ってきたのだ。王女であるという自分の立場上、いつまでも続くわけがないというのは心のどこかで覚悟はしていたものの、こんな急に仲間たちと別れる危機が訪れるとは思っていなかったのだ。


(なんとかしなきゃ……)


 必死で考えをまとめるパルフィ。

 だが、解決策は意外と簡単なことにあった。


(あ、待って。王宮の手前で、仮病か何かで自分だけ宿屋で待つとかすれば、王宮に行かなくてすむんじゃないかしら……)

(そうよ。別に配達の時に全員揃ってる必要なんてないんだから……)


 ミッションはあくまでも、書類を王宮に届けることである。別にメンバーのうち誰がいようといまいと、関係がない。それに気がつくと、急に心が軽くなった。


(なんだ、そんなに焦ることはなかったわね。バカじゃないの、あたし。あとは……、そうね。ルーンヴィルに入ったら、少しくらい変装した方がいいわね)


 ルーンヴィルは、カトリアの首都であり、オルベール王宮の城下町でもあった。地方とは違い、市民たちは王族の姿を見る機会も格段に多く、一般市民の中にも、自分と直接話したことがあるものが多数いるはずだ。


 うーんと唸りながら、パルフィがあれやこれや算段をつけていると、その様子を不思議に思ったクリスとミズキが問いかけてきた。


「ん? パルフィ、どうかした? 難しそうな顔して。あんまり嬉しそうじゃないみたいだけど」

「故郷に帰るのは、嫌なのか? 私など、たまに恋しくなる時があるがな」


 ミズキがうらやましそうにふっと笑う。ミズキの故郷ヒノニアは、アルトファリアからは相当に遠い。もう、何ヶ月も戻っていないのだ。

 パルフィは慌てて平静を装った。


「あ、そうじゃないのよ。も、もちろん嬉しいわよ、嬉しいに決まってるじゃない。で、でも、ほら、あたし、立派な幻術士になるまで帰らないって決めたから、ランク2ぐらいで帰ってもいいのかなって」

「なんでえ、そんなのいいじゃねえか。別に、マジスタやめて国に帰るわけじゃねえんだし」

「そ、そうよね。あたしもそう思ったから、別にいいかなって」

「なら、決まりだな。てか、今さら取り消しなんてできねえしな」


 基本的にはいったん引き受けたミッションは途中で破棄することはできないことになっている。そして、もし完了できなかったら、パーティの経歴にも傷がつく。つい先ほど、引き受けたばかりのミッションをやっぱりやめると言いに行くのは、やはり信用に関わるだろう。


「そ、そうよね。あ、そうだ、ねえ、みんな。ギルドに行ったとき、他にカトリアでやれるミッションはなかったの?」


 パルフィが、取り繕おうとするかのように、別の話題をふった。


「うむ。確認はしたのだがな、あいにく私たちが引き受けられるのはこれだけだったのだ」

「ランク4以上のミッションならありましたけど、さすがに無理かと思いましたので」

「おう、そうだぜ。カトリアで取れる鉱石の採取だったか」

「うん。カトリアのなんとかいう聖地にある山で取れる水晶だったかな。採掘許可をとらないといけないから、カトリア政府との折衝が必要なんだって」

「うへ」

「うへ?」


 妙な声を出したパルフィに、クリスが不思議そうな顔をする。だが、パルフィはそれどころではなかった。


(水晶が取れる聖地……。それって、サン・オーシュのことじゃ……。あそこは確かお兄様の直轄領だったはず。てことは、折衝って、お兄様に直談判するってこと? あ、あぶなかった……)


 いくら変装しようが何だろうが、実の兄をだませると思うほどバカではない。


「でも、まあ、高ランクの魔物と戦うんじゃなくて、その折衝が難しいってだけだって話だったから、一瞬、オレたちでも引き受けられるんじゃねえかって思ったんだがな」

「そうそう。パルフィはカトリア出身だから、なんとか同郷のよしみでひとかけら採掘させてくださいって言えばね」

「引き受けてもよかったかもしれませんね」


 それを聞いてパルフィは慌てた。


「ちょ、ちょっとまってよ。いくら何でも、それは無理よ。あたしがカトリア出身だからって、まけてもらえるわけじゃないんだろうし……」

「落ち着け、パルフィ。そんなに焦らなくても大丈夫だ。結局引き受けなかったのだからな」

「そうだよ。万が一、断られたら大変だしさ。まあ、書類の配送だけでもいい報酬になるから、今回は休暇も兼ねてのんびり行こうよ」

「だな。さっさと配達しちまって、どこか見物でも行こうぜ。パルフィ、おめえ、観光名所を適当に案内してくれよ」

「え、ええ……」


 パルフィは、曖昧に返事をした。行く先々で変装の心配をしなければならないのが、気が重かったのだ。


「でも、今回はパルフィのおかげですから、感謝しないとだめですね」

「えっ?」

「このミッションはな、カトリア国民がメンバーの中にいるというのが条件だったのだ」

「そうそう、王宮に行く関係でね。まさに僕たちにうってつけのミッションだよね」

「へ、へえ」


 はあ、と大きくため息をつくパルフィに、クリスが心配そうにささやきかけた。


(ねえ、パルフィ。本当にいいのかい? さっきから、浮かない顔だけど。どうしても気が乗らないなら断ってくるよ)

(い、いいのよ。気にしないで。あ、あたしもそろそろ国に帰りたいって思ってたから……)

(それなら、いいけどさ……)


 クリスはあまり納得したような表情ではなかったが、それ以上何も言わずに引き下がった。

 それから、クリスたちは、旅の用意をして宿舎を引き払い、早速カトリアまでの旅に出かけたのだった。




 だが、アルティアを出て二日後、クリスはパルフィの正体を知ることになる。それは、カトリアとの国境に近いルートンの街に着いたときのことだった。



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