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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第二巻 未来の古代人たち
50/157

侵入

 話はその少し前にさかのぼる。


 レイチェルの遠話を受けた時、クリスは、パルフィたちや発掘隊のチームとひとかたまりにされて、監視されていた。

 魔道士が3名、スロープの入口に立って扉を警護している。グスタフはそこからやや離れたところに一人で立ち、腕を組んで、睨みつけるようにクリスたちを見張っていた。


「みんな、ちょっと耳を貸して」


 クリスは、遠話を終えると、ヒソヒソ声で皆に近くに寄るように言った。怪しまれないよう、一同はさりげないふりをしながら、クリスの声が聞きやすい姿勢を取る。


「今、レイチェルから、遠話が入ったよ」

「ん、お前、遠話なんて使えるのか? いやそれを言うならレイチェルもだな」


 ウォルターが意外そうな顔をした。


「いや、僕が使えるわけじゃないんだ。詳しいことはよく分からないけど、レイチェルの使い魔みたいなのが頭の中に住んでて、そいつが代わりに中継してくれるらしいんだよ。で、なぜか、僕とだけ遠話でやり取りできるんだって」

「ほう」

「へえ。クリスだけなんだ。フーン」


 パルフィがどこから声を出しているのか分からないような低い声で言った。


「いや、そんなところで突っ込まないでよ、それどころじゃないんだから。大変なんだよ。リチャードがこの遺跡からミサイルを撃ってアルティアを火の海にしようとしているらしいんだ。それで、僕たちに止めるのを手伝ってほしいって」

「えっ、ホントなの、それ……?」

「そいつは、やべえな」

「待て、そのミサイルってのは、まさかお前たちが言っていた……」

「レイチェルの世界の兵器だよ。ロザリアの街を全滅させたやつだ」

「ケッ、あの野郎、いけすかねえツラしてると思ったら、ふざけやがって」

「お前たちの話だと、空から降ってきたそのミサイルとやらが、ロザリアの街を一瞬で廃墟にしたのだったな」

「うん」

「そうか。ということは、この遺跡は軍事施設だったのだな。そして、ベルグ卿は旧文明人だったわけか……」


 ウォルターがあごに手をやりながら、納得したかのようにうなずく。

 横からこの会話を聞いていたリンツが信じられないといった様子でつぶやいた。


「まさか、旧文明人がもう一人いたとは……」

「いや、そう考えれば、つじつまが合うことがある」

「何ですか隊長?」


 エドモンドも身を乗り出してきた。


「40年前に発見された棺だよ」

「それが何か?」

「あの棺は未使用だったと考えられていたが、実はそうではなく、収容されていた者が目を覚まして、抜け出した後だったとしたらどうだ」

「あっ」

「そして、レイチェルの2才年上だった恋人のリチャードとやらは、40才ほど年を取っていた」

「ということは……」

「その棺にいたのはベルグ卿だったのだ」

「な、なんてこった……」

「これまではあの棺は死者を入れるためのものだと信じられてきたからな。だから、空っぽな棺だから未使用だとか、せいぜい骨ごと盗掘されたのだと推測されてきた。しかし、レイチェルの話では、あれは逆に人を生かして保存しておくためのものだった」

「なるほど、旧文明人なら遺跡の調査や出土品に興味がないのは当然ですな」

「ああ。すでに自分の馴染みのものなのだからな」

「ずっと、この遺跡だけを探してたんですね」

「そう考えて間違いないだろう。狙いはもちろんこの基地の兵器だな。そして、とうとう見つけたわけだ……。まあ、いい。その話は後だ」


 ウォルターはクリスに向き直った。


「それで、クリス、レイチェルはなんて言ってたんだ?」

「僕たちに、基地の中に入って来てほしいって」

「そうか。なるほど。ベルグ卿を止めるつもりなのだな。よし、クリス、私とお前たちでこの監視しているやつらを倒すぞ」

「うん、そうするしかなさそうだね」

「でも、どうするんだ? 雑魚の魔道士どもはオレたちでもなんとかなりそうだが、あのグスタフとかいう副官はやっかいだぜ」

「さっきのテレポート呪文はランク4だわよ」

「いや、本人からランク5と聞いたことがある」


 ウォルターが腕を組んで思案げに言う。


「さすがに5は、あたしたちでは歯が立たないわね」

「ランク5の呪文ダメージは、私も回復しきれません……」

「では、私がグスタフを引き受けよう。私が彼と戦っている間に、クリスたちは雑魚を片付けて中に入ってくれ」

「うん、わかった」

「お、おい、ちょっとまてよ。オヤジさんは学者なんだろ。あの副官の相手なんかつとまるわけないだろうが」

「ああ、そのことなら大丈夫だよ」


 クリスがニヤリと笑った。


「なんで?」

「だって、父さんはランク3の魔道士だから」

「は?」

「エッ?」


 パルフィたちが一様に驚いた表情を見せる。


「いや、最近ランク4になったぞ。フフ」

「……だってさ」


 クリスが軽く肩をすくめる。


「マジかよ……」

「ちょっと、クリス、そんなの聞いてなかったわよ」

「ごめんごめん。父さんは、ずっと魔道士の修行をしていて、それから考古学者に転職したんだよ」

「ああ、それで分かった」


 ミズキがはたと膝を打った。


「何が?」

「ここに来たときクリスが言っていただろう。『父さんがいるから、別に護衛はいらないんだけど』とな。何のことか分からなかったが、これで理解できた」

「そりゃ、ランク4の魔道士がいるんじゃ、盗賊がきても楽勝だよな」

「まあね。でも、買い出しの護衛なんていちいち父さんも大変だし。僕たちはそれなりに役に立ってたと思うけどね」

「その通りだ、レイチェルの世話役もやってもらえたしな」

「だが、向こうはランク5だろう。オヤジさんより上だぜ。やれるのか?」

「あ、そうだよ。大丈夫なの、父さん?」

「ん? そんなの楽勝じゃないか、ふふふ」


 ウォルターが楽しそうに笑いながら、答える。


「え、なんで?」

「私も、レイチェルから、魔幻語の正確な発音を習ったからな」


 ウォルターは片目をつぶってニヤリと笑った。


「……やるじゃねえか」

「と、父さん、いつのまに……」

「ははは。強くなりたいと思っているのは、お前たちだけじゃないさ」

「なら大丈夫だね?」

「ああ、まかせておけ。エド、リンツ。今のを聞いていたな」

「へい」

「は、はい」

「戦闘が始まったら、お前たちは村人たちをつれて離れたところまで下がっていてくれ。それにこの後何が起こるか分からん。出土品や発掘の記録なども遺跡から離れたところまで持って行こう」

「了解しやした」

「わかりました」


 二人がうなずくの見て、ウォルターがクリスたちに云った。


「よし、まずは、お前たちがあの雑魚たちを攻撃してくれ。そうすれば、グスタフの注意もお前たちに向くだろう。その間に、私が呪文を唱えて、グスタフに攻撃する。そして、お前たちは雑魚を倒したらそのまま中に入って、ベルグ卿を止めてくれ」

「うん。わかった」

「よし、では、時間がない。一気に行くぞ。今だ!」


 その声に、クリスたちは、同時に立ち上がり、扉に向かって駆けていく。


「むっ、貴様たち抵抗する気か」


 魔道士たちもそれに気がつき、一人が厳しく問い詰めるが、クリスたちは返事もせず攻撃態勢に入る。


「行くぜ」

「応っ」


 グレンとミズキが抜刀し、魔道士たちに切りかかった。

 同時に、クリス、パルフィ、ルティの3人はそれぞれに呪文を唱える。


「みんな、こっちに来るんだ。早く!」


 戦いが始まったのを見て、エドモンドとリンツが、村人たちを離れたところに誘導しはじめた。村人たちは、何が始まるのかとおびえた様子で、二人についていく。


「バカめ。死にたいらしいな」


 グスタフもクリスたちの意図に気がついたようで、吐き捨てるように言うと、呪文を唱えた。

 そして、クリスたちに呪文を撃とうとした瞬間、目立たぬように呪文を唱えていたウォルターが火の玉をグスタフに投げつけた。炎の燃え盛る音を響かせながら、一直線に飛んで行く。しかし、グスタフは、それに気がついて、唱えている呪文をキャンセルし、片手で火の玉を弾き飛ばした。そして、意外そうな表情で、ウォルターを見た。


「ほう。貴様、学者と思っていたが、魔道士だったのか。だが、今の呪文の強さ、せいぜいランク3と言ったところだな。5の私に勝てるかな?」

「グスタフ殿、私は貴殿に恨みがあるわけではない。ベルグ卿はこの遺跡の力を使ってアルティアを火の海にしようとしているのだ。私たちに協力してもらえないだろうか?」

「やかましい。閣下のご命令だ。貴様たちには死んでもらう」

「待たれよ。ベルグ卿はアルティアを滅ぼすつもりなのだぞ。それでも、私たちを止めるおつもりか」

「問答無用。お前たち全員、血祭りにあげてやる」

「では、致し方ない。お相手しよう。ちなみに、私のランクは3ではない、4だ」

「フン、それがどうした。3も4も同じことだ」

「それに、+2の補正が掛かっているのだ。ハアッ」

 

 呪文を素早く唱え、気合を込めて、ウォルターが再び火の玉を出す。

 それは、最初に出したものよりもはるかに強力に見えた。


「バ、バカな。何だそれは……?」


 グスタフもそれが感じ取れたのだろう、驚きの声を上げた。通常なら、自分よりもランクの低いウォルターが、これほど強力な呪文を出せるはずがないのだ。

 この呪文を見るまで、グスタフはウォルターと対峙しながらも、クリスたちの様子も気にかける余裕があった。おそらく、さっさとウォルターを倒して、すぐにクリスたちも自分が片付けるという算段だったに違いない。しかし、このウォルターの呪文を見て、その余裕は一瞬で消えたらしい。すでに焦りの表情で、どうやって切り抜けるかを必死に考えているようである。


 一方、クリスたちにも同じことが起こっていた。おそらくこの三人の魔道士たちはランク1から2程度だったが、もともとクリスたちとさほど差がない上に、人数も少なく、おまけに補正がかかった呪文をクリスたちが使えるということで、勝負がつくのにほとんど時間はかからなかった。


「ぐううう。な、なぜ、そんな……?」


 クリスの呪文が直撃し、最後の一人が信じられないという表情のまま、戦闘不能になり倒れる。


「ヘッ。こちとら本物の魔幻語を学んでるんだぜ」

「そうよ。まあ、一人につき一つの呪文だけだけどさ」

「それでも、大違いだな。レイチェル殿に感謝せねば」

「だね。よし、行こう」


 クリスたちは扉のところまでスロープを駆け下りた。そして、先ほどリチャードがしていたように、クリスが扉横の半透明のパネルに掌を当てる。

 しかし、扉は開かない。代わりにピピピッという音がして掌に当てたパネルの下部にいくつかの見慣れない記号が現れた。


「開かないわね」

「どうなってるんだ、これは?」

「大丈夫だよ。さっきレイチェルに聞いたから。よくわからないけど、登録されてないとだめなんだってさ」


 クリスは自分の右手をパネルに当てながら、左手で、教えられた順番に記号を押した。

 その瞬間、また、電子音が鳴り、今度は空気がもれるような音と共に扉が開いた。


「あっ、開いたわよ」

「よし、行くぜ」


 グレンがまず中に入り、ミズキ、パルフィ、ルティが後に続く。そして、クリスが最後に入ろうとしたとき、背後からグスタフの


「グワアア」


 という断末魔のような叫び声が聞こえてきたのだった。





【次回予告】


レイチェルは、ミサイル発射を止める方法を模索していた。しかし、普通の方法では阻止することができないことが分かる。そして、唯一可能性のある方法は、多数の人間を犠牲にするものだった。果たして、レイチェルの決断は。


「ちっ。魔道か。こしゃくなマネをしおって」


「レイチェルはそれでいいの?」


「いえ、リチャードを倒しても無駄ね」



次回『公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活』第二巻「未来の古代人たち」

第十九話「生命の天秤」をお楽しみに。


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