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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第二巻 未来の古代人たち
34/157

公式ミッション

 

 話はその数日前にさかのぼる。


 マジスタのパーティとして、ギルドに正式に登録し、これで冒険の日々が始まると期待に胸を膨らませていたクリスたちだったが、思わぬ難題が立ちはだかっていた。それは、仕事がないということだった。

 基本的には、マジスタはギルドからミッションを依頼されて、それをこなしていく形を取る。

 しかし、この10日ほど、ランク1のパーティでもこなせる仕事がなかった。

 いや、正確には、多数あったのだが、認定試験後に他の新人たちが全て押さえてしまっていたのだ。パーティーを組むのが遅れたクリスたちは完全に出遅れとなっていた。

 クリスたちが、ライセンスをもらってからすでに2旬。たくさんあった低位向けの仕事も全てなくなってしまっていて、あとは飛び込みの仕事を待つばかりとなった。


 今のところ、ギルド員用の宿舎に部屋を借りているため、格安で泊まれてはいるが、それでも無料ではないし、日々の食糧やポーションなどにも金はかかる。そのため、彼らは、修行と日銭稼ぎをかねて近くの森に魔物退治に行ったり、または、自分で稽古するなりして過ごしていた。

 そのおかげもあって、五人はすでにランク2が見えるところまで来ていた。しかし、毎日自主練習や同じような魔物ばかりを退治していても経験値はそれほど上がらないし、何よりも退屈である。クリスたちは、新しい仕事に飢えていた。


 昼食後、いつもの通り彼らは借りた部屋の居間に戻り、ソファに座ってパーティミーティングを開いていた。毎日、ミッションなどの予定の確認や、新しい魔法の習得などの報告、今後の相談などをするのだ。


「……じゃあ、そういうことで。みんな、他に報告することはないかな?」


 リーダーであるクリスが進行役を務めていた。


「ねえ、今日も近くの森に魔物退治?」


 パルフィがいかにも魔物退治は飽きたという様子で、クリスに尋ねた。


「うーん、だって、今朝もギルドに見に行ったけど、僕たちが引き受けられるミッションはなかったでしょ?」

「そうなんだけどさあ」


 つまらなそうに足をブラブラさせるパルフィ。


「部屋でじっとしてても意味ないし、生活費も稼がなきゃいけないし、がんばって働かないとね」


 パーティーの財布はリーダーであるクリスが管理することになっている。そして、クリスはその財布が日に日に軽くなっていることに気をもんでいた。


「そうですよ。近くの魔物退治も、アルティア市民のためだと思えば、やりがいのある仕事です」


 ルティは、とにかく人のためになればいいというスタンスであるので、近くの魔物退治も苦にならないようだった。


「確かにルティの言う通りなんだが、オレもパルフィの気持ちは分かるぜ。毎日同じことやってちゃ飽きるし、それに、同じような魔物とばかりやっても修行にならねえしな」

「そうだな。そろそろ他の魔物とも戦ったほうが、経験にはなるだろうな」


 グレンとミズキもやはり腕がなるようだった。


「でしょ? もう一週間以上も同じことやってちゃねえ」

「まあ、確かに、パーティー登録したときは、これで冒険と修行の充実した日々が始まると期待したのだがな」


 フッと残念そうに微笑んで、ミズキが言った。


「まさか、仕事がないなんて思わなかったよね」

「それは、そうなんだけどねえ」


 うーん、と一同が悩んだときだった。

 コンコン

 と部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「ん、なんだろう。お客さんかな?」


 クリスが立ち上がり、ドアを開ける。

 すると、宿舎のおかみさんが立っていた。


「こんにちは、クリス」

「あ、ドナさん。こんにちは」


 ドナは恰幅の良い40歳ぐらいの女性で、食事の世話から宿舎の受付までこなし、おまけに人生相談にまで乗ってくれる頼れるおかみさんとして、滞在するマジスタたちにとっては母親役のような存在だった。ギルド宿舎に滞在し始めて10日。すでに、クリスたちはなじみの顔となっていた。


「忙しいとこ、悪いわね。ちょっとギルドから伝言預かったもんだからさ」


 そう言うと、ひょいと首を横に伸ばして、クリスの後ろに見えるパルフィたちにも手を振った。

 パルフィたちもそれぞれに会釈したり手を振り返したりする。


「僕たちにですか?」

「そうなのよ。なんでも、急に頼みたい仕事が入ったらしいからギルドまで来てほしいんだって」

「ほ、ほんとですか?」


 話を聞いていたパルフィたちも後ろで歓声の声を上げる。きゃあというパルフィの声が一番大きい。


「ええ。しかもね、あんたたちのパーティご指名らしいわよ」

「えっ?」

「あんたたち、すごいじゃないの。こないだマジスタになったばかりなのに、ご指名なんてさ」

「へえ、そんなこと頼んでくれるなんて誰だろう」

「まあ、詳しい話は、ギルドに行って聞いておくれよ。じゃね。確かに伝えたよ」

「ありがとうございます」


 礼を言って、クリスが部屋に戻ると、パルフィたちは大騒ぎだった。


「やったわね。ようやく仕事よ。それに何? ご指名? あたしたちってすごすぎる」

「すげえじゃねえか」

「うむ」

「早速行ってみましょう!」


 やはり、ルティも新しい冒険がしたかったのだろう、うれしそうである。


「そうだね。よし、行こう」


 一同はすぐにギルドに向かうことにした。




 喜び勇んでギルドに入ると、カウンターの奥の机で仕事をしていた世話役のローガンが、目ざとく見つけてやってきた。


「おう、おめえさんたち、来たか。待ってたぜ」

「ドナさんに伝言を聞いて、飛んできました」

「しばらく仕事がなくてすまなかったな。まあでも、これでしばらく食いつなげるだろ」

「どんな仕事なんですか」

「うん、えーとな」


 ローガンが帳簿をめくる。


「あ、これだ、これだ。旧文明遺跡の発掘隊の護衛と手伝いだな。最近、調査隊やら発掘隊を狙う野盗が多いし、魔物も出るからな。用心棒ってとこだろう」

「へえ。そりゃいいや。で、どこに行けばいいんだ?」

「えぇと、おっと、ちょっと遠いな。フィンルート村だ」

「それって、もしかして、歩いて半日以上かかりますよね」


 うへえ、と言う声がクリスの後ろから聞こえる。クリスは、おそらくパルフィだろうと当たりをつけた。


「そうだな。ただ、金払いは結構いいぜ。1日10ゴールドだ。それに、野盗を撃退すれば報奨金も出すらしい」

「それは、結構いい話じゃねえか」

「そういえば、僕たちのパーティを指定してきたって聞いたんですけど……」

「ああ、そうなんだよ。こんな駆け出しの頃から指名を受けるなんて珍しいぜ。ただ、オレも理由は知らん。単に、クリスの名前を出して、クリスのパーティに頼むって聞いただけだからな」

「私たちは、思ったより有名なのでしょうか」


 ルティが不思議そうに尋ねる。


「うはあ、それは参ったわね」


 ちっとも参っていない顔でパルフィが微笑んだ。


「依頼者の名前を教えてもらえますか」

「ああ、いいぜ、その人のところに行ってもらうんだから、知っといてもらわないとな。えーと、ウォルター・アークライト氏、考古学者でこの発掘隊の責任者だな」

「え?」


 クリスが驚いた声を出し、そして、がっくりとうなだれた。


「ああ、なんだ。そうだったのか……」

「え、なに、クリス。その人知ってるの?」

「知り合いか?」

「知り合いも何も……」


 苦笑いしながらクリスが答える。


「ウォルター・アークライトは、僕の父親だよ」

「へ?」


 よほど予想外だったのか、グレンが間の抜けた声で聞き返す。


「ウソ。ほんとに?」

「そういえば、クリスの父上は考古学者で、旧文明の遺跡を研究していると言ってたな」


 ミズキが思い出したかのように言った。


「うん」

「なんでえ、それで、依頼してくれたのかよ。どうも話がうますぎると思ったんだよな」

「私たちみたいな駆け出しのパーティを知っている人もあまりいないでしょうし」

「そりゃ、そうだな」


 気がつくと、ローガンも苦笑いしていた。


「まあ、実の父親から依頼が来るってのも珍しいもんだよ」

「そうですねえ」


 クリスも苦笑するしかなかった。


「まあ、でも、そんなことなら、おめえさんたち、引き受けるよな」

「ええ。そうですね。あ、みんないいかい、引き受けても?」


 念のためクリスは後ろを振り返って確認する。


「もちろんよ」

「ああ、渡りに船だ」


 メンバーたちが口々に賛成の意を表すのを見て、クリスはローガンに言った。


「では、お引き受けします」

「そうかい、じゃあ、ここにサインしてくれ。ん、おお、そうか。おめえさんたち、これが最初の公式なミッションなんだな」

「そうですね」

「こないだは、救助要請だされたり、旧文明の遺跡見つけたりで、今回は、親父さんから依頼か。なかなか最初からかっ飛ばしてくれるパーティだな」

「はあ。いや、こんなことで目立ちたくないんですけどね……」


 ため息をつきながら、クリスは署名したのだった。




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