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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第一巻 プロミッシング・ルーキーズ(有望な新人たち)
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第27話 始動

 そして、クリスたちはアルティアに戻ってきたのだった。


「やれやれ、ようやく着いたな」

「まずは、ギルドに行って、パーティの登録しなきゃね」

「そうだな」


 マジスタの功績や報奨などはパーティ単位で与えられる。またミッションの斡旋もパーティのメンバーやこれまでの記録に基づいて行われるのだ。一行は魔幻語ギルドに向かった。


「すみません」

「はいよ」


 カウンターの向こうの机で、何か書き物をしていた世話役のローガンが、顔を上げてクリスたちのほうを見る。


「おお、あんたたちはこないだの新人さんたちじゃねえか」


 そう言いながら立ち上がったが、さらに後ろにいたグレンたちにも気がついたらしい。


「お。それに、残りのみんなも見たことがある顔ばかりだな。なんだ、一緒にやることにしたのかい」

「ええ、そうなんです」

「そりゃ、ちょうどよかったじゃねえか」

「ええ、それで、パーティの登録をしたいのですが……」

「おう、そうかい。じゃあ、これを書いて出してくれ」


 そう言って、机の引き出しから用紙を取り出すと、クリスに渡した。


「ん? もしかして、クリードが言ってた新人さんのパーティってのはおまえさんたちのことじゃねえのか」


 ローガンは、ふと気がついたかのようにクリス一行を見渡して言った。


「え」

「救援要請が出てた新人さんたちだろ。なんでも、新人なのに闇召喚士を追い詰めただの、古代遺跡を見つけて探索しただのっていう話を聞いたんだが……」

「ああ、それ、多分僕たちのことです……」

「おお、やっぱりそうかい。大活躍だったそうじゃねえか」

「いや、それほどでも……」


 本人たちは大失態をしでかしたと思っているだけに、このような賞賛には戸惑うばかりだった。


「なんでそんなこと知ってんだ?」


 クリスの後ろからグレンが尋ねる。


「だって、クリードたちがおめえたちの活躍をほめてたぜ。 有望な新人たちプロミッシング・ルーキーズが出てきたってよ」

「なんだと?」

「まだまだ修行が必要だが、見込みがあるって言ってたな。救援には行ったが、最後に少々手助けしただけで、大半はおめえさんたちがこなしたそうじゃねえか。クリードは新人には結構厳しいヤツなんだが、あいつがそれだけ言うってことは、よっぽどだぜ」

「……」


 クリスたちは互いに顔を見合わせた。公式ではないにせよ、初めてのミッションを自分たちでこなせず、高ランクのクリードたちに助けてもらったあげく、あれだけ言われて落ち込んでいたのだ。それが、しかった本人が、クリスたちを褒めて回っていたとは。

 クリードが、あれだけ怒ったのは、もちろん弟のこともあっただろうが、自分たちのことを心配してくれていたということと、そして、自分たちの腕を買ってくれていたのだ。そして、その上でクリスたちが調子に乗らないように憎まれ役を買ってくれたのは間違いなかった。


「それにこんなことも言っていたぜ。『難しい仕事でも彼らがやるというなら、多少危険なものでもやらせてやってくれ』ってな」


「それって、あたしたちが優秀だってこと?」


 パルフィが横から期待した目で口を挟む。


「いや、それよりもむしろ、引き受けた仕事は必ずこなせるってことだな」

「なんだ、優秀ってことじゃないんだ」

「ん、何言ってんだ。ギルドの立場からすると、依頼した仕事をきちんとこなしてくれるってのが、いちばんありがたいことなんだぜ」

「それはそうだろうな」

「ああ。多少優秀なパーティでも、信頼度が低いとおちおち仕事も頼めねえし、それに、無茶するパーティなんざいくら命があってもたりないからな。だから、好きな仕事をやらせてやれってのは、最高の褒め言葉なんだ。まあ、クリードの報告書をきちんと見てからだが、あいつがそういうんなら、おめえさんたちはそうなんだろうよ」

「……ありがとうございます」

「……」


 クリスたちはクリードのやり方に心を打たれる思いで、言葉を失くす。


「ん、どうした? ま、とりあえず、頑張ってくれよな。あ、そうだ、古代遺跡を発見して探索したのなら、その報告書は出してくれよ。ちゃんと報奨金は出るからな」


 アルトファリアにはこのような旧文明の遺跡が少なからず見つかっている。

 政府は、旧文明の言葉である魔幻語の研究のために、新たな遺跡の発見と調査を重視しており、まだ見つかっていない旧文明の遺跡を発見するものに報奨金を出していた。

 各地を旅することが多いマジスタも、遺跡に関するミッションの依頼を受けることがある。中にはこれを専門にしているマジスタもいるのだ。


「じゃ、書いたらまた持ってきてくれ」


 ローガンはそう言って、また自分の机に戻って仕事をし始めた。

 残された一同は、お互いに顔を見合わせる。


「ち、かっこいいマネしやがって」


 やがて、ニヤリと薄笑いを浮かべてグレンが言った。


「そういえば、エミリアさんが、ルティが参加するのを許してくれた理由がもうひとつあるっていってたよね。それは、クリードから聞いた話だって。結局は、教えてもらえなかったけど。もしかして、これのことだったのかな」

「きっと、クリードが、あたしたちなら大丈夫だって言ってくれたんじゃないの」

「へえ」

「まあ、いいや。とりあえず、登録用紙を書こうか」


 クリスはもらった登録用紙を持って、カウンターから離れて、近くの高机に行き、パーティのメンバーの名前やクラスを書いていく。最後に、リーダー名を書く欄があり、そこで筆が止まった。


「あれ、リーダー名って欄があるよ。リーダーを決めないといけないんだね」

「そうかい。じゃあ、オレ様がリーダーってことでかまわないぜ」


 ほとんど条件反射のようにグレンが反応したが、パルフィが突っ込む。


「あんたがリーダーなんて柄じゃないでしょうよ」

「てやんでえ、オレだっててめえみたいなやつがリーダーだとやってられねえぜ」

「ふんっ、おあいにくさま。あたし別にリーダーなんてやりたくないわよ」

「ケッ」

「フンッ」


 いつものように角の突き合いを始めたパルフィとグレンは放置して、クリスたちは残りの三人で話をすることにした。


「ミズキとルティはどうかな」

「うーむ。私は、ヒノニアから来たばかりで、この国のしきたりや慣習などがわかっていないからな。できれば遠慮したい」

「私も若輩者ですので、皆さんの上に立つなど……」

「そうだねえ、どうしようかな」


 悩んでいると、パルフィとグレンが一戦交えて気が済んだらしく、横から口を挟んでくる。


「じゃあ、もうクリスでいいわよ」

「ああ、いいんじゃねえか、他にいないし」


 それにミズキとルティはうんうんとうなづく。


「ちょ、ちょっと待ってよ、そんな投げやりな理由で僕を選ばないでよ。僕だって、そんな重大な責任引き受けられないよ」


 急に自分に振られて焦るクリス。


「でも、しょうがないわよね」

「しょうがねえよなあ」

「うーん」


 クリスは四人を見比べる。ミズキとルティがリーダーを遠慮したいというのは理解できる。だからといって、グレンやパルフィにリーダーをやらせたときの、パーティの様子を想像すると、恐ろしいものがあった。急に自分に矛先が向いて焦ったが、よくよく考えてみると、自分が引き受けるのがもっともパーティが崩壊せずに済むという気がしてきた。


「……たしかにそれが一番無難な気がする」

「でしょでしょ」


 あたりまえじゃないと言わんばかりに、パルフィが畳み掛ける。


「きっとクリスならうまくやれるわよ」

「で、でも、みんな、ちゃんと言うこと聞いてよ?」


 まじめな顔でうなずくミズキとルティはなんの問題もなさそうだったが、グレンとパルフィについては、一抹どころか相当の不安がクリスの心をよぎった。


「大丈夫だぜ。オレは、リーダーの言うことはちゃんと聞くから」

「あたしも、パーティの和を見出すなんてことはしないわよ。協調性あるんだから」

「きょ、協調性? パルフィからそんな言葉を聞くことができるとは……」

「なによぉ、なんか文句でもあんの?」


 パルフィが両手を腰に当てて、プクっとほほを膨らませて不満を言った。


「……いえ、滅相もないです」

「もう。ほら、さっさとクリスの名前書いて、出しに行こうよ」

「う、うん、もうこうなったらしょうがないか」

「そうそう」

「うむ、頼りにしてるぞ、リーダー」


 と重々しくミズキがいう。


「私もリーダーに一生懸命ついていきますので」


 ルティもけなげなことを言う。


「いや、君たちには何の心配もしてないんだけどね……」

「なんかひっかかる言い方よね。まあ、いいわ、さっさと出しちゃいましょ」

「うん」


 クリスは最後に署名をして、申込用紙を出しに行った。残る四人もそれについていく。


「これ、お願いします」

「お、書けたかい」


 どれどれと言いながら、ローガンがやってきて用紙を受け取る。そして、記入漏れや間違いがないか見直すように申込書に何回か目を通して、最後に大きなハンコを押した。


「よし、これで大丈夫だ。じゃあ、確かに受け付けたから」

「これで、僕らはもう登録されたのですか?」

「そうだよ、仕事が欲しかったらいつでもくるといい」

「ありがとうございます」


 クリスたちは、礼を言ってギルドを出た。

 外に出ると、いつの間にか曇も流れてしまって、晴れ間が広がっていた。


「これで、オレたちゃ一蓮托生ってヤツだな」


 うーん、と背伸びをしながら、グレンが言う。


「一蓮托生って、アンタ、悪巧みするんじゃないんだから、『一心同体』ぐらい言ったらどうなのよ」

「いいじゃねえか、どっちでも、よし、じゃあ、パーティ結成祝いをかねて、昼飯でも食いに行くか?」

「うんっ、クリスのおごりでね」


 いたずらっ子の顔で、パルフィがクリスを見る。


「私も小腹が空いたな」

「私もです」


 ミズキとルティも、愉快そうな顔つきと期待のこもった目でクリスを見た。


「やれやれ、結局そうなるんだよね」


 肩をすくめて、ため息をつくクリス。


「しょうがない。よし、行こうか」

「やった!」

「ようし食うぜ!」


 口々に喜ぶパルフィたち。

 こうして、クリスたちのパーティが正式に始動したのだった。




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