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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第一巻 プロミッシング・ルーキーズ(有望な新人たち)
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第19話 鉄の巨人

「こうなってはやむをえん。こいつを倒すぞ」


 ミズキが剣を抜いた。それを合図に全員が戦闘態勢に入る。

 だが、そのとき、


「おい、見ろ。ヤツの目の色が変わったぞ」


 グレンが剣を構えつつ、巨人を顎で示した。


「どういうことだ……」


 巨人の目は最初は赤色だった。それが今は緑色になっている。

 そして、突然、巨人の目からクリスたちに緑色の光が発せられ、それはパーティ全員を包み込んだ。


「うわっ」

「きゃあ」


 一瞬、何らかの攻撃呪文を食らったのかと思ったがそうではなく、光に包まれただけで何事もなかった。そして、すぐにその光は収束し、細い横線となって全員の頭に投影されていた。


「なんなんだ」


 そして、その細い光の線は、五人の頭部からだんだん下がっていき、つま先まで降りていった。


「くっ」


 クリスたちはそのまぶしい光に目がくらみ、手をかざして光をさえぎる。

 しかし、光がまぶしいこと以外は特に変わったことはなかった。


「なんなのよ、もう」

『ふふふ。巨人はその光であなたたちを分析しているのですよ』

「なんだと?」


 しばらくして、巨人は光を止め、ルティを見た。緑の目が再び赤色に変わる。そして、いきなり動き出し、前衛のミズキとグレンを鉄の固まりのような手で両側に払いのけた。


「うわっ」


 ミズキとグレンが突然のことに、かわしきれずよろける。

 巨人は、グレンたちに目もくれず、一目散に後衛にいたルティに突進した。


「えっ?」


 ルティが不意を突かれて、あわてて逃げようとするが間に合わない。

 巨人が、その巨大な拳を思い切り振りかぶって、ルティを上から殴りつけた。


「うわぁっ」


 激しい金属音とともに、なすすべなく床にたたきつけられる。

 そして、巨人は、足で彼の体を何度も踏みつけたあげく、最後に腹を思い切り蹴飛ばした。ルティは一言も発せず、回転しバウンドしながら床を転がった。そして、うつぶせになったまま身動きしなくなった。


「ルティ!」


 悲痛な叫び声を上げて、パルフィが駆け寄る。


「き、きさま、よくも」


 さらにルティを狙おうとする巨人の前に、三人が立ちはだかった。


「ルティ、大丈夫? しっかりして……」


 パルフィが半泣きになりながらルティを抱え起こす。

 だが、予想に反して、彼は傷一つ負っておらず、なんともないようだった。


「だ、大丈夫です。シールドで衝撃は吸収されますから。転がってちょっと目が回っただけで」

「ル、ルティ……。よかった……」

「おお。さすが神官の防御呪文はすごいね」

「あれを食らって、何事もないとはすさまじいな」


 クリスとミズキが感嘆の声を上げた。


「でも、今の攻撃でシールドが消し飛びましたけど」


 ルティは、パルフィに助けられよろよろと立ち上がると、再び防御呪文を唱えた。


「ちっ、今のは冷や汗かいたぜ。しかし、ヒーラーを最初に狙うとは、やるじゃねえか」

「うむ。こやつ、ただの鉄人形ではないようだな」

「ああ、でかいだけのデクの坊だと思っていると、やられるのはこっちだぜ」


 戦闘において、もっとも重要なことの一つが、「回復させない」ことである。いくら、こちらが戦闘力で勝っていても、ダメージを与えるたびに回復されてはどうしようもない。とくに、一対多の戦闘では、その重要性は増す。その意味で、この鉄の巨人がルティを最初に狙ったのは、戦略的に正しく、それゆえ、ただの人形でないことがうかがい知れた。


「よし、みんな、最大火力でいくよ」

「おう」

「うんっ」


 掛け声と同時に、グレンとミズキが大技を出して切りかかり、それに合わせて後ろからクリスとパルフィが自分たちの持つ最も強い呪文を撃つ。


 しかし、


「だめだ。効いてねえ」


 巨人は、クリスたちの一斉攻撃にビクともしなかった。


「かまわん、もう一度だ」


 ミズキの声に、もう一度一斉攻撃をする。だが、グレンとミズキの剣は、金属を打つ音がするだけで、何のダメージも与えていない。また、パルフィは金縛りの呪文や催眠呪文をかけているが、ほとんど一瞬で効果が切れるようだった。クリスの攻撃呪文も、すこし巨人がひるむ様子を見せるだけで、大きなダメージを与えているようには見えなかった。


「くっ、だめか。いったん態勢を立て直そう」


 息を整えようとしたとき、チャンスだと思ったのか、今度は巨人が突っ込んできた。しかも、またルティを狙っている。


「うわっ」


 ルティが巨人の蹴りをまともに食らって、ゴロゴロと飛ばされる。


「ルティっ!」

「だ、大丈夫です。やはり、私が狙われているようですね」


 ルティは立ち上がり、それでもシールドが消し飛んだらしく、また呪文をかけなおす。


「ああ。だが、心配するな。おめえを守るってエミリアさんと約束したからな」

「でも、私は皆さんの足手まといにはなりたくありません……」

「何言ってやがる。お前はオレたちを回復してくれているだろう。それでおあいこじゃねえか。遠慮するな」

「はい……」


 一方、最前より小部屋から戦闘を見ていたケフェウスはこの様子に大変満足しているようだった。


『ほう、いいぞいいぞ。やはり私の思った通りだ。こいつは剣による攻撃だけでなく、攻撃呪文にも耐性を持つのですよ。この頑丈な身体で、呪文の耐性まで備えていれば敵なしです。私の使い魔の中で一番だ』

「ちっ、調子に乗りやがって……。てめえ、そんなところに隠れてねえで、出てきて勝負しやがれ。この卑怯者が」


 グレンがいまいましそうに吐き捨てる。ケフェウスはあざ笑った。


『ははは。「卑怯」など、弱者の泣き言にしか過ぎませんよ。生きるか死ぬかの勝負に卑怯も愚劣もない。勝てばいいのです』

「見下げた奴だ」

「ケッ。てめえ、筋金入りの悪党だな」

『それは褒め言葉と取っておきますよ。さあ、みなさんの力ではこの程度が限界ですか? もう少し、頑張っていただかないと、参考にならないではありませんか』

「ホント、ムカつくわね」

「構うな。皆、もう一度行くぞ」

「おおっ」


 ミズキの声に、再び陣形を整え、巨人にかかっていく。

 しかし、数度にわたるフル火力での攻撃も、巨人には効く様子はなかった。


(これはまずいことになったのでは……)


 疲労とともにようやくそんな思いがクリスの心を占め始めた。



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