プロローグ
魔幻語―――それは、一万年も昔に栄華を極めたと言われる『旧文明』で使われていた言葉である。現在、大陸で使われている大陸共通語とは全く系統の異なる言語で、発声することにより特別な力を放出する。
古の記録が伝えるところによると、およそ一千年前、地中に埋もれた旧文明古代遺跡が初めて発掘されたとき、出土した棺の中で眠った状態で発見された神の巫女によってこの言葉が伝えられた。この言語がどのように発生したのか、なぜ詠唱するだけで力を放出するのかについてはいっさい分かっていない。しかし、この言語を発見した当時の大陸人たちは研究に研究を重ね、やがて、特殊な呪文の詠唱により、放出される力を制御することが可能であることを発見するに至った。
その後、およそ千年の歳月をかけて呪文大系が整備された結果、現在では、求める形態で魔幻語の力を得ることができるまでになった。そして、呪文と精神的な作用によりこの力を自由に使えるようになったのが、魔道士や幻術士など、いわゆる『魔幻語使い』と呼ばれる者たちである。
当初は、王宮や軍隊でのみ使用されていた魔幻語も、時が経つにつれて、民間にも広く伝わっていった。それと同時に、おもに戦闘での使用に限られていたものが、研究が進み、やがては日常生活への応用がなされるようになった。今では、建築から物資輸送、果ては工芸や調理にいたるまで、さまざまな分野で魔幻語の力が使われている。
そして、時代が進み、魔幻語の使用が発展していくと、軍や王宮などに属さず、自分たちの技や呪文を駆使して、依頼を引き受け遂行するいわば頼まれ屋のような者があらわれた。
その黎明期は野放し状態で、暗殺や強盗などの犯罪や契約上のトラブルが続出したり、能力の低い使用者による呪文の暴発などが問題となったため、やがて国によって制度化され、軍と官職以外で魔幻語を生業とする者は、国による認定試験を受けてライセンスを得なければならないと定められた。そのためこのような者たちは公認魔幻語使いと呼ばれていた。
そしてこれは、そんなマジスタたちの、冒険に満ち溢れた「日常生活」を描いたお話。