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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第一巻 プロミッシング・ルーキーズ(有望な新人たち)
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第16話 防御呪文

「これで全部か」


 最後の一体にとどめを刺して、グレンが周りを見回した。

 

「やれやれ。妙なものと戦ったな」


 ミズキがビュッと刀を振って、鞘にしまう。


「あっけなかったわね」

「しかし、これで終わりじゃないよね。エミリアさんが言ってた魔道士も出てこなかったし」

「ああ。やはりこの先に隠れてるのかも知れねえな」


 そのときだった。


「私の使い魔を倒すとは、なかなかお見事でした」


 神殿の土台の奥のほうから、一人の青年が姿を現した。

 年の頃は二十代前半。魔幻語使いらしく、黒のハーフローブを身に着けている。端正な顔立ちをしているが、目つきは不誠実で狡猾な印象を与えていた。皮肉っぽい薄笑いを浮かべている。


 クリスたちが一斉に身構えた。


「貴様、何者だ」


 ミズキが厳しい声で問い詰める。だが、青年はまったく動じず、むしろ小馬鹿にしたように答えた。


「私はケフェウスと言いましてね。ただの野良の魔幻語使いですよ」

「なんだと?」

「そういうあなた方は何者ですか? ギルドから送り込まれたようでもなさそうですし。かといって、ただの村人ではない」


 クリスたちから少し離れたところで立ち止まり、余裕の表情で尋ねる。


「どうやら、コイツが首領らしいわね」

「村のやつらを石にしたのはてめえだな?」

「ほう。では、あなた方は彼らの仲間というわけですか」

「あたしたちは、あんたが村の人たちに悪さをしないよう、やっつけに来たのよ」

「フン。大方、低ランクのマジスタが村に依頼されてノコノコと足を踏み込んだというところでしょうか」


 ケフェウスは、バカにしたように鼻で笑った。


「『低ランク』はよけいだけど、その通りよ。観念しなさい」

「それでわざわざ殺されに来たというわけですね。愚かな。彼らのように怯えて逃げてしまえばいいものを」


 そう言って、ケフェウスは呪文を唱え始めた。

 何かの攻撃呪文かと、身構えるクリスたち。しかし、攻撃魔法が発動する代わりに、先ほど倒した魔物がまた二体、空間からじわじわと浮き出るように現れた。そして、フワフワと浮いたまま、彼の前に出る。


「どうですか。使い魔は何体でも呼び出せるのですよ」

「コイツ、召喚士よ」


 召喚士とは、その名の通り魔物を召喚することを専門とした魔幻語使いである。精霊や異世界の生物などを呼び出し、己の使い魔として命令を聞かせることができるのだ。


「ち、召喚士とはな。どうやら、あのエセ亡霊を倒すだけじゃ、埒が明かねえってことかよ」

「なるほど、それで先ほどは、いきなり気配もなく現れたと思ったのだな」

「ああ、こいつを倒さねえ限り、何度もあの使い魔とやらを呼び出し、人を襲わせるんだろうよ」

「ふふ。使い魔を呼び出すだけではありませんよ。そら、これはどうです」


 ケフェウスは短く呪文を唱えると、人差し指を前に突き出した。指先から紫色の光がほとばしり、こぶし大の光の玉に収束した後、猛スピードでミズキに向かう。


「くっ」


 ミズキはギリギリのところで刀を構え、光の玉をはじく。はじかれた玉はミズキの斜め前にあった木の幹に当たった。すると、何かが解けるような不快な音を立てて、木の幹が灰色になった。石化したらしい。


「あれは、石化呪文だよ」

「……これが、呪いの正体だったのですね」

「貴様、この術で村人を石にしたな」

「ふふふ、私の邪魔をするからですよ」

「何の目的でこんなことをしやがる?」


 グレンの追及にも、ケフェウスは軽く肩をすくめるだけであった。


「だから言っているでしょう。私の邪魔をするからですよ。私はここでとある研究をしていましてね、野良の召喚士が森に隠れて何やら怪しい研究をしているなどと知れたら、いつ魔幻語ギルドが動き出すか分かりません。それを防ぐために亡霊が出るといううわさを広めて、村人を近づけないようにしていたのですよ。私としては、研究が済むまでは秘密にしておきたいのでね」

「それだけペラペラしゃべっておいて、秘密も何もないわよ」


 パルフィの言葉を聞いて、ケフェウスはあざ笑った。


「察しの悪い方だ。私がここまで話すのは、みなさんがここで死ぬからに決まっているでしょう」

「でも、それだと、他の人に知られるよ。僕たちがここに来ることを知ってる人がいるんだから」

「そうなったら、アンタを倒しにうじゃうじゃやって来るわよ」


 だが、ケフェウスは全く動じなかった。


「そうかもしれませんが、もうすぐ研究も終わるのでね。あと少しの間ぐらいなら、邪魔をする者たちを片っ端から始末しても、ギルドが動き出す前に私はここから去っていますよ。それに、あなた方のような者が来たからには、亡霊など出しても意味がないですし、どの道隠しておけませんからね。始末するのが一番簡単なのです」

「身勝手な野郎だぜ」


 グレンが吐き捨てるように言って、剣を構え直す。


「さっさとこの森から失せやがれ。そうすれば、命だけは助けてやる」


 ケフェウスは鼻で笑った。


「面白いことを仰る。なぜ私が低ランクのマジスタに命を助けてもらわねばならないのです? 命乞いをするのはあなた方ですよ」

「どうやら、死にてえらしいな」

「それは、どうでしょうか。そらっ」


 ケフェウスが人差し指をルティに向け、紫色の玉を放つ。光の玉は狙い違わず一直線にルティに向かっていった。

 しかし、その光は彼に当たるかと思わせた瞬間、弾き飛ばす音とともに消えた。彼を包む大きな光の泡が一瞬現れ、また見えなくなった。


「ルティ!」

「大丈夫です。私はシールドがありますので、何発かは吸収できます」

「おお、すげえな」

「あ、あたしもあるよ、それ」


 パルフィは呪文を唱える。すると、低く唸るような音がして、彼女の体の正面に薄い透明の光の板のようなものが現れて、すぐに消えた。

 だが、見えなくはなったが、効果は持続しているようで、動くたびに体の正面に残像が見える。しかし、あくまで正面だけだ。


「ねえ、もしかして、それが防げるのは前からの攻撃だけ?」

「まあね、幻術士の防御呪文なんてこんなもんよ。ないよりはましって程度だわね」


 自嘲気味の笑みを見せ、パルフィは軽く肩をすくめた。


「ちゃんと前向いてろよ」


 前衛からグレンが声をかける。


「うっさいわね。わかってるわよ」

「ということは、パルフィとルティは大丈夫だね」

「ほう?」


 ケフェウスは後衛のパルフィに向けて、光の玉を撃った。その顔は面白がっているように見える。

 そして玉は、前衛のグレンとミズキの脇を通り抜け、一直線にパルフィに向かった。


「ふふん」


 パルフィは余裕で、待ち受けた。

 激しい音とともに、透明の壁が光の玉を跳ね返す。しかし、ルティのシールドとは違って、パルフィには衝撃が伝わるらしく、「キャッ」と叫んでよろけた。そして、その弾みで、跳ね返した紫色の玉が一直線にルティに向かった。

 突然のことに一同が凍りつく。

 ルティが反射的に手をかざしてよけようとするが、跳ね返した玉はそれより早く彼のシールドに直撃した。


「うわっ」


 シールドが波打ったが、最初の一撃と同じように光の玉は吸収され消えてしまった。

 突然のことに驚いたルティが思わず地面にしゃがみ込む。


「ル、ルティ、ゴメンっ。大丈夫?」


 パルフィが慌てて駆け寄り、抱え起こした。


「だ、大丈夫です」


 やや顔を青ざめさせながら、ルティがよろよろと立ち上がった。


「おいおい、何やってんだよ……」


 いかにもあきれたという表情のグレン。


「はっはっは。これは愉快だ」


 そこに、ケフェウスの嘲笑が響いた。


「そんなありさまで私を倒しに来るとは、面白がるべきか、それとも、馬鹿にするなと憤慨すべきか、悩むところですね」

「う、うるさいわね。ちょっとした手違いじゃないのよ」


 悔しさに顔を赤らめたパルフィが大声で言い返す。


「ハハハ」

「おい、てめえ。残りの四人を甘く見るなよ」

「なによ、あたしもちゃんとやってるじゃないのよ」


 パルフィがグレンの背中に向かって文句を言う。


「ケッ、足引っ張るんじゃねえよ」

「なんですって?」

「こら、お前たち。戦闘に集中しろ」

「あ、ああ」

「そ、そうね」


 ミズキに一喝されて、グレンもパルフィもグダグダ言い合っている場合ではないと、ケフェウスに向き直った。


「よし、気を取り直して行くよ」

「おう」


 クリスの掛け声に、全員が戦闘態勢を整えた。




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