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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第一巻 プロミッシング・ルーキーズ(有望な新人たち)
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第9話 メンバー求む(2)(挿絵あり)

 ギルドは魔幻府から歩いて程近い表通りにあった。

 入り口の横には掲示板があり、そこにパーティメンバー募集の広告がいくつか張り出されていた。しかし、求人があるのは、ランク3から6程度の高位のマジスタばかりだった。


「……だめねぇ。やっぱり、こんな下っ端の駆け出しじゃ仲間にしてくれるところはないわね」

「そうだねえ。ここにあるのはみんな高ランク向けばかりだ」

「他にはもうないのかしら」

「どうかな。念のためにギルドの人に聞いてみようよ」

「そうね」


 中に入ると右手側がカウンターになっていて、そこが窓口になっているらしい。

 人影はまばらで、マジスタらしき何人かが、壁に貼られたミッションの求人広告を見ているだけだった。


「あの、すみません」


 カウンターの奥で書き物していた、ギルドの職員らしい男性に呼びかける。


「なんだい。お、若えの、二人とも見ねえ顔だな、ここは初めてかい?」


 立ち上がって、クリスたちのところにやってきた。


「はい」

「おお、そうか。オレはこのギルドの世話役で、ローガンってんだ。よろしくな」

「あ、僕はクリスで、こちらがパルフィです」


 パルフィがクリスの横で少し会釈する。


「で、今日はなんだい? 仕事でも探しに来たのかい?」


 二人にうなづきかけながら、ローガンが尋ねる。


「いえ、実は、 僕たちのパーティに入ってくれるメンバーを探しているんですけど、掲示板には載っていなくて……」

「ん、二人ともランクは?」

「1です。さっきマジスタの認定試験に通ったばかりなんです」

「あぁ、新人さんかぁ。あ、そうか。今日は、月初の認定試験の日だったな。それで、パーティ探してるのか」

「はい」

「うーん。残念だけど、ランク1は募集も応募もめったにないんだよな。たいていの求人・求職はランク3より上で、あってもせいぜい2だからなぁ」


 ローガンが、顎を撫でながら思案げに話す。


「でも、ランク1のマジスタって僕たちだけじゃないと思うんですけど……」

「そりゃあ、そうさ。なんてったって、このアルティアは魔道大国アルトファリアの首都だからな。おめえさんたちみたいな新入りも、当然、わんさか来るってもんさ」

「じゃあ、なんでそんなに新入り用のパーティが少ないんですか?」

「それはな、たいていの奴らは、寺子屋とか学問所でお師匠さんについて勉強するだろ。そんで、一緒に修行していたヤツとパーティを組んじまうのさ。一緒にやってたヤツと組んだほうがやりやすいからな。それに、一度パーティを組んだら、よっぽどのことがねえ限り欠員なんて出ないだろう? だから、新入りで飛び込みの仲間捜しってのはあんまりないんだよ」

「そうなんですか」


 クリスはパルフィに訊いた。


「ね、君は一緒に修行してた子とかいないの?」

「うーん、あたしは自分ひとりだけだったからなあ。あなたはどうなの?」

「僕もさ。師匠と二人きりだったからね」


 他の方法を探さなければならないのか、とあきらめかけたとき、ローガンが云った。


「いや、ちょっと待てよ。そういや、前回の試験のときにも、同じようなことを聞いてきた新人がいたな。そいつも、自分が入れるパーティを探してるって話だったぜ。修行のために高ランクとやりたいってことだったが、あいにく引き受け先が見つからなかったんだな、たしか。ちょっと待ってな。いまそいつの書類を捜してみるから」


 そう言って、机のわきにあった書類の束をかき分ける。


「あった、あった、こいつだ。えーと、名前はグレン・アンヴィル、魔道剣士だな。で、連絡先はと、ああ、マリスの宿だ。そこに泊まっているらしい。マリスの宿はここを出た通りを王宮に向かって歩いていけば右側に見えるはずだ。そこにしばらく落ち着いて、小遣い稼ぎしながら仲間を捜すって言ってたな。来たのが前回の試験のときだったから……、ああ、もう一ヶ月ほど前になるのか。そうすると、もういないかもしれないけどな」

「わかりました、とにかく行ってみます。ありがとうございます」


 礼を言ってギルドを出たクリスたちは、早速マリスの宿に向かった。

 すでに日は高く登っており、通りは多くの人で賑わっていた。


「一ヶ月前かぁ。もうとっくにパーティが見つかってるか、それともあきらめてるかもしれないわね」

「そうだねえ。でも、一応行くだけは行ってみないとね」

「その人、どんな人なのかしら」

「修行のために高位のパーティに入りたいっていうぐらいだから、まじめでやる気がある人なんじゃないのかな」

「そうね」

「まあ、さっきの話だと他にランク1の募集はなさそうだったし、もう選り好みしている余裕がないから、どちらにしても、よほどの人でなければ一緒にパーティ組むしかないんじゃないかな」


 先ほどまでクリスは、パルフィと組むことに大きな不安を感じていたが、ここにきて、もう選んでいられないという気持ちに傾いていた。

 せっかくマジスタのライセンスをもらったのに、パーティが組めずに来月の認定試験まで待つのは避けたかったのだ。生活費も稼がなければらならないし、それに、今月見つからなかったものが、来月見つかるとも限らない。


「まあ、でも魔道剣士でちょうどよかったよ。これで、いい人だったらいうことないよね」

「そうね。まあ、私はどんな人とでもやっていけるけど」


(ホントかなあ)


 と疑わしそうな目で見ているクリスに気が付くと、


「な、なによぉ」


 と、パルフィは不満そうに頬を膨らますのであった。




 そうこうしているうちに、二人はマリスの宿に着いた。宿屋のおかみさんに尋ねると、この「グレン・アンヴィル」はまだ泊まっているらしく、事情を話して呼び出してもらった。

 しばらくして、二階からドスドスと大きな音を立てて、おなかをボリボリ掻きながら、大柄でがっしりとした体つきの男が降りてきた。クリスと同じぐらいの年齢に見えるが、身長はクリスよりもやや高い。どうやらお昼になろうという今になるまで寝ていたらしい。髪もボサボサだ。パルフィがその様子を見て「何、この人」と言わんばかりに眉をひそめる。


「ふぁーあ、オレに用ってのはおめえさんたちかい?」


 まだ眠たそうに大きなあくびをしながらクリスたちに話しかける。


「ええ。あなたがグレン・アンヴィルさん?」

「ああ、そうだが、何の用だ」

「実は、僕たちは一緒にパーティを組んでくれる仲間を捜しているんだけど、ギルドで君のことを聞いて来たんだ。僕の名前は、クリス。そして、こちらがパルフィだよ」

「へえ、そうかい。で?」


 そう言ってこの男、グレンは、クリスとパルフィを上から下までジロジロ見ながら、先を促した。

 その無遠慮な様子にパルフィの顔がさらに険しくなる。


「よかったら、僕たちの仲間になってもらえないかと思って」

「なんだって?」

「いや、だから、一緒にパーティ組んでもらおうと思って。君も、入るとこ探してるんだろう?」

「ちょっと待てよ。最初に確認しておくが、てめえらランクは何だ?」

「二人とも君と一緒だよ」

「ランク1だと? あ、分かった。きっと、おめえたちは単なるお師匠さんの使いで、ホントは高ランクのパーティがオレ様の力が借りたいってことなんだろ?」

「ちがうよ。僕たち二人と組んでほしいんだよ」

「てことは、オレがお前たちのパーティに?」

「うん」

「このオレ様が、新入り二人ぽっきりのパーティにだと?」

「……何か問題でも?」


 クリスの問いに、グレンが呆れたように答えた。


「おいおい、身の程知らずもいい加減にしてくれよ。いいか、たしかにオレは仲間を捜しちゃいるが、オレが入りたいのは上級……とまでは言わねえが、中級のパーティなんだ。それなりに高くないとな。そうだな、大負けに負けてランク3までだ。それ以下だとオレの力を使いこなせねえ。仲間を捜してるならよそを当たってくんな。てめえらみたいなおぼっちゃんとお子さまと組むなんて、話にならんぜ」


 すかさず、それまで黙って聞いていたパルフィがもう我慢できないとばかりに割り込んでくる。


「ちょっと、待ちなさいよ、 だまって聞いてりゃ言ってくれるじゃないの。誰がお子さまよ、誰が」

「あ? てめえにきまってんだろうよ。言っちゃ悪いが、オレ様の剣はな、てめえらみたいなヤツのお守りのためにあるんじゃねえよ。どうせパーティ組んだって、こんなお荷物抱えてちゃ、オレまでくたばっちまうだけだろうが」


 この言い草に、パルフィが顔を真赤にして怒り出した。


「な、なんですってぇ。言うに事欠いてお荷物とはなによっ。たいした腕前もないくせに態度と図体だけはでかいわね。こちらこそアンタみたいなでくの坊に守ってもらうなんて、まっぴらごめんだわ」

「けっ、利いた風な口をきくんじゃねえよ。オレの腕前はそんじょそこらのもんじゃないぜ、いずれはこの国のお偉い様になろうってぐらいだからな」

「……でくの坊のくせに」

「なんだとぉ、てめえ」


 気色ばむグレンを見向きもせずパルフィはクリスに云った。


「クリス、こんなヤツほっといて行きましょ。あたしも多少のことは我慢するつもりだったけど、こんなのと組むぐらいなら二人でやった方がいいわ」

「ハッ、そうかい。ならさっさと失せな、このチビ。てめえみてえなガキんちょなんぞと一緒に組まずに済んで、こちとらせいせいすらあ」

「チ、チビですってぇ、よくもそこまで侮辱してくれたわね。もう我慢できないっ」


 パルフィはワナワナと肩を震わせるの同時に、少しうつむき加減で、何かをつぶやき始めた。すぐに、パルフィの右手が赤く発光し出す。攻撃呪文を使う気である。


(ま、まずい)


 クリスは、あわててパルフィの手を押さえつけ、集中をそらして発光を止める。


「ちょ、ちょっとパルフィ、ダメだよ、こんなところで呪文なんて使ったら、資格停止になるどころか、牢屋に入れられちゃうよ」


 アルティア市内での対人魔法の使用は、緊急時を除いて厳しく禁止されている。こんなささいな言い争いで攻撃呪文を使ったことがばれたら、間違いなく魔幻府の査問にかけられ、よくて資格停止処分、へたをすれば免許没収のうえ投獄である。

 先ほどの認定試験で、市内での攻撃呪文の使用についての問題をパルフィが散々悩んでいたのを思い出し、クリスは頭がクラクラする思いだった。


「離してよ、クリス。あたしをバカにするとどうなるのか思い知らせてやるんだから」


 クリスから手をもぎはなそうと、じたばたもがきながら、パルフィが叫ぶ。


「ケッ、てめえのヘロヘロ呪文じゃ、虫でも落すのが精一杯だろうよ」


 それへグレンが火に油を注ぐようなことを言った。ニヤニヤしているところを見ると、怒らせて楽しんでいるらしい。


「も、もう許せない……」


 そして、クリスに捕まれているのも構わずに、呪文を唱え、またパルフィの手がさらに激しく光りだす。それを見てグレンは右手を腰の後ろに回し、何かをつかんだようだった。剣は腰に下げていなかったが、おそらくなにか隠し武器がベルトの後ろに仕込んであるのだろう。


「ちょっと、二人ともちょっと落ち着いて」


 クリスはパルフィを後に押しやりながら、険悪な雰囲気の二人の間に割って入った。


「こんなところで戦ったら、すぐにつかまっちゃうよ」


 まだスキあらば呪文を唱えそうなパルフィを背中で自分の後ろに押しとどめつつ、グレンに話しかける。


「ね、ねえ、アンヴィルさん」

「グレンでいい」

「ね、グレン、君もパーティを探しているというのは本当なんだろ?」

「ああ」

「でも、君もギルドに行って聞いたはずだ。僕たちみたいな新入りの入れるようなパーティはないって。そして、実際に一月経つけど、まだ見つからないんだよね? じゃあ、もう僕たちと組むしかないんじゃないの?」

「む」

「確かに君は強いかもしれないけど、駆け出しの魔道剣士を入れてもいいって思う高位のパーティが本当にあるかってことだよね」

「む……」

「それとも、誰か他の同じランクの人が来るのを待つ? でもきっと僕たちと大差はないと思うよ。もしかしたら、もう当分現れないかもしれないし」

「……」

「それに、一人で待つ間、生活するのもたいへんだよね。ランク1のマジスタ一人に仕事を頼もうって人もいないだろうし。先月から一人でやってて大変だったんじゃない?」

「うーむ」


 返答に窮しているグレンを見て、パルフィは満足そうにフンと鼻を鳴らした。すこし気が晴れたらしい。


「ねっ、だから、ここは落ち着いて考えてみようよ」

「むぅ、そうだな。確かに、よく考えて見りゃ、いくら最強とはいえランク1だとてめえらみたいなヤツらが関の山か。ちょっと自分に合わせて上を見すぎたか」

「……いちいちシャクにさわる言い方よね」

「シッ、いいから、パルフィはちょっと黙ってて」

「ムッ、その言い方もハラ立つ」


 不満たらたらのパルフィを押さえながら、クリスはグレンに向かって問いかける。


「どうかな、一緒にパーティ組んでくれないかな」


 しばらく考えていたグレンだったが、クリスの言っていることが正論だと思い直したらしい。


「……そこまで言うなら、しょうがねえ。世話になることにしよう」

「おお、そうか。そうしてくれると助かるよ」

「いや違うな、お前たちが野垂れ死にしないように、オレ様が守ってやろう」

「はは……」

「キーッ、まだアンタはそんなことを……」


 爆発しそうになるパルフィを押さえて、クリスは言った。


「うんうん、ぜひお願いしますよ。僕たちも剣士が入ってくれて大助かりだ。これで、みんな万々歳じゃないか。じゃあ、ちょうどお昼時だし、親睦会を兼ねてその辺の食堂で昼ご飯でも食べようよ。僕がおごるからさ。ねっ?」


 それから、見るからに不機嫌なパルフィをなだめすかしつつ宿を出て、近くにある食堂「王と女王亭」に入り、みなで食事をした。席に座ったときにはまだパルフィとグレンの間には険悪な雰囲気が流れていたが、クリスのおごりでさんざん飲み食いしたら、二人とも機嫌がよくなったのだった。


「ふーっ、食った食った。ごちそうさん」

「おいしかったわ。ごちそうさま、クリス」


 テーブルの上には空っぽになった皿が、文字通り山となって積まれていた。


「……いやあ、二人とも機嫌がよくなってよかったよ」


 ははは、と力なく笑うクリス。大柄なグレンはともかく、パルフィの食べっぷりはいったい何なのだろうか。 小柄で華奢な感じなのに、いったいこの大量の料理がこの体のどこに消えたのかきわめて謎だとクリスは思った。


(幻術士だけに、胃袋が亜空間につながってるとか……。いや、そんなわけ……いやどうだろう……?)


 二人が三回目のお代わりをするあたりで、この二人にごちそうすると言ったのはまずかったのではないかと気がついたが、もう後の祭りだった。


(おかげで生活費が半分消えたよ……)


「ところでさ、これで魔道剣士が一人と、魔道士一人、そして幻術士が一人になったわけだけど、あと二人くらいは必要よねえ」


 クリスの気も知らず、パルフィはのんきに話しかける。


「そうだな、基本的には前衛に剣士が二人と後衛に攻撃系と攻撃補助系のキャスター二人と、でもって回復系のヒーラー一人ってのが理想だろうな」


 満足そうに大きく膨れた腹をさすって、楊枝で歯をせせりながらグレンが言った。


「そんなに簡単に見つかるかしら。おげれつな魔道剣士一匹探すだけでも、こんなに疲れるんだから」

「んだと、てめえ。もいっかい言ってみやがれ」

「パルフィ、もうやめなよ、そんなこというのは」

「だあってぇ」

「だってじゃないよ。僕たちはもう同じパーティのメンバーなんだから」

「……はぁい」

「ケケッ、わかりゃいいんだよ。で、どうする?」

「ムカッ」

「きっと、ギルドに戻ってみても見つからないだろうなあ」

「そうだな……」


 三人であれやこれや考えていると、急にテーブルの横から話しかけられた。


「ちょっと失礼する」


 声の方を見上げてみると、一人の若い女性がテーブルのそばに立っていた。見たところ東方のものと思われる、あまり見慣れない異国の服を着ている。おそらくクリスたちと同年代だろう。割と背が高くて、すらっとしている。長い黒髪を後で束ねており、全体的に清楚で線の細い感じだが、整った顔立ちに、意志の強そうな黒色の瞳が印象的だ。そして、ソウルクリスタルを腰のところに短く結んで下げているのが見えた。おそらく正規のマジスタなのだろうが、その形は見慣れないものだった。腰にはこれまたクリスが見たことのない細身の剣を下げている。


(何のクラスだ? あ、そういえば……)


 先ほど考査棟のロビーで、仲間を探しているという異国の女性剣士の話を思い出した。


「おぬしたちは剣士を捜しているのか。いや、盗み聞きするつもりはなかったのだが、そこの席で茶を飲んでいたら、おぬしたちの声が聞こえてきてな。悪いと思ったが、聞かせてもらった。今、剣士を捜しているというのは本当か」

「うん、そうだけど」

「そうか。実は、私も修行中の身で、二月ほど前に認定試験に合格したばかりでな。しばらく一人で修行の旅をしていたのだが、そろそろ仲間と切磋琢磨しながら修行したほうがよいだろうと思って、今日の試験に合わせて戻ってきたのだ。だが、なかなか相手が見つからずどうしたものかと途方に暮れていたところでな。どうだろう、私を仲間に入れてもらえないだろうか。私はまだ見習いを終えたばかりの未熟者だが、一通りは剣を使う。きっと役に立てると思う」

「それホント? それなら大歓迎だよ。ねえ、みんな」


 やはり、彼女がその剣士だったのだ。


「うんっ。ちょうどどうやって探すか悩んでたところだったのよ」

「その格好、あんたこの辺のモンじゃねえな」


 グレンはじろじろと無遠慮にその女性を見ながら言った。しかし、その女性はなんら動じることもなく、かすかに穏やかな微笑みを浮かべながら答えた。


「ああ、私はヒノニア国から来た」

「ほう」

「ヒノニアって、東にある島国だっけ。ここからものすごく遠いんだよね」

「うむ」

「へえっ、私、ヒノニアの人って初めて見た」


 パルフィが目をきらきらさせながら物珍しそうに見る。


「あ、立って話してもらうのも何だから座ってよ、ええっと……」

「これは名前も言わず失礼した。私の名はミズキ・ハルガセだ。ミズキと呼んでくれ」


 そう挨拶すると、ミズキは腰から剣を鞘ごと抜いて、クリスが示した席に座った。その身のこなしも凛としていて鮮やかだ。その様子をグレンはじっと見つめる。だが、もうその目からはさきほど見られた不審とあざけりの色は消えていた。


「僕は、クリスだよ。よろしく。そして、こちらが……」

「パルフィよ、よろしくね」

「オレは、グレンだ」

「なにとぞ、よしなに頼む」


 そう言って、ミズキは頭を下げた




挿絵(By みてみん)




「ねえねえ、ミズキってクラス何? さっきの話しぶりだと剣士ってことよね? でも魔道剣士には見えないんだけど」


 ミズキが答えようとする前に、グレンが答えた。


「サムライナイトだな」

「ほう、よく分かったな。その通りだ」


 ミズキが驚いた顔でグレンを見る。

 サムライナイトは、東方の国ヒノニアに固有の職業であるため、これほど離れたアルトファリアで見かけることは極めて稀であったのだ。


「へえっ、あんた、よくわかったわね。私はミズキのクリスタル見てもわかんなかったわよ。っていうか、サムライナイトに会ったことなかったし」

「いや、オレもサムライナイトのクリスタルは初めて見た。ただ、この細身の剣、いや、カタナというんだったか、これはサムライナイトに特有のものだしな」

「ふうん、そうなの?」

「ああ。それに、サムライナイトは、他の格闘職に比べて力技と魔力が弱えが、それを補って余りあるほどの剣技の冴えが特徴と言われてる。確かに、この身のこなしはただの魔道剣士じゃねえな」

「そこまでほめてもらえるほどの腕ではないと思うが……」

「グレン、あんたミズキがそんなに強いって見ただけで分かるの?」

「ああ、オレは剣の達人だからな。達人は達人を知るってやつだ」


 グレンの自慢に、パルフィが鼻を鳴らした。


「ハン、自分で言ってりゃ世話ないわ。でも、ミズキが達人ってのはうれしいわね」

「それでは、私を仲間に入れてくれるのか?」

「そりゃ、もちろんよ。ちょうど剣士を捜してたんだし、あなたみたいなまともな人なら大歓迎よ。ねえ、クリス」


 パルフィが皮肉っぽい目でちらっとグレンを見ながら言う。


「うんうん、そうだよ」

「オレも歓迎だ。子供のお守りは一人より二人いた方がいい」

「ふんっだ」


 さりげなく皮肉をやり返すグレン。この二人はよほど相性が悪いのか、隙あらば角をつつき合っているようである。


「そうか、それではありがたく世話になる。仲間に入れてもらえたからには、皆のために全力を尽くす所存だ」


 そう言って、ミズキはまた深々と頭を下げた。


「まあ、そう堅いこと言わないでよ」

「ほんとほんと」

「いや、どうも性分でな。すまん」


 仲間が見つかったことにいくぶんほっとしたように、そして照れたように微笑んで、ミズキは答えた。その微笑みは、先ほどの真剣なまなざしからは想像できないくらい、やわらかくて優しいものだった。


「よし、これで四人になったね」

「うん」

「まだ回復役は見つからないけど、とにかくこの四人で動いてみようか?」

「ああ、だがその前に……」


 ニヤニヤしながらグレンが言う。


「その前に?」

「ミズキ、昼飯は食ったのか?」

「いや、まだだが」

「よし、それなら、ミズキの歓迎会だ。さらに食うぞ。もちろん、クリスのおごりでな!」

「いやーん、それ最高!」


 すかさずパルフィが合いの手を入れる。どうやらこの二人は、食べ物が関わると強力なパートナーになるらしい。


「ちょ、ちょっと。今たくさん食べたばっかりじゃないか」


 これ以上食べられてはたまったものではないと、あわててクリスが止めに入る。

 しかし、グレンとパルフィはまったく意に介す素振りも見せなかった。


「何言ってんだ。さっきのはオードブル。こっからがメインコースじゃねえか。さあ、ミズキ、おめえの歓迎会だ、何を頼んでもかまわねえぜ。好きなもん食いな。おめえもどんどん頼め、パルフィ」

「うんっ、ありがと。グレン」

「ちょ、ちょっと……」


 さっきまでのいがみ合いはどうした、と突っ込むひまもなく、二人はそばを通りかかった店員を呼び止め、猛烈な勢いで次々と追加の注文を頼んでいく。それを呆然と見つめるクリス。


「い、いいのかクリス?」


 その様子を見ながら、ミズキが心配顔で聞いてくる。だが、クリスはもうあきらめがついていた。


「もう、乗りかかった船だ。どんどん行ってくれ……」

「そ、そうか。すまんな」


 こうして、四人までが集まったのだった。


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