―1話:観覧車の告白<晃>
はめられたっ!! と思ったが、時既に遅し。
俺は、部活の先輩と観覧車に乗ることになってしまった。
自惚れてるつもりはない。
でも、今日一日の周りの雰囲気や先輩の態度から、告白されるんだろうと思った。
案の定、観覧車に乗った先輩は黙ったまま口をきかない。俺から話しかける話題もない。気まずい空気が、狭い観覧車内にながれる。
窓に視線をやると友人達が見えた。俺に気づいて手を振ってくる。
人の気も知らないで、のんきなものだ。
きっと良いことをしたぐらいに思っているんだろう。勘弁してほしい。
俺はだんだん小さくなっていく人影を睨んだ。
観覧車内は相変わらず沈黙を保っている。
観覧車が頂点に達した時に、ようやく先輩が口を開いた。
「好き」
俺は先輩の顔を見た。真剣な瞳が、胸に痛い。
何も答えない俺に、先輩が繰り返した。
「ずっと、ずっと好きだったの。つき合ってください」
先輩の顔が見れなくなって、俺はうつむいた。
「ごめん、先輩。俺、好きな人がいる」
先輩のことは、嫌いじゃない。
むしろ好きだ。一緒にいると楽しいし、助けられたこともある。
だから余計に、先輩を傷つけるのが辛かった。
はりつめていた緊張がふっと狭い空間から抜けていった。
代わりに心を締め付けるような思いに駈られたが、必死に耐えた。
観覧車が地上に近づいてきたらしい。人のざわめきが耳に入ってくる。
でも不思議なくらい、俺と先輩の間は静寂に満ちていた。
ガコンッ、と観覧車が大きく揺れる。
ドアが開けられ、俺達は喧騒の中へと戻った。
人ごみの中での先輩は、やけに小さく見える。
俺は小さい背中に呟いた。
「先輩、ごめんな。ありがとう」
聞こえたのかもしれない。先輩の肩が小さく震えた。