38話:アリシアの笑顔が見たいんだ
―― コンコンッ……
「はい?」
『……えっ? あ……セ、セツナ様……意識が戻ったのですか……!』
「その声はアリシアさんですか? はい、さっき意識が戻りました。部屋のカギは開いてるので入ってくれて大丈夫ですよ」
『わ、わかりました……そ、それでは……』
―― ガチャッ
「し、失礼します……! あ、あぁ、良かった……セツナ様の意識が戻って……! ほ、本当に……本当に良かったです……!」
アリシアは俺の部屋に入るとすぐに涙ぐみながらそう言ってきた。どうやら俺が意識を失ってしまったせいでアリシアにはかなり心配をかけてしまったようだ。
「はい、無事に意識を取り戻しましたよ。アリシアさんのその様子からして結構心配をかけちゃったみたいですね? あはは、もしそうだったらすいません」
「い、いえ、セツナ様が謝る必要なんてないです! 元はと言えば私のせいですから……だから本当に……本当に申し訳ありませんでした……私のせいでセツナ様を危険に晒してしまって……」
「全然大丈夫ですよ。生きてさえいれば何も問題ないですしね。だけどそういえばアリシアさんはどうしてあの裏路地に入ったんですか? そもそも何で一人で街中を歩いていたんですか?」
「それはその……実は……ぐすっ……」
アリシアは涙ぐみながら何故一人で王都の街中にいたのかを俺に語ってくれた。
アリシアは俺のために何かプレゼントを買いたいと思ったんだけど、でもギルバートがいないから外出許可が下りなくて、外に出る事が出来なかったんだ。
それでも買い物がしたかったアリシアは、皆に黙って一人でコッソリと屋敷から飛び出して街中に出かけていったという話らしい。
「……なるほど。それで屋敷の皆には内緒で街中に出掛けていたんですね」
「ぐすっ……はい、そうなんです……私が身勝手に一人で出掛けてしまったから……そのせいでセツナ様を危ない目に遭わせてしまったんです……だから本当に……本当に申し訳ありませんでした……ぐすっ……」
「はは、そんなの気にしないでください。そもそも俺は冒険者の端くれですからね。だから危ない目に遭った事なんて今までにも何回もありましたし、こういう事には慣れっこなんで大丈夫ですよ」
「ぐすっ……でも……私のせいで……私のせいでセツナ様を……こんなにも傷つけてしまったなんて……こんな私のせいで……ぐすっ……うぅ……」
俺は気にしなくて良いと言ったんだけど、でもアリシアは俺に申し訳ないと言いながら辛そうに涙を流し続けていった。
俺はそんなアリシアの姿を見て……。
「アリシアさん。ちょっと俺の方に顔を向けてくれますか?」
「ぐすっ……え? は、はい……こうでしょうか……?」
「はい、ありがとうございます。それじゃあ……とりゃ!」
「え……ふ、ふぇっ?」
―― ムニュッ……!
俺はアリシアの頬を両手でムニュっと押し上げていった。アリシアの口角を無理やり上げていって……無理やり笑っているような感じにしていった。
「ふ、ふぇっ……な、なにをしゅるんですか……?」
「はは。アリシアさんには辛そうな顔とか悲しい顔なんて似合わないですよ? だからいつも通り楽しそうに笑っていてくださいよ」
「ふ、ふぇっ……い、いや、そう言われても……私のせいでセツナ様を傷つけてしまったのに……それなのにいつも通りに笑うなんて出来ませんよ……セツナ様にこんなにも迷惑をかけてしまったのに笑うなんて……そんなのセツナ様に無礼が過ぎますもの……」
「無礼だなんてありえないですよ。むしろ逆です。アリシアさんには笑っていて貰いたいんです。だってアリシアさんの笑ってる顔を見てると、俺はいつもポカポカと温かくなって嬉しい気持ちになるんですからね」
「……え? 嬉しい気持ち……ですか?」
「はい、そうです。アリシアさんはいつどんな時でも明るい笑顔を見せてくれますよね。本当ならアリシアさんは病気で苦しかったり、リハビリが大変だったはずなのに……それでもアリシアさんは毎日楽しそうに笑顔で居てくれましたよね?」
「そ、それは……そうですね。いつも笑っていたかもしれませんね……」
「でしょう? そんな素敵な笑顔のアリシアさんを毎日見ていたら、俺はいつの間にか笑顔のアリシアさんを見て嬉しい気持ちになるようになっていたんです。そしてそれはきっと俺だけじゃないです。お父さんのギルバート様や妹のエステルさん、お姉さん分のルファスさん、それに従者の皆さんもきっと同じだと思います。俺達は皆……アリシアさんの笑顔が大好きなんですよ。だから俺はアリシアさんの笑顔が見たいんです」
「セ、セツナ様……」
俺は本心から思った事をアリシアに伝えていった。俺は……いや、俺達は皆アリシアの笑顔が好きだという事をしっかりと伝えていった。




