第二章・第二幕:二つ目の日常
「じゃあなフィル。また来るわ」
「じゃあねカルディア。おやすみ〜」
「おう、おやすみ〜。ナディエに手出すなよ?」
「しないよ⁉︎」
「あはは、冗談だよ。じゃ」
玄関の扉が閉まる。
外はすっかり暗くなって、だんだんと光るものが増えていった。
「さて・・・僕もお風呂に入りますかな」
僕はガラス越しに空を眺める。
「これが・・・」
「ナディエ?どうしたの?」
フィルは僕の横に立つ。
「星が見たいの?」
「・・・うん」
「そっか、じゃあ・・・」
彼はガラス戸を開ける。冷たい風が頬を撫でる。
「これが・・・、星・・・」
姉さんが言っていた、星。
「そっか、地下にいた頃はどう頑張っても見れないものだったのか。僕らは日常でそんなに気にしたことないけどね・・・」
「綺麗・・・」
初めて見る星は・・・とても綺麗だった。それも、息を呑むほど。
感動と共にどこか懐かしさを感じた。
「僕はあんまり星座に興味はないからなにも教えてあげられないけど・・・一緒に勉強しようか、星のこと」
「・・・うん」
僕は口をあんぐり開けたまま答えた。
「じゃあ僕はお風呂に入ってくるから。戻る時は扉閉めてね」
そう言ってフィルはベランダから出ていった。
『星に選ばれた』姉さんが最後に残した言葉。
でも・・・あんな遠くのものにどうやって選ばれたというのだろうか。
「ふう・・・、スッキリした・・・って」
窓の外にはまだ星を見ているナディエがいた。
「そろそろ入りな〜?風邪ひくぞ〜」
呼びかけても、反応は無し。
僕はタンスからカルディアからもらったマントを取り出した。
「ほーら、風邪ひくよ?せめてこれを羽織ってね」
僕はナディエにマントをかける。
「そんなに星が好きなら、ここでご飯食べる?」
幸い机と椅子があるし、最近掃除したばかりだ。
「うん・・・」
「わかった、用意するからちょっと待っててね」
僕はキッチンへ向かい、少し大きめの鍋を用意する。
高校生で一人暮らししているせいか、料理はそれなりに上達した。
「でも、今日はもう遅いし簡単にでいいかな・・・」
白菜、ニンジン、玉ねぎ、 きのこ、ソーセージ、全部テキトーな大きさに切って鍋に入れる。
「仕上げに・・・」
なんかコンソメになるブロック的なやつ。
「これを発明した人は天才だと思う」
それを入れて少し煮るといい匂いがしてきた。
「よし、いいかな」
チラッと窓の外を覗く。
ナディエはまだ空を見上げていた。
僕はお椀を二つ出し、それぞれ盛り付けた。
「ナディエ〜、できたよ〜」
そう言ってベランダへ出る。
「うん・・・ありがとう」
「いいのいいの、さ、食べて?」
彼女はスープをコクッと一口飲む。
瞬間、安堵したような表情を浮かべる。
「おいしい・・・」
「そっか、よかった」
僕も一口飲む。
食べ慣れた味。だがそれは、ナディエにとっては幸福なのだろう。
それから、僕らは星を見ながらスープを飲んだ。
「ナディエ〜、こっちだよ」
僕は眠そうな彼女をベッドへ案内する。
放っておいたら床で寝そうだったからだ。
「うーん・・・」
「ほら、布団をかけて」
冬用のあったかい布団を彼女にかける。
「じゃ、おやすみ」
「フィルは・・・寝ないの?」
「僕はまだやることがあるから。先に寝てて」
そう言って寝室の扉を閉めた。
今日の布団はどうしようかと考えながらパソコンを起動する。
「オブスクラシティ・・・」
もう高校生で、地域学習もかなりの数こなした。
だから僕はこの街・・・ルミナシティについて十分知っていると思っていた。
けど・・・彼女はここの地下から来たと言っていた。
「まだ、知らないこともたくさんあるんだな」
僕は『オブスクラシティ』を検索にかける。
だが・・・なに一つそれらしい情報はなかった。
「・・・隠されてる?」
そう思い、今度は『ルミナシティ 地下 都市』と検索をかけた。
「都市伝説・・・?」
ネット掲示板に書き込まれたそれは、ナディエが言っていた内容に似ていた。
政府が『人のゴミ捨て場』として使っている都市・・・倫理観に欠けたものだ。
もし、これが本当だとしたら・・・。
僕はさらに調べた。
だが、出てくるものは都市伝説、噂、フィクションばかり。
「・・・一体ナディエはどこから来たんだ?」




