第二章・第一幕:出会い
「ご、ごめんなさい!」
「こちらこそごめん。あの・・・大丈夫?」
目の前には僕より少し背の高い男の子がいた。
「え?」
「その服・・・ボロボロじゃないか。君は一体どこから・・・」
「えっと・・・あ、あの・・・、その・・・」
「これも何かの縁だよ。このままだと君警察に通報されてもおかしくはないし・・・。うちにおいで?もちろん、君が嫌じゃなければだけど」
「いいの?」
「もちろん。君は僕より小さいし、放って置けないからね。こっちだよ」
その人は僕の手を引き、とある場所へ向かった。
いくつもの階段を登り、廊下のような場所に着く。
「ここが僕の部屋。結構散らかってるけど、気にしないで」
そう言って彼は扉を開ける。
「わぁ・・・」
中はとても清潔で、僕が想像してたものとは全然違った。
周りを見渡せば緑、緑、緑。
植物でいっぱいだった。
「とりあえず、シャワー浴びようか。ところで君の名前は?」
「・・・ナディエ」
「ナディエ・・・いい名前だね。僕はフィリア・オスレイ。フィルって呼んでね」
「フィル〜、いったいなにをそんなに一人でしゃべって・・・うわっ!」
部屋の奥から一人の女の子が出てきた。
金色の髪に、少し焼けた肌・・・どことなく姉さんを連想する。
「フィル⁉︎どこで拾ってきたのさ」
「えっと・・・なんか困ってたからとりあえず」
「ほんとお人好しだな、フィルは。で、あんたはなんていう名前なんだ?」
「・・・ナディエです」
「そう、あーしはカルディア。よろしくね」
「それでカルディア、お願いなんだが・・・」
「ん?なにさ」
「この子にシャワーを浴びさせてくれないか?」
「はぁ⁉︎なんであーしが・・・」
「髪が長くてわかんなかったけど顔つきが女の子っぽいからさ。見た目で判断するのはよくないんだろうけどこれでナディエが女の子だったら僕が犯罪者になりかねないから・・・お願い」
フィルは手を合わせてカルディアにお願いしている。
シャワーってなんだ?そんな重要なことなんだろうか。
「はぁ・・・わかった。入れればいいんだろ?」
「ありがとうカルディア」
「別に、あんたの頼みだしね。後でクッキー焼いてもらうからね」
彼女は僕を抱き抱えるとどこかへ連れて行った。
「ほら、全部脱いで」
「えぇっと・・・?」
「いやなのか?あーしも脱いでやるから。これで恥ずかしくないだろ?」
カルディアは着ていた上着を脱ぎ捨てる。
「別に脱がなくてもいいんじゃ・・・」
「脱ぐ必要があるの!全く・・・あんたはどこから来たんだか」
カルディアは僕の服を全て脱がせる。
初めて全裸になったせいで少しスースーする。
「ほら、座りな」
僕は椅子のようなものに座らされる。
「うっ!」
シャーという音と共に水が噴き出す。
「ん?水は嫌いか?」
「いや・・・、そういう訳じゃ・・・。その、びっくりしたっていうか・・・」
「そうか、なら続けるぞー」
温かい水が頭にかかる。なんだか心地いい。
「水が濁ってる・・・。ほんとどこからきたんだか」
彼女は僕の頭をかき上げたり、ほぐしたりしながらお湯が頭の表面まで届くように何回も繰り返した。
「よし、この辺でいいかな」
彼女は水を止め、何かを手につけて僕の頭をかき回す。
「これは・・・?」
「シャンプーだよ。やったことないの?」
「はい・・・水を浴びたのも、服を脱いだのも初めてで・・・」
「マジで⁉︎」
「はい・・・」
「ほんとどこで育てばこうなるんだ・・・。しかし全然泡立たないな・・・。一回流すぞ〜」
僕はまた水を浴びる。
少しだけ頭が軽くなった気がする。
「もう一回洗うぞ」
再度彼女は僕の頭をかき回す。
頭に当たる指の感触が心地よい。
「そういえばどこから来たんだ?」
「えっと・・・、オブスクラシティっていうとこで・・・」
「オブスクラシティ・・・?初めて聞いたな。どこにあるんだ?」
「地下にあって、ここまではマンホールを使ってきました」
「地下・・・」
その時、扉がガチャっと開いた。
「ねえ、ナディエの着替えなんだけど・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・ば」
「?」
「ばかっ!変態!!」
「うわあっ!ごめん!ていうかなんでカルディアまで裸なんだよ!」
「うるさい!忘れろ!!」
フィルはどさっと何かを置いて走って去った。
「ほんとバカ・・・、なに考えて・・・」
カルディアの頬と耳は真っ赤だった。
「どうだ?スッキリしたか?」
「はい、とても気持ちよかったです」
僕はフィルから借りた服を着た。
「それにしても・・・」
カルディアはまじまじと僕を見る。
「な、なに?」
「でかいな、服」
「仕方ないよ、うちにはそれしかないから」
「あ・・・」
「・・・ごめんて。クッキー焼いたからさ」
「・・・まだ許してないからね。ナディエも一緒に食べる?」
「クッキーとは・・・?」
「ん〜おいし」
「カルディアさ〜、君の方が焼くの上手なんだから自分でやったらいいのに」
「あんたが作ったから美味しいんだよ。あーしにはない美味しさがある」
「そう?」
「そうさ。人間誰しも同じように作ったって全部が全部同じようにできる訳じゃないよ」
二人は楽しそうに談笑する。
「ほら、ナディエも食べなよ」
そう言ってフィルは一枚のクッキーを渡す。
初めて見るクッキーは、とても異質なものに感じた。
あそこでは触ったことのない感触、嗅いだことのない香ばしい香り。
「あむっ」
一口食べると、今まで感じたことのない甘味とサクサクした食感がなんとも言えない。
僕は、これが一番の幸福だなと感じた。
同時に、二人にも食べさせてあげたかったなと思った。
「ナディエ、嫌じゃなかったら君がいた場所について聞かせてくれないか?」
「・・・うん、わかった」
僕はあそこでの生活や仕事、出来事などを話した。
いつも薄暗くて、空腹であること。仕事で何回も火傷を負ったこと。
そして・・・アステル姉さんとレントのこと。
「そっか・・・大変だったね」
フィルは僕の頭を撫でる。
どこか心底安心した気がする。
そういえば・・・姉さんもやってくれていたっけ。
「よくここまできたね。君はそれだけで偉いよ」
「うん・・・ありがと」
フィルの優しい言葉に思わず涙が出そうになった。
その間、カルディアはずっと考え込むように下を向いていた。
「ねえ・・・フィル」
「なに?」
「あーし達、オブスクラシティなんて単語聞いたことあったっけ?」
「ううん、ないね。今までで、一度も」
「だよね・・・。そんな地下都市はあるなんてなんで教えないんだろう」




