第一章・第三幕:絶望
「はい、パン一つで銅貨12枚だな」
僕はポケットからありったけのお金を出す。
ピッタリ12枚。・・・仕方ない。
「はい・・・」
「ピッタリだな、まいど」
僕ら子供が稼げる給料なんて大人の4分の1くらいだ。
お金がなきゃ生きていけない、そんなのは当たり前だ。
順当に働いてお金を稼ぐかあるいは・・・
「・・・・・・」
こうやってその辺で死んでいる死体から奪い取るとか。
まあ・・・その人たちはあんまり持っていないけれど。
「銅貨3枚・・・か」
この人も精一杯生きたんだ。ありったけの『お疲れ様』を。
僕は数回、その死体の頭を撫でた。
「なあナディエ」
「なに?」
僕はパンをかじりながら答える。
「ちょっと後ろ向いて?」
「え、なんで?」
「いいから」
僕は言われるがままに後ろを向く。
すると、なにやらレントは僕の髪をいじり出した。
「なにやってるんだ、汚いぞ」
「まあいいからいいから」
その時、首元が急に涼しくなるのを感じた。
「はい、できた」
「なにしたの?」
「髪を一つに結んだ」
今まで邪魔だったものがなくなってとてもスッキリする。
「似合ってるよ、ナディエ」
「あ、ありがと・・・」
彼は小さく笑った。
「つ、疲れた・・・」
「おつかれレント、はいこれ」
僕は一杯の水を渡す。
「あ、ありがと。なんだか悪いね」
「別に気にしないで」
彼はグイッとそれを飲み干す。
「・・・・・・」
「ん?なに?」
「いや、なんでも・・・」
なんか・・・不意に彼がカッコよく見えた。
顔が熱くなる。さっきまで体を使った仕事をしていたからだろうか。
「あのさ・・・・・・ナディエ」
「な、なに?」
彼の頬と耳は真っ赤に染まっていた。
「俺、お前のことが・・・・、その・・・」
「おい、お前ら」
その時、彼の言葉を割って入った低い声。
・・・この街の至る所に転がっている死体の死因。
餓死、栄養失調、脱水など色々あるが、いくつか不自然なものがあった。
明らかにこの街では健康体なのに死んでいるもの。
そのほとんどが子供や女性。つまり・・・。
僕らの目の前にいる銃を持ったこいつらに殺されたのだ。
「⁉︎」
レントは僕の手をとって走った。
「おい!待て!!」
奴は一発の弾丸を発射する。
ヒュンという音が耳を掠める。
「大丈夫だナディエ、僕らの方がここに詳しいはずだ」
彼は息を荒げながら言う。
「このまま大通りまで行こう、追い詰められたら最悪あの扉のところまで行けば逃げられるはずだ」
「わかった。レント、信じるよ」
僕たちは狭い路地を抜け、大通りに出た。
「このまま大通りを歩こう」
「早く遠かった方がいいんじゃ・・・」
「大丈夫、奴らは走ってる人が追いかけてた奴だと思うだろ?その心理を逆手に取るんだ。周りを見ても僕らと同じようは服を着た人ばかりだろ?」
「確かに・・・」
「と言っても、前に殺されかけた時に姉さんに教えてもらったんだけどな」
「そうだ、姉さんは無事なのかな?」
「姉さんは大人に見えるし・・・多分大丈夫でしょ」
僕らはしばらく大通りを歩いた。
「そろそろ休まない?僕ちょっと疲れちゃった」
「そうだね、一旦あの路地に入ろう」
僕は壁にもたれかかるように座った。
「はぁ・・・、疲れた・・・」
「危機回避だね」
僕らは息が整うまで休憩した。
「あら?どうしてこんなところにいるのかしら?」
「えっ?」
目の前にはアステル姉さんがいた。
「ナディエ、怪我してるじゃない。どうしたの?」
僕らは今まであったことを話した。
「なるほど、それは災難だったわね。はいこれ」
姉さんは水を差し出した。
「いいの・・・?」
「えぇ、大丈夫よ」
僕らはそれを全て飲み干す。
「ナディエ、耳の傷を手当てしてあげるわ」
姉さんが小声で何かを呟いた。
「ここの人を減らしたって自分の首を絞めるだけなのに・・・」
僕はその言葉の意味がわからなかった。
「そろそろ行こうか」
「そうだね、僕も仕事があるし」
「私もついていくわ」
僕らは立ち上がり、大通りに戻り、また路地に入る。
「・・・もういないようね」
「ふう・・・、一時はどうなることかと・・・」
ヒュン、と言う音が後ろを掠める。
髪の束が地面にどさっと落ちる。
「マジか・・・」
「逃げるよ!」
僕らは姉さんに手を掴まれ、奴と反対方向に走り出した。
「なっ!!」
奴らに囲まれた。
「なあ・・・あんたら、俺らを捕まえるのに必死すぎないか?」
「動くな、動いたら殺す」
奴は冷徹な声で続ける。
「お前らのような奴のせいでここは乱れてきている。大人しく捕まれ」
そんなの、暴論すぎる・・・。
「じゃあ・・・あんたらはここを守っているとでも言うの?」
「口答えするな、大人しくしろ」
「あんたら、地上の人間だよな。服とか肌からしていい暮らししてるんだろ?あんたらの仲間に殺されかけることは何度もあった。その度に僕はどう思ったと思う?」
「・・・なにが言いたい」
「いい暮らししてる奴が下等生物を殺して楽しむ遊びみてぇに僕らを殺してんじゃねえよ!!もっと寛大な心でー」
「撃て」
バン、という音が響く、目の前には・・・レントがいた。
「うぐっ・・・!」
「レント!!」
「姉さん・・・、ナディエを連れて逃げて・・・」
姉さんはコクリと頷く。
瞬間、身体が宙に浮き上がる。
姉さんは僕を抱きかかえ、走り出した。
「待って!姉さん待って!!」
「無理よ、あなたも死んでしまうわ」
「いや!!僕は!!!」
その時、身体の中で何かが弾けた。
姉さんの腕を払い除ける。
「ちょっと、ナディエ⁉︎」
僕はいつもの3倍ほどのスピードでレントのところへ向かう。
「撃て!撃ち落とせ!!」
高い壁をいくつも光が反射するようにして銃弾を避ける。
足が痛い、そんなこと関係ない。
「うぐっ!」「ぐえっ!」「いっ!!」
奴らを一人、また一人と殴り飛ばす。
「レント・・・」
やっとたどり着いたレントは・・・。
「・・・・・・・・・」
息が、止まっていた。
「そう・・・あんたらがその気なら、こっちだって・・・」
その瞬間、身体の力が一気に抜け、崩れ落ちた。
奴らの銃口が一斉にこちらへ向く。
「僕も・・・、ここで・・・」
「無茶なことを・・・」
また身体が浮く。アステル姉さんが抱きかかえたのだろう。
「いくよ、落ちないでね」
「おい!待て!!」
銃声が一つ、また一つ。
血が噴き出す、姉さんの顔がこわばる。
「姉さん、もう、もう大丈夫だよ。だから下ろして・・・」
なにも言わない。
また銃声が一つ。
「あっ!!」
前に大きく傾き、僕は転げ落ちる。
「姉さん!」
「足に当たったみたい。大丈夫よ、あなたは逃げて」
「でも・・・!」
「逃げなさい、これは命令よ」
「えっ・・・」
「あなたは星に選ばれたの。私はいつもあなたのそばにいるわ。だから、お行きなさい」
何か強い衝動を感じる。
途端に逃げなきゃ行けない本能的な何かを感じた。
「姉さん、ごめんなさい・・・!」
僕は地面を強く蹴り、遠く・・・遠くへ走り出した。
「どう言うつもりかな?アステル・デネボラント」
「私にはわからないわ。あの子たちを守らなくてはならない、そう感じたのよ」
「そうか。では、貴様を反逆罪で死刑とする。いいな」
「はい」
なぜ、こんな重い処罰を受けることを知っているのに、あの子たちを守ってしまったのだろう。
私は・・・。




