第一章・第二幕:変化
「ナディエ・・・?」
「・・・ん?レント?今は眠いから後にして」
「わかった、じゃあ水はここに置いておくね」
彼は自分が着ていた上着を僕に被せ、去っていった。
きっと彼も仕事へ向かったのだろう。
「あったかい・・・」
こんな世界でも、人の温もりというのは実に落ち着くものだな。
僕はそのまま、眠りに落ちた。
気がつけば、レントとアステル姉さんが目の前で水を飲んでいた。
「あ、起きた」
「おはよ〜」
僕は置いてあった水を一気に飲み干す。
なんとも言えない味が口に広がるが、そんなこと言ってられないほど喉が渇いていた。
「そんな一気に飲まなくても・・・」
「仕方ないじゃん、死にそうだったんだから」
「あはは、じゃあこれもやるよ」
彼は自分のコップを差し出す。
「ん、ありがと」
僕は受け取った水をひと口飲んだ。
「・・・・・・」
「・・・なに?レント」
「いや、なんでも」
彼の頬が赤くなったのは気のせいだろうか。
「しかし、最近はパンを買うのもやっとだな」
「だね。闇市の値段はどんどん高くなるのに給料はあがんないし・・・どうやって生きろって言うんだよ」
「まあ・・・元々生きるために作られた都市じゃないもの」
「え?」
「姉さんは何か知ってるの?」
姉さんは優しく微笑む。
「知ってるよ、あなたたちの知らないことを、色々」
「例えばどんなの?」
「そうねぇ・・・」
僕らは今、広くて暗い通路を二人で歩いている。
「なあ・・・ほんとにここであってるのか?」
「あってるよ、姉さんも言ってたでしょ」
そう、僕たちは今、姉さんが話した『秘密の場所』を目指している。
『12番通路をずっと進んでいくと左側に消えてるガス灯があるから、そこの路地裏に入るの』
路地はとても暗く、狭い。
『で、路地を抜けるとあるわ』
「ふう・・・、狭いっつうの」
「レント・・・、あれ・・・」
目の前には、巨大な金属でできた扉があった。
不幸中の幸いか、扉は開いていなかった。
「なんだこれ・・・」
「この街にこんな場所があったなんて・・・」
僕は扉に触れる。
金属特有の冷たい感触を感じる。
「得体の知れないものには触れない方がいいって・・・」
「ねえ、レント・・・聞いて?」
「ん?」
「耳を澄まして」
微かに聞こえる幼い少女のような歌声。
「まさか・・・この扉から?」
「わからない・・・でも」
ふわふわとした感覚。
なんだか懐かしささえ感じる。
まるで、何かと重なるような・・・
瞬間、激しい頭痛が僕を襲った。
「いたっ、いっ・・・、あっあっあああ!!」
「大丈夫か⁉︎一体どうしたんだよナディエ!」
僕は頭を抱えて倒れ込む。
「おい!しっかりしろ!!」
どんどん彼の声が小さくなっていく。
「おい!ナディエ!ナディエ!ナディエ・・・」
気づけば、いつもの場所にいた。
「あ、気がついた?良かった、死んでなかったんだね」
「・・・レント?」
「ん?なに?」
彼が向ける優しい目は、なんだかいつもと違って少し濁って見えた。




