72 夫人の力量
どうぞよろしくお願いします。
シャルルは拳をテーブルに打ちつけると「母は金を持って逃げたのだから……」と呻いた。
そんなシャルルを宥めるように落ち着いた声でコーラスは話した。
「君の母上は自分の宝石を売った金しか持っていなかった。
そして、俺の母とメイド長が確認してくれたんだが、公爵に暴力を振るわれていたようだ。
母達が聞き出したことによると、シャルルとセシル嬢が領地に帰れるだけの金を公爵夫人が取り置いていたそうだな。それは公爵がこの旅に出る時に話をして保険として夫人が管理していたそうなんだが、結局、金が足りなくなった公爵に渡すように迫られ、暴力を振るわれ取り上げられたそうだ。
それで慌てて公爵の目を盗み、宝石を換金して、いざという時の資金を用意した。
でもシャルルが冒険者として稼いでくれたから、その金のことは公爵には内緒にしていたそうだ。
シャルルは自分で身を守れるだろうが、セシル嬢は無理だろうと気になり、公爵家を出ると決めたけれど決行はためらっていたようだ。
シャルルはエドワード王子に頼れそうだし、セシル嬢もレイオス辺境伯爵家に行ければ大丈夫そうだと。このチャンスを逃したら、次はもうないし、辺境伯爵家にもさらに迷惑をかけると……、旅の途中で決行したそうだよ」
そこで、コーラスはふーっと大きく息をついた。
「まあ、父も母も夫人と従者の話を聞いてえらく同情してね。
俺も見てきた公爵家の様子を伝えたりなんかして、真実だと、ふたりを信じることにした。
ふたりの前の身分は気にせず、我が家で使用人として受け入れると。
まあ、エイルズワース公爵の元に戻すことは彼らの死を意味しそうだしな……」
シーラが「エイルズワース公爵夫人の顔を父も母もわからなかったの?」と怪訝そうに言った。
コーラスが苦笑する。
「付き合いはないが何度か王城でお見掛けしたことはあるそうだ。
でも、髪型も化粧も服も全て質素な本当に使用人という風で現れて疑いもしなかったそうだよ。
俺も、最初、気がついたのが従者の方で、それで、公爵夫人に気がつけた」
そこまで話すと、コーラスは料理を口に運び始めた、が、気づいたように慌てて言った。
「シャルルには伝えても大丈夫だと思ったから言ったが、公爵とセシル嬢には様子を見て……、辺境伯爵夫人、後は頼みます」
ケリーが苦笑しながら頷く。
「皆様、このことは心の内に。
でも、安全に次の生活を始められていると聞いて安心できましたわ。
それもすべて心に収めておきましょうね。よろしくて?」
みんな大きく頷いた。
そして、夕食が再開し、コーラスがジョナサンやエド達からシャルルのことを聞いて「ほー、そういうことになってるのか!?」と目を丸くしていた。
カイエンがケリーのところに来て「夫人、今日は、おみごとでした」と称賛するように言った。
「あら? なんのこと?」
ケリーはくすぐったそうに笑う。
「私は夫と息子の補佐をしただけよ」
「いえいえ、『ハチ』のこと、今、みなさんに口止めをしたこと、本当に見事でした。
辺境伯爵やジョナサンが言ったら、弱味になったかもしれません。
夫人が言ってくれたことで、柔らかく、みんなの気持ちがまとまった気がします」
「ふふ、ありがとう。
さあ、明日からはもうひとり王子が増えるのでしょう!
気を引き締めていかないとね!
カイエン、あなたの弟さんに会えるのは、私達も楽しみにしてるのよ」
読んで下さり、ありがとうございます。
ケリー、大活躍。
ゴードン、影薄いな。でも、周囲はそう思ってないところがいいですね。
カイエンは薄々感づいているけど、他の人にはゴードンがケリーとジョナサンに指示をしていると思われてるんだろうな。




