57 やる気スイッチ
どうぞよろしくお願いします。
侯爵家の馬車の中ではセシルがとても楽しそうだ。
侯爵も気を遣っていたようだが、いつの間にか御者台の方へ行ってしまった。
そうなのだ。母親が従者と駆け落ちをして……、そんな不幸に合ってしまったわけで、みんなセシルに同情していたのだが……。
カイト、コーラス、シャルルにやさしくしてもらい、最初はおどおどしていたセシルだが、途中からだんだん雰囲気が変わってきた。
侯爵はそんなセシルに違和感を覚え、そばを離れたのだろう。
カイトとコーラスもそれは感じたのだが、彼らは席を外すこともできない。
不思議なことにシャルルはあまりそのことについて感じていないようだ。
セシルが喜々として昔の公爵家の豪華さや素晴らしい数代前のエピソードを話し続け、シャルルが補足しながら相槌を打ち、カイトとコーラスが曖昧に微笑む。
『これなら公爵家の馬車の御者の方がましだったかも……』とコーラスは思い、カイトは『シーラやミレーヌとは違うお嬢さんだな……。何だろう、幼いのか? いや、シーラやミレーヌの方が規格外!?』と考えていた。
「あー、とても楽しいわ!
さっきまでシーラがこの馬車で女性はひとりだったのよね!
……シーラは貴族令嬢なのよね?」
セシルがコーラスに聞いた。
「シーラが?
誰に聞いたのですか?」
「ミレーヌに教えてもらったわ。
昨日、ふたりに私のメイドにならないかってお話ししたの。
その時にシーラは貴族令嬢なのでと言われて……」
シャルルが無表情になり、茫然としたように呟く。
「おふたりにメイドを!?」
「ええ、今回は辺境への旅だから、メイドは必要ないって言われたけど、辺境伯爵に招待されて、お屋敷にしばらく逗留するのでしょう?
それなら、身の回りの世話をするメイドが必要でしょう?
そうね……、シーラがダメなら、ミレーヌだけでもメイドにって言えば良かったかしら?
今からでも……」
カイトとコーラスは即座に、ミレーヌが招待した側の辺境伯爵家の令嬢だとわかるとセシルが気にするだろうと隠したのだろうとわかった。
シャルルは首を傾げている。
コーラスが観念したように言った。
「シーラと俺はローレウス伯爵家の者です。
俺とシーラは双子で、俺が次男、シーラは長女です。
なので、家から出ることが前提で、友人のミレーヌとカイエンと……、冒険者として修行してみようと旅をしていたところでした」
「そうなの!
コーラスもシーラも伯爵家……。
お兄様! この場では私達のエイルズワース公爵家が一番上になるの?」
「一番上とか、そういう考えは感心しないな。
私達は客として招待して頂いている身だ。
身分のことは一度忘れて考えなさい」
シャルルがセシルを嗜める。
「でも、いつもお父様が……」
「家格ということであればそうなるが、それは王城で王の前に並んだ時のことだよ。
今、私達は辺境伯爵領にいて、そして厚意でお招きを受けているんだ。
父上は……、尊大な態度を取ろうとするかもしれないが、私達はきちんと謝意を伝えないといけないよ」
「そうね。
そういえばカイエンとカイトはどこの家の人なの?」
カイトは王都の男爵家出身で、長男であり、侯爵について勉強中であること。
カイエンはレンダート伯爵家の長男であること。
それを聞き出したセシルはふんわり笑った。
男爵と伯爵。どちらも長男か!
コーラスは次男だから……。
ジョナサンは辺境伯爵家の長男でもう後継になることが決まっていると……。
エドと呼ばれているエドワードは実は第2王子……。
マリオン侯爵も副宰相という地位についている方で、まだ20代後半のけっこうかっこいい感じでまだ独身……。
辺境伯爵家には兄様と同い年の令嬢と私と同じくらいの令嬢がいる。
これは……、より良い条件の婚約者を見極めて近づけってこと!? よね!
セシルはずっと同年代との社交をしてこない状態で、ジョルジュ王子に気に入られるようにと父に命じられ、屋敷のベテランメイドからお茶会=集団見合い=婚約者争奪の熾烈な戦い……、というような話を聞かされて育っていた。
今回のこの場が貴族令嬢としての戦場なのだ! と彼女に変なやる気スイッチが入りかけているのに誰も気がつかなかった。
読んで下さり、ありがとうございます。
やる気スイッチ!
おとなしそうで幼い感じの少女にやる気スイッチ入っちゃうと、どうなっちゃうんでしょうか?
そして、シャルルと一緒に狩りに出ていたミレーヌのことはもう平民と思い込んでいます。思い込みって恐ろしい、本当に気がつかないことがある。




