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54 気持ちの行方

どうぞよろしくお願いします。

 馬車は置いてあったが、馬は消えていた。


「参ったな……」


 ジョナサンは街へ出て行き、馬を調達してきた。

 しかし公爵家の馬車の御者をしていた従者がいなくなったのだから、誰かがしなくてはいけない。

 公爵が自らすることは……ない。

 シャルルに確認したが無理だろうとのことだった。


 シーラが手を挙げた。


「私がするわ。

 代わりにセシル様をこちらの馬車に」


「えっ? なら私も御者をやってみたい!」


 エドの言葉にシーラが微笑んだ。


「じゃあ、一緒に御者台に座りましょう!」


 バルドが慌てて「エド様は御者なんてしたことないでしょう!? そんなにやりたいなら教えますけど」と言ってから、シーラに向かって言った。


「こちらの馬車に残って下さい。私が御者をします」


 エドが露骨にがっかりする。


「どうせならシーラが良かったのに……」


 シーラが笑う。


「エド様は御者をやってみたいのでしょう?」


「ああ、やったことないし」


「馬に乗ったことは?」


「そりゃあるよ!」


「じゃあ、今度、その時は御一緒します」


 ジョナサンがコーラスを見た。

 コーラスは訝しげな顔でシーラとエドを見ている。


 コーラスを後ろに乗せている騎士に、ジョナサンが声を掛けた。


「すまんが公爵家の馬車の御者を頼む。

 侯爵家の従者のバルドも一緒にしてくれるそうだ!」


「えっ!?」


 バルドがどういう話なのだろうと驚いている。

 ジョナサンが説明した。


「エド様とバルドとシーラが抜けたところにセシル嬢とコーラスに入ってもらいましょう。

 ネコもいましたよね。

 侯爵家の馬車の御者はこちらの騎士とバルドにやってもらい……。

 騎士の馬が空きますから、エドワード王子、どうぞシーラを後ろに乗せてやって下さい」


 シーラが『え!?』という表情でジョナサンを見る。


「これでシーラの願い通りだろ?」


 ジョナサンの言葉を聞いたシーラの表情に一瞬だけ動揺が浮かんだ。ただ、すぐいつもの微笑みに戻ると頷いた。

 コーラスはジョナサンとシーラを交互に見て、軽くため息をつく。


 騎士とバルドが新しい馬をつけた公爵家の馬車の御者台に座る。

 馬車にはひとりきりで公爵が乗っていた。今はひとりにしておいた方がいいだろう。


 空いた騎士の馬にはエドワードが乗り込み、シーラを後ろに乗せる。

 その様子を見ながら、先にジョナサンの馬の後ろに乗り込んでいたミレーヌが小さな声で言った。


「兄様……、シーラのこと、いいの?」


「何が?」


「その……、シーラは……」


「シーラがそう望んだんだから……」


「うーん、そうじゃなくて……。

 シーラは本当はさ……。兄様だってわかってるんじゃないの?」


「私は嫌がる相手には婚約は申し込まないよ」


「そういう話じゃなくて、どっちかからでも、まず言わないと、このまま……」


「私はシーラが望むようにしてやりたい、と思っている。

 ……妹のような、ところもあるしな」


「嘘だね。

 そんなことしていると、本当に取り返しがつかなくなるよ」


「……いつからそんなに人の気持ちに鋭くなったんだ?」


「つうか、兄様とシーラはお互いに気にしてるのに、おかしいよ。

 ずっと見てきたから、まあ、恋とか愛とかに鈍い私でもわかることもあるよ」

読んで下さり、ありがとうございます。

本人により周囲の方が気づくあるある。


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