49 腹立つな
どうぞよろしくお願いします。
「あ……、うわ……」
シャルルが見たくないのに恐ろしくてコボーから目が離せずといった様子で、震えながら見続けていたが、立ち去ったのを見て、その場にへたり込む。
エドが「カイトの防御魔法か?」と聞いた。
「はい」とカイトがほっとしたように返事をしている。
ミレーヌは甲虫の殻に近寄った。
「うわ……、すっごくきれいに食べてら……。
甲虫のこの殻が素材になるんだよね。
これも売れるっちゃ売れるんじゃ?」
カイエンも近づきながら言った。
「そうだな。でも、エド様も見たいんじゃないか?」
「ああ、見せてくれ!!
おお、こんなに舐めたようにきれいに……」
喜々として観察を始めた。
公爵が少し離れたところで「シャルル、だらしがない!」と叱責しているが、シャルルは言い返す気力もないほど打ちのめされいる様子だ。
「腹立つな……。
あんな大型魔物の前に急に押し出されたら、誰だって怖気づくよ」
ミレーヌが小さな声でカイエンに言う。
「そうだな、あれは公爵が悪い」
エドが甲虫の殻を観察し終わりカイエンに手渡しながら言った。
「ネズミの罠がいい頃なのでは?」
みんなでネズミの罠を巡っていく。
公爵と令息だけで、従者がいない。
夫人と令嬢の世話のために置いて来たのか、それとも、従者の装備まで用意できないほど……、困窮しているのか?
ひとつめ。瓶の中で小さなネズミがうじゃうじゃもがいている。
「うあ……、大漁だけど、なんか気持ち悪い……」
ミレーヌはそう言いながら用意していた、空気穴をあけた蓋をしっかり閉めて、さらに布袋に入れた。
カイエンが収納する。
ふたつめ。こちらはあまり入っていないのに幼虫の切り身がほとんどない。そして、草の茎が何本か瓶の中に入っている。
「……草を伝って逃げたのでは?」
エドが言い、ミレーヌが「そうか! だから、大きめの個体は茎がぐにゃってなって、残っちゃったのかも!?」と答える。
「うーむ、このネズミも思っていたより知能が高そうだ」
みっつめ。先客がいた。コボーだ。1頭のコボーが瓶を埋めたあたりを足や嘴でがりがりしている。
公爵が「シャルル!」と怒鳴った。
「今度こそ、勇敢なところをお見せするのだ! いけ!!」
「嫌です……」
シャルルは後退りした。
「お前は! 剣だってそこそこできるだろうが!」
エドが公爵に声を掛ける。
「嫌がる者に無理強いはよくない」
公爵は苦笑する。
「そうですが……、あの見事な大物に誰も挑まないとは!
この領地の冒険者は命がよほど惜しいようですね」
エドがうんざりしたように言った。
「命は大事だ。
冒険者も私も、シャルルもな。
それは王族でも貴族でも冒険者でも変わらん」
「それはそうですが……、しかし、冒険者は魔物と戦ってこその冒険者でしょう。
それにこの娘はヒーラーでもあるじゃありませんか!
怪我しても治せるのだろう!
何をそんなに力の出し惜しみをしているのだ?」
そう言いながら公爵はミレーヌの腕をつかんだ。
「ほら、やってみよ!
王子に雇われているのだろう!」
バルドが「彼女は王子の友人……」と言いながら止めようとしてくれる。カイエンもこちらに来ようとした。
ミレーヌは強い視線でそれを制した。
公爵はそれに気がつかない。
「公爵は……、素晴らしい剣をお持ちですね。
お貸しいただけませんか?」
ミレーヌの言葉に公爵はうれしそうに返事をした。
「小娘にもこの剣の素晴らしさがわかるか!」
そうだな。我が家の剣であの魔物を倒す栄誉を与えてやろう!」
読んで下さり、ありがとうございます。
やっちゃえ!
今日は一日仕事です。
午後の投稿はできません。ごめんなさい。
明日はお休みなので、もう少し話を進められると思います!




