43 ネコの飼い主
どうぞよろしくお願いします。
「そのネコはギルドに?」とコーラスが聞いた。
「ギルドに預けてきた。
でも、夕方の時点で、探しているという申し出はないそうで……」
シーラがちょっと慌てたように言った。
「ネコを探しているという家族がいたのよ。
貴族で、街に入る時にネコが逃げちゃったとか」
食事もちょうど終わりかけだったので、慌てて片付け、コーラスとカイエンは温泉施設に話をしに行き、ミレーヌとシーラはギルドに先に行っていることにした。
ギルドに入るとちょうど一緒にネコを洗ってくれた職員がいて、温泉に来た貴族がネコを街に入る前に逃がしてしまったと話をしていたそうで、カイエン達が確認に行っていると伝える。
ネコは紐をつけられていて、職員が奥から連れて来てくれた。
ミレーヌのことを覚えていたらしく、抱っこしてもらうともう安心とばかりにのどをグルグルさせている。
「あら、命の恩人のことは覚えてるみたいね。
ネコは薄情なところがあるっていうけど、愛い奴め」
シーラが笑いながら手を伸ばし、あごをくすぐってやっている。
しばらくすると、コーラスとカイエン、そして貴族らしい男性とその息子と思われるふたりがギルドに一緒に入ってきた。
ミレーヌの姿を見て、カイエンが手を挙げる。
「ミレーヌ! やはりそうだったみたいだ!」
父親らしい男性はミレーヌの腕の中のネコを見て「見つかって、良かったな」と言った。
その時、馬車の音がして、貴族夫人とその令嬢といった感じのふたりが従者と一緒に入ってきた。
ネコの耳が少女の方へくるっと動く。
「フランソワーズ!!」
少女が叫んでこちらに走ってくる。
ネコは少女の方へ身を乗り出したので、ミレーヌは少女の腕の中へネコを行かせてやった。
「ああ、フランソワーズ! ごめんね! 私がちゃんと抱っこしなかったから!!」
貴族令嬢と思われる12、3歳の少女が涙を流してネコに頬ずりしている。
「あなたがフランソワーズを助けてくれた方ですね」
その子の兄なのだろう。
最初に到着してギルドの職員から話を聞いていた男性と息子のうち、息子の方が話し掛けてきた。
ミレーヌ達と同世代に見える。
「妹がパテマに入る直前の休憩の時に、馬車の外で大きな鳥が低く飛んできて。
妹がうずくまり、フランソワーズも怯えて逃げ出してしまったんです。
すぐ草むらに紛れてしまって。見つからずで。とりあえず街に入り、態勢を整えてから探しに行こうという話になっていました。本当にありがとうございます」
「ギルドに届け出だけでもされてると、もっと早くお知らせできたんですが」
ミレーヌの言葉に父親の方が会話に入ってきた。
「自分達で探そうと思っていたのでな。
宿の者には伝えてあり、人手を集めるようには伝えていたが……。
助かった」
それだけ言うとそのまま行こうとしてギルド職員が声を掛けた。
「彼女達は狩りを中断してまで、ネコを保護してギルドに届けてくれたのですよ」
「それは、当たり前のことだろう。
なんだ、この領では、なんでもかんでも依頼にして、当たり前のことでも金をせびろうというのか?」
「父上! 何もそんな言い方をしなくても!」
息子が咎めるように言ってくれたが、それがかえって癇に障ってしまったらしい。
「辺境伯爵領はやはり野蛮だな。
野蛮な地には野蛮な者が住む。
人助けをしてやったと金を要求するような。
さすがレイオス家。
魔王を退治したからと当たり前のことをしたのに貴族爵を強請り取った元平民なだけのことはある。
ネコを助けるのも、結局は金か!」
ミレーヌは思わぬことで自分の家が貶されているのを聞いて、顔をしかめている。
「エイルズワース公爵!
こんなところで会うとはな!」
入口の方から大きな声が響き、男性は振り返り驚愕した表情を浮かべた。
「エ、エドワード殿下!?」
読んで下さり、ありがとうございます。
公爵のくせにケチですね。
思いっきり日本ネコっぽいのにフランソワーズ、ですわ。




