25 気にしないで!
どうぞよろしくお願いします。
「そうやって、なんでも、あげちゃうの?」
ミレーヌの目の前にいたのはカイエンで、ミレーヌは後退りしてひっくり返りそうになる。
カイエンの方が慌ててミレーヌの腕をつかんで引き寄せた。
同じくらいの背丈なので、顔が近く、目がばっちり合ってしまう。
「危ないな……、本当に。心配した……」
「ただの散歩で……」
「散歩でも、ひとり歩きはダメだよ」
ミレーヌをしっかり立たせてくれ、髪をさらっと撫でた。
「下ろしてるの初めて見たかも」
「えっ? あ!」
ミレーヌが慌てて髪に手をやり、そしてため息をついた。
「代り映えしないでしょ?」
「いや、どんなミレーヌもかわいいよ」
「あはは、もうそんなお世辞言わなくても……。
そういうことは本当に好きな人にだけ言うようにしないと……」
そう言いながら、ミレーヌは顔を背けて歩き出す。
カイエンがついてくる。
「ごめん、探してくれたんだよね。
心配かけました。もう、戻ります。
いなくなったのがばれてるということは……、シーラとコーラスも探してる?」
「いや、ふたりは宿で待ってる」
思いがけない言葉でミレーヌはちょっと驚いて、少し振り返る。
「……カイエンだけ? なんで?」
「俺がそうしてくれと頼んだから。
ミレーヌのことは俺だけが探したかった」
「こ、婚約者だから?
もう、そんなの気にしなくていいのに!」
ミレーヌがわざとらしい微笑みを浮かべて言った。
もう少しで大通りに出る。
「俺は、リボンのようにはいかないよ。
ミレーヌが誰かに譲ろうとしても、絶対に譲られてなんかやらない」
「譲るって……、そんなんじゃなくて。その……、自由にして欲しいっていうか。私のことは置いといていいから、好きな人がいたら、気にせずそっちに行って欲しいっていうか……」
「……ミレーヌのことが好きなのに、そんなこと思うわけないだろ」
「わかんないよ。
婚約者だからって思い込んでるだけかもしれないじゃん。
まだ1カ月だよ。私達、婚約者ですって言われて、まだ1ヶ月。
それに、他にもほら、よくある小説の、真実の愛とか! 本当に好きな人に出会っちゃうこともあるじゃない!
いろいろ見たらいいんじゃない!?
あ、それも、変? あれ?」
「……ミレーヌもその真実の愛とかの相手ではと思う相手がいたら、俺を捨てるの?」
「え? 捨てるもなにも、カイエンは、私のものじゃないもの!」
「じゃあ、他人に押しつけたりもしないで欲しいな」
「他人って、シーラは他人じゃ……っ!」
言いかけて慌てて口を両手で押さえるミレーヌ。
「シーラも怒ってたよ」
ミレーヌが目を見開いてカイエンを見た。
「……コーラス!?」
「ああ、コーラスが全部話してくれた。
なんで、そんなことに?
気になることがあったら、俺に直接言えばいい」
大通りに出た。
もう言い合いができる雰囲気ではない。
ミレーヌが黙って宿の方へ足を進めようとすると、カイエンが手を握ってきて、引っ張られた。
読んで下さり、ありがとうございます。
カイエン頑張れ!
ミレーヌ、いい子なんだけど、自分より、人を優先しようとするところがあります。
勇者気質とでもいうのか……。そこはひい爺様似です。




