23 自立への一歩
どうぞよろしくお願いします。
「なんでそんなことに!?
ミレーヌが嫌がらないようにゆっくり丁寧に……」
カイエンが慌てたように言う。
「あー、途中までは良かったけど、ちょっと……。
婚約者で時々会いに来ていたミレーヌより先に俺やシーラに素を見せたろ。まあ実力を見たかったってことと戦闘だから、丁寧になんて言ってられないしな。
ミレーヌはそれに気がついて、シーラの方がカイエンは話しやすいのではないか、心を開いたと感じたようだ。
もともと、ミレーヌは貴族令嬢らしくないと、自己肯定感が変に低いところもある。そこにはまっちまったんだな」
カイエンが部屋から出ようとして、何かに気づき、また座った。
コーラスも頷いた。
「そうだな。今、シーラが話して……。それでどうするかだな」
シーラは部屋に戻るとミレーヌのベッドに「ミレーヌ?」と声を掛けた。
「寝てるの?
……寝てたら返事できないか?
ねえ、ミレーヌ、起きて! 話があるの!」
ベッドの布団はピクリとも動かない。
「ミレーヌ?」
布団に触るとふわっとへこんだ。あまりに手応えがない。
布団を慌ててめくると、ひざ掛けやクッションなどの宿の備品を突っ込んで布団の形を作っていたようだ。ということは……。
「ミレーヌ!?」
シーラは慌ててミレーヌの荷物を確認した。
剣は置いてある。
カバンなどはない。
とりあえず、街をぶらっとして帰ってくるぐらいの気持ちで散歩に出たというところか。
コーラス達の部屋に戻ると、ミレーヌの姿がなく、剣は部屋にあることから散歩に出たのではと報告した。
「剣を置いて?」
コーラスが慌てて外していた防具をつけ始めて「探してくる!」と言ったが、カイエンが止めた。
「コーラスとシーラはここにいてくれ。
俺が行く。行かなくちゃいけない」
ミレーヌはギルドの前にいた。
あの時、何故か、シーラとカイエンをふたりにしなくてはと思い、ケーキ食べたかったのに……。
我慢してしまった。
我慢してしまったことから、やり直そうと思ったのだ。
そこから自分らしくなかった。
シーラとカイエンの幸せを願うにしても、自分が悲しくなるやり方はダメだと思った。
ギルドの前で周囲をぐるりと見回す。
たぶんカイエンが話しながら見ていたのは、あのお店かな?
その菓子店に向かって歩き出した。
ひとりでお店に入り、ケーキと紅茶のセットを頼む。席に案内され、座るとほっとしている。
私、ひとりでもできるじゃん。
そうだよ、こうやって、ひとりでもできることを増やして……。シーラにもカイエンがいるから……。
ケーキと紅茶が届き、ゆっくりと味わって食べているが、あっという間に食べ終えてしまったことに気がつき、苦笑する。
「次は本屋にでも行ってみるかな……。
あ、先に本屋で、本を買って、ここで読むでも良かったかも……」
菓子店を出て、本屋に向かって歩く。
あ、コーラスと武器屋行かなかった。悪いことしちゃったな。
「ミレーヌさん?」
声を掛けられた。
読んで下さり、ありがとうございます。
ミレーヌ、なんだか変な方向に努力を始めています。




