174 このままでは
どうぞよろしくお願いします。
クルトは再び市場へ行き、よくあるデザインと色を考えて、男性の上着を買った。
水と食料、コボーの餌になりそうな肉の切り身や野菜も買い込む。
明日の朝一で出発しよう。
とりあえず、どこまで……。
しかし途中で別れるのは……。何かしら収入が得られて安心して生活できるような環境でないと。
ただ、ミレーヌとして冒険者登録をしてしまっているので、もう別の名で登録はできない。冒険者としてギルドの仕事をしたり、狩った獲物を持ち込むこともできない。
宿に戻り、ミレーヌに上着を渡す。そして水と食料を渡しておく。何かあった時のために。
そして、これからのことを相談するために、なぜ家出をしたのか、聞いた。
「カイエンには愛している人がいたんだよ。
どうやら、伯爵夫妻には反対されちゃいそうな人で。
だから、婚約をと急かされる年齢になってきて、彼女との結婚は諦めて、ただ生まれつきの婚約者だった私と婚約、結婚しようとしてたんじゃないかな。
はあ……。私なんかのことを好きだって言ってくれるから……。信じちゃったし、私も好きになっちゃったのにな。
でも……、好きな人だから、幸せになってもらいたいし。
本当に愛している、結婚したい人と幸せになってもらいたいから、私は身を引くことにした」
「それでいいんですか?
カイエンに、何も確かめずに?」
「うん、確かめたら……、私、どうなるかわからない……。だから……」
ミレーヌがぎゅっと身体を縮こませるように小さくなっている。
クルトはため息をついた。
「わかりました。
とりあえず、協力しますが。
金はどれくらい持っていますか?」
「魔王討伐の褒美もあるし、大きなお金だけだと金貨5枚と銀貨が15枚ぐらいってとこかな。
当分はもつと思う。
野営のための簡単な道具や毛布、服は兄様のお下がりなど持ってる。剣も薬も布なんかも」
クルトは頷いた。
「わかりました。
先ほど頂いた銀貨3枚を旅費に当てます。
もう、レンはお金を出さないように。
まだ、ここまで捜索の情報は届いていない。
明日、朝一で出発しよう。
部屋は一緒ですが、もし嫌なら……」
「大丈夫、嫌じゃない。
その、クルトのことは信用してる。兄っていうか師匠って感じ」
クルトはふはっと笑った。
「私はギルドの職員として、辺境伯爵家のお嬢さんのこともカイエンのことも……、知っていますからね。
これから知り合う人は、そんなことは知りません。
男の格好をしている女性だとばれたら、何をされるかわかりませんよ。
それだけは十分に用心して下さい」
クルトの真剣な様子に、ミレーヌも真剣に頷き返した。
「わかったよ、兄さん」
「これからのことをもう少し話さなくてはいけないが、明日の移動中に話そう。
それでは、おやすみ、レン」
「おやすみ、兄さん」
クルトとミレーヌはそれぞれのベッドに横になった。
まもなくミレーヌのベッドから寝息が聞こえてきて、クルトは苦笑した。
さて……、レンはこの先どのように身を立てたら生きて行けるのだろうか……。
本当にカイエンから離れることが、彼女の、ふたりの幸せなのだろうか?
しかし、今、そう言っても、彼女は聞かないだろう。
最悪、クルトから黙って離れる選択をしてしまうかもしれない。それだけは防がなくてはならない。
今は、このまま、一緒に行動するしかないだろう。
読んで下さり、ありがとうございます。
クルトはまだ若いです。ジョナサンよりちょっと年上、22歳くらいな感じです。
ギルドでは中堅職員で動物好き(ネコ好きだったし)なので、パテマではそういう仕事を任されることが多いです。
コボーに乗って一人旅ができると判断されているほど、剣術の腕も確かです。
今のところ、将来のギルドの幹部候補な感じ。




