173 少年として
どうぞよろしくお願いします。
クルトは旅の途中、ミレーヌの髪をきれいに切りそろえた。ちょうど顎と同じくらいの長さになる。
貴族の少年には多い髪型だ。
「わー、シャルルみたい」
能天気にそんなことを言って、小さな手鏡を見ているミレーヌにため息をつくクルト。
「本当にいいんですね!?
……では、これからお嬢さんは男の子で私の……、弟としますか……。
それでなんと呼べばいいですか?」
「ミ……はないか。レーヌ? レンとかは?」
「レン、いいでしょう。
あなたの名前はレン。私の弟。
ですが、街では宿から出ないで下さい」
こくりと頷くミレーヌ。
「迷惑をかけてごめんなさい」
「今は急いで移動しなきゃなので聞きませんが、落ち着いたらでいいので、ちゃんと説明して下さいよ」
ということで最初の目的地であるザイマに到着した。
王都から馬車で2日という街だ。
すぐに宿を取り、ミレーヌを部屋に入れるとコボーを連れてギルドに向かい、用事を済ませる。
探し人の情報が入っていないかギルドの様子を窺っていたが、まだ連絡はここまで回っていないようだ。
対応してくれたギルド職員が「次はカラコムのギルドか。あそこは水が貴重だから多めに用意していくといいよ」とアドバイスしてくれる。
「ありがとうございます。
こちらの方に来るのは初めてで……」
「そうだよな。レイオス辺境伯爵領のパテマじゃ、まるで反対側だもんな」
クルトは街の市場ですぐに食べられる物と水を買い込むと宿へ戻った。
「レン、ただいま」
「おかえりなさい、兄さん」
ミレーヌがうれしそうに迎えてくれる。クルトはフッと笑ってしまった。
閉じ込めているようでかわいそうだが、まもなくこの街にも情報が回るだろう。
その時に少年の格好をしたミレーヌの話が出てしまうと、まずい。
「食べたら、もう一度買い物に行ってきます。
ここからしばらくは野営や村に泊めてもらう旅が続きます。
何か必要な者がありますか?」
「男物のフード付きの上着があれば。
女物は持っているんだけど……。お金は払います」
ミレーヌは収納魔法から財布を出し、銀貨を3枚クルトに渡した。
「私の分の食べ物もあるでしょ?」
「……私もやめた方がいいかもですね」
「あ、僕?
僕の食べ物の分もあるし!」
クルトは銀貨を受け取ったが「お金のことについては後で話そう」と言って、まず食べることにした。
食べながらクルトはミレーヌに今はしていないブレスレットの魔道具のことを聞いた。
腕にカイエンからプレゼントされた魔道具のブレスレットをしていて、それがカイエンと繋がっていると聞いたような……。それならば、カイエンの魔法が掛かっていて、簡単に外すことはできなかったはずだ。
「ブレスレットは外したよ。
あれでカイエンに見つかっちゃうから。
魔道具屋で聞いたの。ああいう、魔道具は私の魔力と肉体に反応してサイズが伸び縮みしているんだって。だから、ぴったりなのにきついとかないわけ。で、私の身体なら、つまり指を突っ込んだりして一時的に広げるようなことはできる。でも、手を抜くことはできない。何かしら私の肉体、つまり身体の一部が入ってないといけないらしい。私から離れないようにってね」
「それで髪を?」
「いろいろやってみたんだ。
ブレスレットに片方の手の指を突っ込んでみたら、ゆるくなって両手を入れることはできた。試しに髪を差し込んでみたらそれも大丈夫だった。
だから、ブレスレットの手に髪の中ほどを握り込んでおいて、片方の手で広げておいて握り込んでいる手を引き抜いたら髪の束にブレスレットが上手くはまってさ。手や指は切れないけれど……」
「なるほど……。それで髪を」
「うん、自分の髪を切るのが難しくてガタガタに斜めってたね」
クルトはため息をついた。が、内心はミレーヌの思考力と行動力に改めて感心していた。
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